特撮→BLドラマは新たなスター街道に 若手俳優の“トリセツ”を抽出するための試金石

新しいクールのテレビドラマを見るとき、どんなことに期待するだろう? 僕の場合、主演俳優よりむしろ脇の若手俳優の初登場場面が気になる。そのワンショットが鮮やかにキマってくれるとドラマ全体の見通しが立ち、制作サイドの行き届いた采配を感じて、期待値は倍々になるからだ。

例えば、2014年に新設され、『ダメな私に恋してください』(2016年)放送以降、ラブコメに関して屈指のブランド力を誇るTBS火曜ドラマ枠で、2021年に放送された『着飾る恋には理由があって』。川口春奈と横浜流星の存在感にかすむことなく、第1話から若手オーラ全開だった高橋文哉には、その後の飛躍が約束されたきらめきを感じた。実際、高橋は『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(2022年/日本テレビ系)でも同様の役柄を経て、恋愛映画初主演作『交換ウソ日記』(2023年)でラブコメ作品の登頂に成功している。

高橋に感じる次世代スター俳優像は別格だとして、他にも『わたしのお嫁くん』(2023年/フジテレビ)の前田拳太郎には少なくとも10年にひとりの逸材感を僕はキャッチした。同作第1話、オフィス内の場面で前田が「春らんまん」という第一声で初登場すると、画面全体にぱあっと広がる芳香の色っぽさに軽くめまい。あの華やかな存在感。100万本のバラの花々を可視化するみたいなポテンシャル。ラブコメ作品とは、若手俳優の“トリセツ”を抽出するための試金石なのだとつくづく感じた。

2020年代の登竜門となったBLドラマ
なるほど、高橋も前田も特撮ドラマ出身の俳優である。『仮面ライダーゼロワン』(2019~2020年/テレビ朝日系)に主演した高橋は、21世紀生まれとして初のライダー俳優。記念すべき出自からしてやっぱり特別さを物語っている。『仮面ライダーリバイス』(2021~2022年/テレビ朝日系)で前田が体現したそよ風が吹き込むようなライダー俳優像も忘れがたいが、今や特撮ドラマというのは、若手にとっての登竜門というより、その俳優が化けるかどうかの実験場というか、若手のための初等教育のような役割になってるんじゃないかと思う。

あるいは、高橋と『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021~2022年/テレビ朝日系)の駒木根葵汰(きいた名義)が同シーズンで出演した『太陽とオオカミくんには騙されない』(2018年/AbemaTV)などの恋愛リアリティ番組を初等、ないしは中等に位置づけることもできる。ここをクリアした先に高等教育にあたるラブコメ作品などへの入門が許される。そんなシームレスな流れがある。ただし、ラブコメ作品需要の全盛期があくまで2010年代にあったとするなら、2020年代の必修科目(登竜門)は、BLドラマということになる。

主に少女漫画作品を原作とする、所謂“きらきら映画”が、実写化王子の異名を取った山﨑賢人主演の『オオカミ少女と黒王子』(2016年)を頂点としていた頃、一方でちょうどBLドラマ作品がじわじわ浸透し始めていた。2010年代から徐々にBLマンガの実写化が増え、赤楚衛二と町田啓太が繊細なモノローグでふるわせ、安達&黒沢の『チェリまほ』コンビが激萌えだった『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年/テレビ東京系)を経由し、萩原利久と八木勇征が“ひらきよ”という新たなコンビ愛を育んだ『美しい彼』(2021年/MBS)が、BLドラマの決定打となった。

同作の第1話冒頭、教室に入ってきた清居奏(八木勇征)に平良一成(萩原利久)が釘付けになり、「まるで引き潮に乗せられたみたいな感覚。引力めいたものに引きずられて、彼から目が離せない」ともらすモノローグは、BLドラマの世界観を定義づけたと僕は解釈している。エポックメイキングは、2022年4月から新設されたMBSの「ドラマシャワー」枠だ。KADOKAWAのBLレーベル「トゥンク」と連動しながら、毎クールBLドラマを放送する驚異の量産体制を可能にした。2020年代は、まさに空前のBLドラマ制作ラッシュ突入を宣言し、ストリクトリーなブランドイメージだけれど、実に風通しがいい新たな1ページをエンタメ史に加筆したのだ。

外と内の重層的な演技力が試される場所
当初1年間限定での放送枠だったドラマシャワーは、2023年以降も継続され、現在までに12作品を放送している。その内、主演俳優の半数以上が、特撮ドラマ出身者ないしは恋愛リアリティ番組出演者で占められている。同枠が、若手俳優のキャリアを底上げするスタンダードなコースとなっていることは明らか。MBSの別放送枠「ドラマ特区」に目を向けてみても、『君となら恋をしてみても』(2023年)の日向亘は、前田と同じ『仮面ライダーリバイス』出演で勢いをつけてBLドラマ主演につなげている。はたまた『仮面ライダーギーツ』(2022~2023年/テレビ朝日系)では演技未経験だった佐藤瑠雅が、現在放送中の『彼のいる生活』(TOKYO MX)で早くもケレン味を感じる快演を発揮。BLドラマという登竜門をくぐった先に飛躍が確約されているわけではないけれど、まだ演技経験がすくない若手が実力を伸ばすための場所になることは間違いない。

『ホームレス中学生』(2008年)などの古厩智之監督が演出した『飴色パラドックス』(2022~2023年/MBS)では、W主演の「M!LK」山中柔太朗と「FANTASTICS」木村慧人が青春映画の名匠の手ほどきで、持続力ある瑞々しい好演をものにしている。特に木村は同作をうまく呼び水として、現在放送中の『好きなオトコと別れたい』(テレビ東京)では、ラブコメの王道キャラクターに挑戦している。木村と同じ「FANTASTICS」所属ボーカル・八木勇征の成功例を考えたら、鬼に金棒だし、Jr.EXILE世代のLDH俳優とBLドラマの相性はかなりいい。

ラブコメ作品でしっかりトリセツを提示した前田拳太郎だって、2022年から「劇団EXILE」所属俳優。『君には届かない。』(2023年/TBS系)での新鮮な黒髪の佇まいは、BL俳優として抜きん出ていた。

「劇団EXILE」からは最年少メンバーの櫻井佑樹が、『4月の東京は…』(2023年/MBS)で初主演。同作で公式ライターを担当した経験からいうと、実際に目の前にした櫻井の相貌は、マンガの世界からそのまま飛び出してきたようで、その彼が相手役の髙松アロハと取材現場でおどける距離の近さには、本編同様の魅力があった。つまり、作品外でもそうした“尊さ”をいかに醸すのか。もっというと、作品外の尊さを今度はどうやって作品内でのコンビ愛として結実するのか。その意味で、BLドラマに主演する若手俳優が役作りの一貫として作品外での関係性を深める駒木根主演の『25時、赤坂で』(テレビ東京系)は、いかにも象徴的な作品。BLドラマという登竜門は、この外と内の重層的な演技力が試される場所なのだと僕は考えている。
(文=加賀谷健)

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