年金夫婦で月31万円だったが…70歳夫を亡くした元・共働き妻、預金通帳の「年金受給額」に2度泣いたワケ「何かの間違いでは?」

結婚・出産を機に、仕事を辞めるか、それとも続けるか。また働き方を変えるか、変えないか……女性とって大きな選択です。一方、正社員とそれ以外では、生涯年収では大きな差となりますが、配偶者を亡くした後の年金額にはそれほどの差はない、という現実があります。みていきましょう。

結婚・出産を機に…正社員かどうかで、生涯年収は「家一軒分」ほどの差に

内閣府『令和5年版男女共同参画白書』によると、2022年、男性(15~64歳)の就業率は84.2%。対し、女性の就業率は72.4%でした。男女ともに上昇傾向にあるものの、女性のほうが上昇幅が大きく、2005年と比較すると、男性は3.8ポイントの上昇だったのに対し、女子絵は14.3ポイントの上昇でした。

特に25~44歳女性の就業率の上昇は顕著で、2005年64.0%だったのが、2022年では79.8%と15.8ポイントの上昇。これは、結婚・出産を機に仕事から離れてしまう傾向にあった女性の変化と捉えることができるでしょう。女性の就業率に関していえば、25~44歳で凹むM字型が問題視されてきました。昨今はMの凹が解消されつつあるといいます。

とはいえ、結婚・出産を経て、以前のように働くというのも難しい場合もあるのも事実。そのため、女性の正規雇用比率は20代後半59.7%をピークに大きく減少していきます。

【年齢別・女性の就業率と正規雇用比率】

15~19歳:20.4% / 2.6%

20~24歳:72.3% / 39.9%

25~29歳:84.8% / 59.7%

30~34歳:78.4% / 47.6%

35~39歳:77.0% / 39.0%

40~44歳:79.7% / 35.8%

45~49歳:80.4% / 34.0%

50~54歳:79.2% / 31.5%

55~59歳:74.0% / 26.8%

60~64歳:62.7% / 13.6%

65歳以上:18.3% / 2.0%

※数値は2022年 ※数値左より就業率/正規雇用比率

結婚・出産を経た後も、正社員として定年まで働いた場合と、結婚・出産を機に非正規社員へと働き方を変えた場合。どれほどの差となるのでしょうか。厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』の数値をもとに考えてみましょう。

女性正社員(平均年齢40.9歳)の平均給与は、月収で26.6万円、賞与も含めた年収で440.8万円。仮に20~60歳まで平均給与を手にすると仮定すると、生涯年収は1億6,302万円になります。

一方、女性非正規社員(平均年齢47.6歳)の平均給与は月収が20.3万円、年収が273.1万円。仮に30歳まで正社員で、以降は非正規社員として定年まで働いたとすると、生涯年収は1億1,026万円。家、1軒分の差もついてしまいます。

積極的に働き方を変えた人、やむをえず働き方を変えざるを得なかった人、事情は人それぞれですが、これほどまでに給与差がついてしまうのは驚きです。

仕事を頑張っただけなのに…元・共働き妻、まさか「遺族年金停止」の事実

給与差は、将来受け取る年金額にも大きく影響します。

ずっと正社員だった女性が65歳から受け取れる年金額は、概算ですが厚生年金が月7.4万円。併給の国民年金と合わせると、月14.6万円です。一方、30歳で非正規社員へと働き方を変えた場合は、厚生年金が月4.8万円。併給の国民年金と合わせると11.6万円です。その差、月3万円。1年で36万円、10年で360万円、20年で720万円……年金への依存度が高い、老後の生活において、月3万円の差がかなりの大きさです。

ただ年金をもらう年齢となり、さらに年を重ねると、正社員として働いてきたことが、本当に良かったのか……そんな場面に遭遇する可能性も。

たとえば、70歳と68歳の高齢者夫婦。まだ夫婦共働きが珍しい時代に、ともに正社員として60歳まで勤め上げ、年金生活を送っていたとします。女性が手にする年金は月14万円、男性が手にする年金は月17万円と、ともに正社員だった人たちの平均値だとします。

ある日、夫が急逝。どれほどショックなことか……ということは、今回は語らず、残された妻が手にする「遺族年金」を考えてみましょう。

遺族年金は、残された遺族が困らないようにと支払われる公的保障。会社員や公務員の夫が亡くなれば、遺族厚生年金が支給されます。その額は「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」。女性の場合、7.65万円となります。

自身の年金と合わせると、22.65万円。夫婦二人の場合と比べて10万円弱の減額とはなるものの、高齢者ひとりが生きていくには十分な額です。

ただ問題は請求手続きをしに年金事務所を訪れたとき。

――あなたに支給される遺族年金は……月2,500円です

――えっ⁉

あまりの金額に耳を疑い、2度聞いてしまうかもしれません。これは「自分自身が納めた保険料を年金額に反映させるため、65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある方は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。」というルールによるもの。7.65万円の遺族厚生年金のうち、7.4万円は支給停止となるというわけです。年金月22.65万円だと思っていたのが、実際は年金14.85万円……あまりの落差に、ただ涙するしかありません。

元・共働き妻、専業主婦とそれほど「年金額」が変わらないという事実

さらに夫を亡くした、元・共働き妻が涙するのは、結婚・出産を機に専業主婦になった友人と、年金額を比べたときにも訪れます。

30歳で専業主婦になった友人は、10年分の厚生年金の加入歴があり、わずかではありますが、老齢厚生年金が受け取れます。その額、月1.6万円ほど。併給の国民年金と合わせると、月8.4万円が支給されます。そして彼女も年金月17万円の夫を亡くしたとしましょう。

遺族厚生年金は1.6万円が支給停止となり、月6.05万円。自身の国民年金と合わせると、月12.85万円となります。

60歳まで正社員で頑張った、元共働き妻は「月14.85万円」。対し、専業主婦は「月12.85万円」。その差、月2万円となります。

少々納得いかない部分もありますが、「まあ、こんなものでしょ」と言い聞かせる、元共働き妻。しかし続きがあります。それは年金の手取り額。老齢年金は雑所得で課税対象であるのに対し、遺族年金は非課税です。

共働き妻の場合、老齢年金部分の手取り額は12.6万円。そこに遺族年金がプラスされ、合計12.85万円。一方、専業主婦の場合、老齢年金は年147万円以下であれば非課税となるので、天引きされるのは社会保障費のみ。それを加味すると、合計12.0万円。両者に大きな差はなくなります。

――えっ、専業主婦の人と、そんなに変わらないんですか?

年金が振り込まれる預金通帳を眺めながら、もらえる遺族年金がわずかであることに涙し、さらに専業主婦と比べて、その差がわずかであることに涙する……本人の年金額によっては専業主婦のほうが振込額が多いケースも珍しくはなく、思わず「何かの間違いでは?」と疑問を呈しても仕方がありません。

――あのとき、専業主婦を選択したほうが良かったのかな……

そんな後悔をしてしまう事実です。

[参考資料]

内閣府『令和5年版男女共同参画白書』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

日本年金機構『遺族年金』

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