元日本代表トリオ退団も底上げ 岐阜監督が見据えるJ2昇格への青写真「欲張りですけど」【インタビュー】

FC岐阜の指揮を執る上野優作監督【写真提供:FC岐阜】

エースの藤岡を中心に開幕10試合でリーグ3位の18得点をマーク

日本代表のコーチも務めた上野優作監督体制の2年目を迎えたFC岐阜は、J3リーグの開幕11試合を終えて5位とJ2昇格プレーオフ出場圏内につける。2・3月度のJ3月間最優秀監督に輝いた指揮官に、ここまでのチーム作りの手応えと昇格に向けた課題について訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)

◇ ◇ ◇

開幕戦で福島ユナイテッドFCに4-1で快勝したチームは、続く第2節大宮アルディージャ戦こそ0-1で落としたものの、その後は7試合連続負けなし(4勝3分)で一時は首位にも立った。11試合を終えて総得点18はリーグ5位と、同13位(44得点)だった昨季から大幅アップ。上野監督は「昨年から一緒に戦っている選手が半分以上いること、そして強化部がスカウティングを進めて、我々がやっているサッカーに合う選手を獲得してきてくれた。そういったことが重なり合って、キャンプから非常にスムーズにチーム作りができたので、前半戦の得点力につながっていると思います」と語る。

なかでも、所属3年目のFW藤岡浩介はリーグ4位の7ゴールをマーク。7試合で6ゴール1アシストを記録した2・3月度にはJ3の月間MVPに輝いた。昨季は38試合で3ゴールと、その前年(16ゴール)から大きく成績を落としていただけに、好スタートがひときわ目を引く。上野監督も29歳のエースに大きな信頼を寄せる。

「浩介は去年苦しみましたけど、1年間やってきたことが積み上がっていると思います。今年は一度中盤でタメを作って、例えばそこからサイドへ展開して、さらに自分がゴール前に入って行って点を取る、あるいは点を取らないにしてもサイドを突破してアシストやその1つ前のプレーといった得点に絡むことが増えてきました。彼自身、学んだ多くのことを生かしていると思います」

上野監督が目指すのは、「ボールを保持して全員で前進していくようなサッカー」だ。「(イングランド1部)マンチェスター・シティは世界の中でもトップだと思っています。ゲームを支配して点を取って勝っていきたい」。もっとも、それは攻撃に特化する意図ではなく、「いい守備からいい攻撃」のマインドがベースにあってこそ。指揮官は「全部が全部攻撃ではなく、守備の時は守備、切り替えももちろん大事。欲張りですけど(笑)、全局面を大事にして戦っていきたい」と話す。

宮崎戦のミスからの2失点は「非常に重い」

では、開幕11試合で「納得のいく形」はどれほど出せたのか。上野監督は開幕節の福島戦を例に挙げる。

「福島の3点目、左サイドから北龍磨が右サイドへ展開して、石田(崚真)が折り返して田口(裕也)が決めました。あれはまさに練習していた形がそのまま出たゴールでした。その試合で、石田が右サイドからクロスを上げて(藤岡)浩介がヘディングシュートを決めた4点目も非常に良かった。序盤戦はキャンプから積み上げてきたことが出せたと思います。ビルドアップしていきながら、縦、縦だけでは行けないので、斜めに相手を揺さぶりつつ、最終的にクロスでゴール前に人数をかけていくという形になっていると思います」

一方、第8節SC相模原戦(1-1)、第9節カターレ富山戦(1-1)、第10節テゲバジャーロ宮崎戦(1-2)、第11節ツエーゲン金沢戦(0-0)と直近4試合は勝利に恵まれていない。上野監督も「なかなか自分たちの形が出せず、苦しいチーム状況」と語る。昨季リーグ2番目に少なかった失点(35)はここまで「11」(リーグ5位タイ)。宮崎戦ではミスも出てしまい、チーム全体で修正のすり合わせを行っているという。

「宮崎戦で2失点するまでは平均1失点以下で、このまま1失点、あるいはゼロの試合を増やしていけば、去年同様に1試合1失点以下でいけるという話はしていました。残念ながら宮崎戦でカウンターから2つ持っていかれたのが痛かった。チーム内でも守備を堅くしていかないといけないという話はしています。宮崎戦の2失点は非常に重く、(第3節)讃岐戦(4-3)の3失点もミス絡みでもったいなかった。ただ、そこまで大崩れしているとは思っていないので、カウンターへの守備、ゴール前でどれだけ身体を張れるかはもう一度整備しています。

個人だけに責任を全部負わせるつもりはありません。個人の判断も大事ですけど、その個人を助けるために、周りがどれだけサポートできたのか、も含めて話をしています。どうしても失点はGKとセンターバックが最後に絡むことが多いですけど、その前に止めることはできなかったのか。その前にボールを失ったのであれば、ボールを失った本人のほかに、その周りにいた選手がどれだけ早くサポートに入ったのかというところまで遡って、チーム全体の責任としてミスをなくそうという作業を進めています」

キャプテンの庄司と新加入のベテランMF青木がチームを牽引

岐阜と言えば、昨季はMF柏木陽介、FW田中順也(ともに昨季限りで引退し、クラブアンバサダーに就任)、DF宇賀神友弥(昨オフに浦和レッズへ移籍)と日本代表を経験した頼れるベテランがいた。上野監督は「その3選手がいなくなったのは、正直、痛いと言えば痛いです」と率直に明かしつつ、今季のチームも試合を重ねるごとにまとまりつつあると言う。

「柏木、田中、宇賀神がチームをまとめて、常にいい方向に導こうとしてくれていました。そのなかで、キャプテンの庄司(悦大)は年齢が上(の選手)が抜けたということで、去年以上に責任を持って取り組んでいますし、最近では青木(拓矢)が(新加入で)入ってきて、昨季までいた3人がやってくれていたような役割を担ってくれているので、バランスが良くなってきたかなと思います。青木の実績は間違いないですし、浦和でも一緒にやっているので、彼のことはよく分かっています。彼が中盤でどっしり構えてくれることによって、攻守において安定をもたらしてくれると思っています」

今季は、J3を初めて戦う大宮アルディージャがいることもあって、序盤戦から熾烈な争いが続いている。それでも、上野監督は「目の前のトレーニングを大事に、目の前の試合を大事に」というスタンスを崩さない。

「どのチームも大宮とやる時は難しいと思います。なぜなら個人の選手の質が高い。それは対戦した我々の選手たちが試合後、『相手はみんな上手い』『スピードがあった』『強さがあった』と、手こずったという話をしていました。(大宮がいることで)J3のリーグが1つ高い位置づけになると思います。ただ、大宮だけでなく、(ツエーゲン)金沢も調子が上がってきているので、J2にいたチーム、あるいは大宮のようにJ1にいたチームはポテンシャル、実力があると思っています。そのなかで、アウェー、ホームにかかわらず、我々には勝ち点3が求められている。この先、また勝ち点を重ねて自分たちの目標であるJ3優勝とJ2昇格を達成できるように1試合1試合大切に戦いたいと思います」

2019年以来のJ2復帰に向けて、岐阜は上野監督の下、一致団結する。

[プロフィール]
上野優作(うえの・ゆうさく)/1973年11月1日生まれ、栃木県出身。福岡―広島―京都―新潟―広島―栃木。J1通算223試合27得点、J2通算83試合23得点。現役時代は大型FWとして活躍し、2010年から指導者の道へ。栃木でコーチ、ヘッドコーチ、アカデミーダイレクター兼ユース監督、浦和ではユースコーチ、育成ダイレクター兼ユース監督、トップチームヘッドコーチ、日本代表コーチを経て、2023年から岐阜の監督を務める。(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)

© 株式会社Creative2