文武両道でメジャーリーガーになれた秘訣 専攻は経営学に心理学…「自分の優先順位が重要だね」

ナショナルズのライリー・アダムズ【写真:Getty Images】

ナショナルズ捕手に聞く文武両道の背景

大谷翔平が長打を量産した同じグラウンドに文武両道のメジャーリーガーがいた。米大リーグ・ナショナルズは25日(日本時間26日)まで、本拠地でドジャースとの3連戦を行った。ライリー・アダムズ捕手は1、2戦目にフル出場。学生時代はカリフォルニア州の科学博覧会に招待された文武両道の27歳だ。学業も大切にしながらメジャーリーガーの夢を叶えた背景を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・土屋 一平)

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「外来シロガネヨシを根絶する実験的手法」

2009年のカリフォルニア州科学博覧会に提出された研究のタイトル。著名は「ライリー・K・アダムズ」とある。当時、中学2年生だった彼の研究だ。日本では「おばけススキ」とも呼ばれ、庭に生えると処理が大変。アダムズ少年は自宅の庭を4区分し、酢、市販の除草剤、陽光遮断用ビニールシート、ドライアイスをそれぞれ用いてシロガネヨシ根絶への効果を検証した。

「学校で毎年やっている科学研究プロジェクトでね。いろいろな除去方法を試してみた。父親も手伝ってくれたよ。それで、州のサイエンスフェアにも招待されたんだ。楽しいプロジェクトだったな」

15年後、MLB入りの夢を叶えた27歳は、ロッカールームで快く取材に応えてくれた。兄と受けた両親の教えは同じ。「僕ら2人とも、スポーツをしたいのであれば学校の成績を最優先にしないとダメだ、と両親から教育されていたんだ」。高校ではバスケでも活躍。卒業時にドラフト37巡目でカブスに指名されたが、NCAA(全米大学体育協会)1部のサンディエゴ大に進学した。

一般的には、学業との両立も求められる米国の大学アスリート。アダムズは主専攻で経営学、副専攻で心理学を学んだ。「かなりつらかったよ。大学のアスリートが学業とスポーツを両立させるのは大変」と笑う。

もちろん、MLB入りを目指して野球の練習にも精を出した。チーム全体の練習時間は1日最大4時間、1週間で20時間までがNCAAのルール。「その最大限練習していた。空いた時間が見つかれば、チーム内で練習相手を見つけて自主練していたよ。スケジュール的にはキツキツだったね」。グラウンドと教室を行き来する3年間だった。

ドジャースに移籍した大谷翔平とも同リーグのため対戦機会も少なくない【写真:ロイター】

「キャンパスライフを犠牲にした」と振り返る学生時代

どのようにスポーツと学業を両立していたのか。アダムズは「キャンパスライフを犠牲にした」と明かす。

「大学には学業面、スポーツ面、キャンパスライフ面があると思うんだ。僕の場合はキャンパスライフを犠牲にして学業とスポーツに集中していたかな。自分のキャリアにとって大切なことを選んで、何かを犠牲にしなきゃいけないね」

両親の教えにより、励んだ学業。しかし、“やらされた”わけではなかった。「心理学にはもともと興味があった。野球はとてもメンタルが重要なスポーツだから学ぶのは楽しかったよ。それを野球や日々の生活に生かせられるのは楽しいね」。教室での学びを野球以外にも還元。勉強も好きだから続けられた。

大学3年時の2017年にドラフト指名されたブルージェイズに入団。そのため、卒業はしていない。「まだ学位は持っていないけど……」と将来、大学で学びなおす可能性もある。これから文武両道を目指す学生アスリートには、こんなアドバイスを送った。

「自分にとっての優先順位を理解することが重要だと思う。大学1年の時、先輩から教えてもらったんだ。大学には学業、スポーツ、キャンパスライフがある、ってね。1日で3つ全てやることはできない。自分にとって重要なことを選ばなきゃいけないんだ。僕にとってはそれがスポーツと学業だった。最もシンプルな方法がこれだと思う」

21年のメジャーデビューから1年ごとに打席を増やし、今季で4年目を迎えた。ここまでチームの捕手3人のうち最も多い14試合に出場した27歳。打率.250、2本塁打をマークした。肉体とともに鍛えてきた頭脳をフル回転させ、マスクを被っている。

THE ANSWER編集部・土屋 一平 / Ippei Tsuchiya

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