【コラム】アフターコロナでマカオカジノ業界の人材需要増(WEB版)/勝部悠人

マカオは面積約32㎢、人口約68万人という小さな地域(中国の特別行政区)だが、大小合わせてカジノが30施設あり、政府とコンセッション(経営権契約)を結ぶ6つの民間事業者によって運営されている。

マカオではコロナ禍で入境制限を含む厳格な防疫措置が講じられた関係で2020年2月~2022年12月にかけてカジノ売上が低迷したが、昨年(2023年)1月初頭にウィズコロナへ転換。アフターコロナ初年となった昨年のカジノ売上は3月から本格的な回復が進み、夏場以降に加速。通期のカジノ売上は前年から334%増の約1831億パタカ(約3兆3457億円)で、コロナ前2019年の6割強まで回復するに至った。カジノ売上回復の影響はカジノ業界の人材需要増にも及んでいるようだ。

マカオ政府の統計当局が3月6日に公表した昨年第4四半期(2023年10~12月期)のカジノ業界(※)における人材ニーズ及び給与調査統計によれば、昨年第4四半期末時点のフルタイムのカジノ業界従事者数は前年同時期から0.8%減の約5.2万人。カジノディーラー職に限ると1.5%減の約2.3万人だった。(※本統計の調査対象にはカジノ仲介業、いわゆるジャンケットプロモーターとカジノ仲介パートナーは含まれない)

昨年12月のフルタイムのカジノ業界従事者の平均月額報酬(賞与等臨時給含まず)は前年同月から6.8%上昇の約2.5万パタカ(約47万円)で、カジノディーラー職に限ると同5.4%上昇の約2.1万パタカ(約39万円)。大幅上昇となった要因として、前年同時期はコロナ禍によるカジノ施設の営業規模縮小があった中、雇用維持のため無給休暇とするケースが比較的多くみられたことが挙げられる。

従事者数は微減となったものの、業界における昨年第4四半期末時点の空きポジションは前年同時期から387枠増の400枠に。求人条件についても、要業務経験が約24%、高等教育学歴不問が約85%、要中国語(いわゆる北京語)が約97%、要英語が約84%を占め、従前よりも門戸が広がった印象だ。

業界における昨年第4四半期の新規雇用者数は1035人、離職者数は843人で、従業員雇用率は前年同時期から1.8ポイント上昇の2.0%、離職率は0.1ポイント上昇の1.6%、欠員率は0.8%となり、アフターコロナでカジノ売上が回復する中、業界における人材需要が増加している状況を反映した結果となった。

なお、昨年第4四半期のマカオの労働人口は約38万人、就業人口は約37万人、総体失業率は2.3%。カジノ業界従事者がマカオの就業人口に占める割合は単純計算で約14%となる。平均月収については、昨年第4四半期のマカオの就業人口全体の月給中位数である約1.8万パタカ(約33万円)を大きく上回った。

マカオのインバウンド旅客数及びカジノ売上については、今年に入って以降も直近まで順調に推移している。マカオのカジノIR(統合型リゾート)運営6社の昨年の業績も揃って著しい回復をみせており、年初から賃上げ発表が相次いだ。内容は概ね横並びで、3~4月から非管理職の場合、2.5%程度のベースアップとなる。

カジノ売上のコロナ前と比較した回復率は直近で7割程度のためカジノ業界の人材需要はしばらく増大するとみられるが、いずれ頭打ちになることも予想される。昨年1月から施行された通称「新カジノ法」によって、テーブル及びマシン台数の上限が設定され、すでに上限いっぱいで割り当てがなされている。ゆえに、ディーラー職スタッフをはじめとするテーブルやメンテナンスなどマシンまわりの人材について大幅な増を見込むことは困難といえる。一方、政府の方針もあり、カジノIR企業はノンゲーミング(非カジノ)分野の拡充を積極的に進める中、カジノ部門からホテル、料飲、リテールといった異動による人材バランスの最適化も行われている。インバウンド旅客数はカジノ売上を大きく上回るペースで回復が進む中、ノンゲーミングの人材需要はより高く、カジノIR企業の人材配置バランス上もノンゲーミングの比重がどんどん大きくなると見込まれる。

マカオのカジノIR企業は一般と比較して給与水準が高いほか、福利厚生も充実しており、ローカル人材を吸引する存在。かつてのようなネガティブなイメージもほとんどないという。その陰で、経営体力に乏しい中小企業からの人材流出も課題となっている。このほか、マカオはツーリズム産業の規模に対して人口が少ないため、海外労働者への依存度が高い。雇用の調整弁としてコロナ禍においてその多くが原居地に戻ったが、アフターコロナで再び増加に転じている。

統合型リゾート施設が集積するマカオ・コタイ地区の街並み=2024年3月筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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