地元愛(4月29日)

 武将のように話す少女が突拍子もない行動で周囲を巻き込みながら、世界を少しずつ変えてゆく。今年の本屋大賞に選ばれた小説「成瀬は天下を取りにいく」の主人公は、いつも堂々とわが道を歩む。けん玉、漫才、かるた…と何でもこなし、200歳まで生きるのが夢らしい▼舞台は大津市。デパートや琵琶湖の観光船など、ご当地の話題が登場する。続編で主人公は小学生と地域を防犯巡回し、観光大使になって全国を飛び回る。温かなつながりと芯の通った地元愛が「かっこいい」と、作中の地を訪ねる「聖地巡礼」も盛り上がる▼東日本大震災の見舞金を寄せたカンボジアの人々への恩返しにと、二本松市出身の女性は高校時代、県内から集めた絵本を現地の子どもたちに届けた。夏休みには同級生と一緒に市内の小学生の宿題を応援した。大学進学後は、リモート授業の合間に古里で清掃活動に励んだ▼大学院生として東京で暮らす今も、二本松の書店から本を購入する。郷里を全国で最も子どものボランティアが盛んな場所にするのが夢という。そんな、地元愛を胸に信じた道をゆく県内各地の「成瀬さん」には「古里大賞」を贈りたい。華々しくても、ささやかでも。<2024.4・29>

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