【衆院補選自民全敗】首相は民意に応えよ(4月29日)

 自民党が衆院3補欠選挙で不戦敗を含めて敗退した結果は、「政治とカネ」問題による党への根深い不信感の表れに他ならない。岸田文雄首相は厳しい民意を直視し、改革を本気で主導するしか支持回復の道はない。

 保守王国とされる島根で敗れれば事実上、補選全敗となる。今後の政権運営の主導権を失いかねないと、岸田首相は危機感を強めていたと伝わる。しかし、党総裁として臨んだ21日の街頭演説で「政治資金規正法を今国会で改正する」「私が先頭に立つ」と語気は強めたものの、改革の具体的な内容は語らなかった。

 自民党派閥の裏金事件を受け、政治改革が最大の争点となった選挙だ。逆風であればこそ、党の方針を告示前に明確に打ち出し、審判を真摯[しんし]に仰ぐべきなのに、独自案をまとめたのは選挙戦の終盤だ。それですら、連立を組む公明党の突き上げがあっての感は否めない。

 肝心の独自案の中身は、収支報告書提出時の国会議員による確認書の添付、不記載相当額の国庫納付などを追加した半面、企業・団体献金や政策活動費など、痛みを伴う改革は棚上げされた。

 焦点の一つの「連座制」を巡っては、議員に対する罰則規定の適用要件が限定され、実効性は見えにくい。改革に後ろ向きと受け止められても仕方がない。補選の結果を厳しく受け止め、国民の声に背を向けるような姿勢を改めるべきだ。

 立憲民主党は3補選で全勝したものの、真価が試されるのはこれからだ。東京15区は野党の対応が分かれ、政権への批判票が分散した。長く続く「自民一強」の構図を打破し、政権交代を目指すのなら野党間の課題もきちんと検証しなければならないだろう。

 共同通信社の世論調査で、次期衆院選は与野党の勢力が伯仲するのが望ましいとの回答が5割に達した。与野党逆転を求める声は2割を超え、現状維持派を上回っている。

 衆参両院特別委員会の規正法改正論議は大型連休明けに本格化する。国民の政治不信を払拭し、党利党略を超えて納得のいく成果を得られるのか。与野党は正念場にあると肝に銘じるべきだ。次期衆院選を見据え、選ぶ側も意識と判断力を一段と高めていかねばならない。(五十嵐稔)

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