負けに不思議の負けなし

 平戸藩主の松浦(まつら)静山が残した剣術の心得であり、野村克也さんが座右の銘とした言葉がある。〈勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし〉。負けるには負けるだけの理由がある▲選挙の戒めにも読める。勝てば、きっと運も働いたのだと謙虚に受け止めなさい。負けたら、なぜ敗れたのか突き止めなさい、と▲明暗がくっきりと分かれたこの結果を、勝者と敗者はどう受け止めたか。全国三つの選挙区であった衆院補欠選挙は、いずれも立憲民主党が勝ち、長崎3区では前職の山田勝彦氏(44)が野党一騎打ちを制した▲政権党の自民は、長崎3区、東京15区で候補を立てずに“不戦敗”、保守王国とされる島根1区で候補を立てたが、ここでも敗れた。裏金事件の傷はあまりにも深い▲二つの選挙区で有権者の審判を避けたのは、生まれ変わる覚悟や決意を示す機会をわざわざ放棄したに等しかろう。この姿勢が、島根での負けにも作用しなかったか。負けに不思議の負けはない▲では、立民の全勝は「これで何かが変わるはず」という有権者の熱い期待の表れなのかどうか。低かった投票率をまずは凝視すべきだろう。県内では四つの選挙区が三つになる次の衆院選は、そう遠くないとの見方もある。謙虚に、襟を正すべきは敗者であり、勝者でもある。(徹)

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