世界中で深刻化する「環境公害」高野山は公衆トイレに2000万円、無料駐車場維持費、救急車も…限界実態

高野山の名所・壇上伽藍(だんじょうがらん) ※画像は「高野山 総本山金剛峯寺」の公式インスタグラム『@koyasan_kongobuji』より

水の都として知られる世界有数の観光地ベネチア。ゴンドラ(手漕ぎボート)に乗船した観光客が、運河を優雅に往来する様子が人気を集める人口5万人(本島)のこの街に今、大きな変化が起きている。

全国紙国際部の記者が話す。

「ユネスコ世界遺産にも指定されているベネチア。世界的な人気観光都市には、1日に数万人の観光客が訪れます。2022年には1年間で320万人もの観光客が街に来ました。その結果、街中の宿泊費は高騰し、住宅費も右肩上がりに。住宅費の高騰から、市内の中心部では物件の借り手が付かない状態です。公共交通機関である水上バスは住民ですら満足に利用できず、地元で暮らす人は環境公害に悩まされています」

かつては、個性的な店が軒を連ねた旧市街も、今ではチェーンレストランや土産物店が並ぶという。そんな状況に危機感を覚えた街も、ただ手をこまねいているわけではないという。

「4月25日から、ベネチアを訪れる日帰り観光客を対象に“入場料”として1人あたり1日5ユーロ(日本円でおよそ830円)を徴収することに。これを街の公共交通システム維持などに使おうというわけです」(前同)

イタリアで起きた出来事と聞くと、遠く離れた異国の地での話と思いがち。しかし、日本でも実はベネチアと同じ状況が生まれているというのである。

「04年にユネスコの世界遺産にも認められた和歌山県にある高野山です。周囲を1000m級の山々に囲まれ、盆地に広がる境内を中心とした街並みは観光客に大人気。23年も欧米からの観光客を中心に、外国から10万人以上が訪れています」(同)

そんな高野山がある高野町も観光公害に悩まされているエリアの1つ。今年3月には平野嘉也町長も、28年度を目処に環境公害対策として、宿泊税や入山税といった類の税金を導入する旨を発表している。弊サイトは、そのシビアな実態を高野町企画公室の担当者に聞いた。

「現在、人口は2641人。そんな小さな高野町に年間140万人ほどの観光客の方が来られます。観光客の方々が利用する公衆トイレの清掃や水道代、繁忙期には1000台分ほど用意する無料駐車場における警備員さんの人件費までは、とても町民の税金だけでは賄いきれないのが実情です」(高野町企画公室の担当者)

その総額いくらほどなのか。

「高野山の周辺には町が管理する公衆トイレが男女合わせて15か所。朝夕と2回も掃除をしてもらうのですが、清掃や冬場のヒーター代などの管理費だけで年間2000万円。駐車場の警備費用には年間1900万円が投じられています」(前同)

■救急車の出動は年間309件、原因の半数ほどが観光客

公衆トイレの管理費に駐車場の警備費用で年間およそ4000万円が必要となる高野町。他にも予期せぬ出費がたびたび発生するという。

「昨年は309件、緊急搬送の要請がありました。要は、高野山滞在中にケガをしたり、体調が悪くなったという方が救急車を呼ぶわけです。この内、半数近くは観光客によるもの。その90%ほどは、外国人観光客の方でしょうか。これらの費用も町民の税金からの出費となります」(前出の高野町企画公室の担当者)

もちろん、高野山を訪れる観光客も、意図的にケガをして119番通報をしているわけではないだろう。それでも1回あたりの出動に約4万5000円がかかるともいわれる救急車。それだけに、300回超えの救急車要請は人口わずか2641人の高野町にとって大きな負担となるわけだ。

「訪れてくださる観光客の方のマナーは決して悪くありません。ポイ捨ても、たまにタバコの吸い殻が捨ててあるくらい。ただ、世界遺産への登録や、景勝地を紹介する『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で三つ星に輝いたことから、観光客の方が増え過ぎてしまった。小さな町ですから、その費用負担に耐えきれなくなってきているということです」(前同)

そこで、高野町へと訪問したり、宿泊をする観光客から”入山税”や”宿泊税”といった形で税金を徴収し、街の環境保全活動に活かそうというわけだ。

同様の試みは23年10月から、同じく世界遺産に指定されている宮島の厳島神社がある広島県廿日市市(はつかいちし)でも実施されている。廿日市市内にある宮島では来訪者を対象に、“宮島訪問税”として、1人100円を徴収している。今後、高野山がある高野町では、どのような形で“入山税”を徴収するのだろうか。

「どれだけ財源が必要か、という議論を進めたうえで、住民も観光客の方も納得できる制度を導入できればと考えております。高野町を訪れてくれる方が増えたおかげで、高野山金剛峯寺を中心に若い働き手が増えたのも事実です。より街を活性化させられればというのが、高野町としての願いです」(同)

観光客にとっても町民にとってもメリットがある制度が作られることを期待したい。

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