「ガス室、同性愛迫害、発禁本、救えたはずの命」A・ホプキンス主演『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』ほか“ナチス・ドイツ時代”描く必見映画4選

『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』© WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

6000の命つないだ「イギリス版シンドラー」とは?

アンソニー・ホプキンス主演最新作、ナチスの脅威から669人の子供たちを救った“イギリス版シンドラー”ことニコラス・ウィントンの半生を描く『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』が、2024年6月21日(金)より全国ロードショーとなる。

1938年、第2次世界大戦直前。ナチスから逃れてきた大勢のユダヤ人難民が、プラハで住居も十分な食料もない悲惨な生活を送っているのを見たニコラス・ウィントンは、子供たちをイギリスに避難させようと、同志たちと里親探しと資金集めに奔走する。ナチスの侵攻が迫るなか、ニコラスたちは次々と子供たちを列車に乗せるが、遂に開戦の日が訪れてしまう。それから50年、ニコラスは救出できなかった子供たちのことが忘れられず、自分を責め続けていた。そんな彼にBBCからTV番組「ザッツ・ライフ!」の収録に参加してほしいと連絡が入る。そこでニコラスを待っていたのは、胸を締め付ける再会と、思いもよらない未来だった――。

毎年、ナチス・ドイツを題材にした映画が何作も公開されている。二度と起きてはならない歴史を後世に伝えるという目的は同じながら、その描き方は様々。今年公開予定の作品も、数少ない証言者たちが出演するドキュメンタリーから、実在の人物をアカデミー賞俳優が演じる感動の物語、さらには斬新な方法でアウシュビッツ収容所について描き世界を驚かせた話題作など、必見作が目白押しだ。

ということで今回は『ONE LIFE~』のほか、それぞれ異なる視点で描かれた<2024年公開のナチス映画>4作をご紹介。どれも劇場で観ればこその多彩な表現を駆使した迫力ある物語なので、今春から初夏にかけて公開スケジュールをチェックしよう。

御年86!アンソニー・ホプキンス最新作『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』

2024年6月21日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開

スティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』で描かれたオスカー・シンドラーのように、ナチスの手から669人の子供たちを救った人物が英国にもいた。彼の名はニコラス・ウィントン、結果的に6000の命に繋がった活動と子供たちとの50年後の再会を、『英国王のスピーチ』のプロデューサーが映画化。

ニコラス・ウィントンはイギリスの人道活動家。イギリスに子供たちを避難させる活動〈チェコ・キンダートランスポート〉を組織し、1939年3月から第二次世界大戦開戦直前の8月までの間、ナチスによりユダヤ人強制収容所に送られようとしていたチェコスロバキアのユダヤ人の子どもたち、およそ669名をイギリスに脱出させることに成功する。しかし9月3日に予定していた、最大規模となる250名の子どもたちを乗せた列車は9月1日の第二次世界大戦勃発によって国境を超えることができず、救出失敗に終わってしまう。以降、ニコラスは助けられなかった子供たちのことが忘れられず、長年苦悩を抱えて過ごすこととなる――。

そんな本作でニコラス・ウィントンに扮するのは、『羊たちの沈黙』と『ファーザー』でアカデミー賞を受賞した、映画界の至宝アンソニー・ホプキンス。明るくてチャーミングなニコラスが、その胸の奥に隠している思いを、自身の深く長い人生経験と重ねるようにリアルに演じている。さらに実際にニコラスに助けられたかつての子供たちや、その親族が世界中から撮影に参加。数多のキャリアを誇るホプキンスも「心を大きく揺さぶられた」と打ち明けている。ナチス・ドイツを描いた作品のなかでは珍しい、鑑賞後に明るい気持ちになれる愛と希望の物語。

歴史の証人7名が語る驚くべき真実とは?『ナチ刑法175条』

現在公開中

1985年にアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ハーヴェイ・ミルク』の監督ロブ・エプスタインが手掛けたドキュメンタリー映画。<刑法175条>とは、かつてドイツで施行されていた同性愛を禁じる法律。その厳しい弾圧のなかで生き延びた、6人のゲイと1人のレズビアンの証言で明らかとなるのは、現代では考えられない衝撃の事実だった。本作は1999年に公開され、今回約25年の時を経てデジタル・リマスター版として日本で初めて劇場公開を迎えた。

ドイツで1871年から1994年まで約120年以上にわたって存在した、同性愛を禁じる<刑法175条>。ナチス政権下では特に厳しく弾圧され、約10万人が逮捕、さらに1-1.5万人が強制収容所に送られた結果、生存者は約4000人、そして本作制作時に生存を確認できたのは10名にも満たなかったという。その数少ない生存者である、6人のゲイと1人のレズビアンからの証言を通して、真実に迫るドキュメンタリー。

数々の映画賞を席巻した衝撃作『関心領域』

2024年5月24日(金)公開

2023年のカンヌ国際映画祭ではグランプリを受賞、さらに今年のアカデミー賞では音響賞・国際長編映画賞の2部門を受賞した話題作。監督はスカーレット・ヨハンソン主演『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(13)の鬼才ジョナサン・グレイザー。約10年の歳月をかけ、収容所の内部を一切映さずにアウシュビッツ収容所を描く、新たなホロコースト映画を完成させた。タイトルの「関心領域」とは、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む 40 平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉。

青い空の下では、誰もが笑顔で子供たちの笑い声が聞こえてくる。窓から見える壁の向こう側では建物から黒煙があがっている。舞台は1945年、アウシュビッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘドウィグは収容所の隣で幸せな家庭を築いていた。映し出されるのは、美しい庭園と穏やかな日常。しかし、音、窓の外で立ちのぼる黒煙、そして家族の会話から、壁一枚隔てたアウシュビッツ収容所の存在が暗に示される。壁で分けられた2つの世界はどれほど異なるのだろうか。そして彼らと私たちの違いは?

発禁処分となった小説を遂に映画化『フィリップ』

2024年6月21日(金)公開

ポーランドの作家レオポルド・ティルマンドの自伝的小説を映画化。原作小説は、内容の過激さゆえに1961年の発刊直後に発禁処分を受けたいわくつきの作品で、それから約60年後の2022年にようやくオリジナル版が出版された。監督を務めたミハウ・クフィェチンスキは本作を映画化した理由について、「ポーランドで愛する人を亡くしたユダヤ人の主人公は、そのような状況下で何を感じるでしょうか? 私はティルマンドの本を心理的で緻密な映画にし、トラウマから感情が凍り付いた男の孤独を研究することに決めました」と語っている。時代に翻弄された、容姿端麗な青年の愛と復讐の物語。

舞台は1941年、ポーランド。ワルシャワのゲットーに住むポーランド系ユダヤ人フィリップは恋人のサラとある舞台でダンスを披露する予定だった。しかしその直前にナチスによる銃撃に遭い、サラだけでなく家族、親戚を目の前で殺されてしまう。2年後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのウェイターとして働き、そこでフランス人と偽って夫を戦場に送り出したナチス将校の妻たちを誘惑することで復讐を果たしていた。ある日プールサイドで知的なドイツ人のリザと出会い、彼は本当の恋に落ちる。だが戦争はその2人を容赦なく引き裂くのだった……。

実話に基づいた物語『グロリアス 世界を動かした女たち』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年5月放送

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