亡き2人の思い継ぎ再出発 魂の響き 東翔太鼓愛好会(青森・東北町)

再出発となった舞台で、力強い演奏を披露する「東翔太鼓愛好会」のメンバー

 今年1月、小川原湖でシジミ漁の漁船が転覆し、青森県東北町の鶴ケ崎善貴さん=当時(31)=と妻の千夏さん=同(27)=が死亡した事故から3カ月余り。2人が所属していた同町の創作和太鼓団体「東翔太鼓愛好会」が28日、再出発の舞台に立った。メンバーは善貴さんが作曲した「水星」など3曲を披露し、観客から大きな拍手を受けた。沼山隆一会長(61)は「魂のこもった演奏ができた。2人も一緒にたたいてくれたと思う」と語った。

 元々は東北東中学校の生徒が演奏してきた東翔太鼓。2015年の閉校に伴い、当時PTA会長だった沼山会長が伝統を継承しようと、卒業生らに声をかけて同会を結成した。全国大会で上位に入るまで腕を磨き、コロナ禍前は町内外で年間約20公演をこなしていた。

 善貴さんは結成当初からのメンバーでキャプテン。千夏さんも程なくして加入し、小・中学生メンバーの面倒を見るなど善貴さんを支えた。2人は同会に欠かせない存在だった。

 コロナ禍が落ち着き、活動が活発になる矢先の悲報。同じシジミ漁師で、2人の捜索にも当たった沼山会長は「痛恨の極み。でも、いつまでも悲しんでいられない。2人が大好きだった太鼓を、残った私たちが地域に響かせることが供養になると思った」と振り返る。

 幼なじみの善貴さんに誘われて加入した鶴ケ崎祐岐さん(31)は最初、続けるか悩んだという。それでも「いつも笑顔で太鼓をたたいていた2人を想像すると、一歩踏み出さなければ」と心を決めた。キャプテンを引き継ぎ、4月から練習を再開した。

 再出発の舞台となった同町の「道の駅おがわら湖」開業20周年式典には、2人の遺族も駆け付けた。メンバーは息の合った力強い演奏を披露。善貴さんが残した「水星」では、天を見上げながら太鼓をたたく振り付けを急きょ追加し、2人への思いを表現した。再出発を見届けた善貴さんの母竹子さん(61)は「楽しくたたいて、見る人を楽しませる。善貴が話していた最高のパフォーマンスだった」とたたえた。

 演奏を終え涙を拭った祐岐さんは「2人がいないことを実感したと同時に、再出発を報告したい気持ちになった。2人が感じていた太鼓をたたく楽しさを、多くの人に伝えていきたい」と話した。

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