『ありふれた教室』予想を超えた衝撃作!これは誰にでも起こりうる【おとなの映画ガイド】

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2023年のドイツ映画賞で作品賞など主要5部門を受賞し、今年の米アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた、注目の映画『ありふれた教室』が、5月17日(金) に全国公開される。かなりよくできた学園サスペンスだ。どの国、どの時代にも起こりうる普遍的な問題をはらんでおり、みているうちに空恐ろしくなってくる。監督は本作が日本劇場初公開となるイルケル・チャタク、主演は演技派の人気女優レオニー・ベネシュ。

『ありふれた教室』

ドイツのごく普通の中学校。主人公は新たに赴任してきた教師、カーラ。彼女が担当しているのは一年生のクラスだ。移民や難民の受け入れに寛容なドイツらしく、さまざまな国籍の生徒がいる。学校では最近、金品の盗難事件が多発、その対策のために教師たちが学級委員の生徒と話しあっている。そんなシーンから映画ははじまる。

問題があれば徹底的に調査し、非があれば厳罰でのぞむという「不寛容方式(ゼロトレランス)」のもと、校長は授業中に抜き打ちの“持ち物検査”を敢行する。そういう生徒へのやり方に疑問をもったカーラは、独自で犯人探しを開始。

財布を入れた自身の上着を職員室の椅子にかけたまま離席し、ノートパソコンのカメラで録画を仕掛けておく、というもの。はたして、戻ってくるとお金はぬきとられ、パソコンには特徴のある柄が入った服の「犯人」が映っていた……。

最初はささいな事件。容疑者はあっさりと特定されるのだが、犯行は完全否定され、やがて、深刻でぬきさしならない事態まで発展していく。ほとんどが中学校内で展開するドラマだが、息をもつかせぬ、というのはまさにこのことだ。テンポがあって、ぐいぐい引っ張っていかれる。面白い!

トルコ系ドイツ人のイルケル・チャタク監督によるオリジナル脚本。教育分野で働くさまざまな人への入念なリサーチと、自身の子ども時代の経験をモチーフにストーリーを作り上げた。

「この物語は制度、つまり社会の鏡についての作品です。それを表現するのに、学校は絶好の舞台なんです。なぜなら、私たちの社会の縮図であり、ひな型みたいなものだからです。国家元首、大臣、メディアなど、あらゆる人々が通る場所です」と監督は語っている。

原題は『Das Lehrerzimmer』、翻訳すると「職員室」。机の並び方とか雰囲気は異なるが、先生たちの会話、生徒と接する様子は、おそらく日本と同じだろう。

思いのほか生徒たちが大人びているようにみえる。答えを出させるというより、考えさせる授業のスタイルにもよるのかもしれない。事件への生徒たちのリアクションもまた、ロジカルで独特だ。そのことが、サスペンスを増幅させる。

上映時間99分。カーラの私生活や過去といった要素を排し、学校で起こったことだけに焦点をあて、緊迫感を持続させる。なごやかな職員室が、教室が、次第に猜疑心でギスギスしていく。カメラはその両方を行き来する。紛糾する父母会、とまどう生徒たち……。仕事熱心で正義感の強いカーラが、追い込まれていく、まるでホラー映画を観ているような空恐ろしさ。彼女の心理状態を表すかのような独特なパキッとした効果音に惑わされつつ、衝撃のラストまで、これはヤラれます。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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