『虎に翼』“ナイト気取り”な花岡の変化が愛おしい 直言は罪の自白でさらに困難な状況へ

「父さん、トラが幸せならなんでもいいよ」

酔っ払って帰宅したあの時から、何か悩んでいたのだろうか。帝都銀行に勤める寅子(伊藤沙莉)の父・直言(岡部たかし)が、共亜紡績の株価が高騰すると分かって不正に得た利益が政財界にバラまかれたとする事件に関わったとして逮捕された。

猪爪家は報道陣に囲まれ、寅子も大学に行けない日々。そんな中、『虎に翼』(NHK総合)第21話では窮地に立たされた猪爪家に強力な助っ人が現れる。

報道陣に見つからないように塀を乗り越えて猪爪家にやってきた花岡(岩田剛典)と穂高教授(小林薫)。寅子が驚き、はる(石田ゆり子)と優三(仲野太賀)を呼んでくると、穂高は自分が直言の弁護を引き受けると申し出る。「一緒に直言くんを助けようじゃないか」という穂高の心強い言葉に思わず感極まる寅子たち。すると、穂高は「お礼なら花岡くんに」と言う。これまで、国民の敵とみなされた直言の弁護は誰も引き受けたがらなかった。そんな中で穂高が名乗りを上げたのは、花岡に打診されたからだった。

寅子は協力を申し出るも、穂高に学生の本分は学業と促され、復学を果たす。久しぶりの教室では、みんなが民事訴訟法の抜き打ち試験に向けて勉強に励んでいた。寅子のことはそっちのけだ。こういう時、好奇の眼差しを向けることも、変に気遣うこともせず、いつも通りに接してくれるのが一番ありがたい。一方で、「お前もせいぜいあがけ」とよね(土居志央梨)から手渡されたノートには寅子が休んでいた間の授業の内容がびっしりと書き込まれていた。みんなの字が「味方だ」と言ってくれているみたいで心がじんわりとする寅子。ふと、後方の席に目をやると、小橋(名村辰)と稲垣(松川尚瑠輝)の顔にアザがある。実は昨日、寅子への心ない言葉に怒った轟(戸塚純貴)が二人を殴ったのだ。穂高が言った通り、寅子の居場所は奪われてなどいなかった。それも以前とは違い、寅子たちの教室には確かな絆が生まれたような気がする。

花岡も随分と変わった。以前は数少ない椅子を奪われるんじゃないかと寅子たちを脅威に感じつつも、ナイトを気取ることで虚栄心を張っていた花岡。だが、今回は心の底から寅子を助けたいと願い、彼女がそれを望んでいないことも考慮の上で自分なりの行動に出た。「不器用で色々と考えすぎちゃう人なのね、本当の花岡さんは」という寅子の言葉に、花岡は少しむず痒そうな顔を浮かべる。よねの時もそうだったが、寅子はいつもその人の本質を見つめ、その中にもしかしたら本人ですらも気づいていないような良さを見つける。だから言葉にされると少し恥ずかしいけれど、本当はよねも花岡も嬉しいのだろう。類は友を呼ぶ、ではないが、寅子の周りはめんどくさくて愛おしい人ばかりだ。

それからしばらくして、共亜事件に関わった現職大臣の逮捕により、現内閣は総辞職に追い込まれた。そして直言が逮捕されてから4カ月後、予審が終了し、被告人16名全員が裁判にかけられることになったとの報道がなされる。新聞には、直言が罪を自白した、と書かれてあった。それでもなお、寅子たちは望みを捨てずに帰宅を許された直言を家族総出で明るく出迎える。だが、すっかりやつれた直言は玄関で土下座。「俺はとんでもないことをしてしまった。お前たちに合わせる顔がない」と謝罪する。

果たして、本当に直言は罪を犯したのだろうか。子どもたちの幸せを一番に願っている直言が、それも妻のはるに頭が上がらない気弱な彼が、悪事に手を染めるとは考え難い。それに直言が検察の日和田(堀部圭亮)に「君の証言で全員を釈放できるんだ」と尋問される場面もあり、罪を認めるように誘導された可能性も捨てきれない。だが、一度罪を認めた以上、それを覆すのは困難な状況だ。誰もがショックで愕然とする中、穂高は寅子に「直言の口から何があったのか、言われなき罪を背負っているならば、そのことを聞き出してほしい」と頼まれ、立ち上がる。『虎に翼』が始まって以来の大事件に、寅子は打ち勝つことができるだろうか。
(文=苫とり子)

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