大事なのは“あの時のイラク”を忘れること。練習試合では勝利も...パリ行きを懸けた大一番、川﨑颯太も警戒を強める「形を変えてくる可能性もある」【U-23アジア杯】

パリ五輪の出場権獲得まであと1勝――。大岩剛監督が率いるU-23日本代表が死闘をくぐり抜け、パリ五輪のアジア最終予選を兼ねるU-23アジアカップの準決勝まで勝ち上がってきた。

ストレートインは上位3か国で、4位はアフリカ4位のギニアとのプレーオフに回る。今大会ではサウジアラビアや韓国といった有力チームが準々決勝で姿を消しており、パリへの切符は容易に掴めないことが分かる。

日本も楽に勝ち上がってきたわけではない。数的不利で戦った中国とのグループステージ(GS)初戦(1-0)から厳しい戦いを強いられ、ノックアウトステージ進出を決めて臨んだGS最終節の韓国戦は0-1で敗れた。

準々決勝のカタール戦では、早々に先制点を奪ったものの、前半の半ばに失点。相手GKの退場で数的優位に立ちながら、一時逆転を許したものの、延長戦の末に4-2で競り勝った。

「カタール戦は本当に負けたらアウトだったので、今まで感じたことがない重圧があった」とMF山本理仁(シント=トロイデン)が明かした通り、大きな緊張感に襲われたが、プレッシャーを跳ねのけて、大岩ジャパンは準決勝に駒を進めた。

“簡単に勝てる試合はない”とよく言うが、まさにその通りの戦い。これぞアジアの厳しさだが、選手たちは一戦ごとに逞しさが増して、今まで以上に精悍な顔つきになってきた。

そうした成長ぶりについて、イラクとの準決勝を翌日に控えた4月28日の練習後に川﨑颯太に尋ねると、確かな変化があると話してくれた。

「間違いなくそうだと思う。全選手がタフに戦ってくれているし、怪我人もあまり出ずに戦えている。そういう面でも最後までタフにやりたい。ベンチだろうが、試合に出ていようが、チームのために戦う。それが自分たちの良さなので継続してやっていきたい」

なかでも頼もしく感じているのが、右SBの関根大輝(柏)だ。川﨑は言う。

「言うたらプロ1年目で、開幕からあれだけ試合に出ているとはいえ、これだけ逞しいサイドバックでいてくれるとは思わなかった」

【PHOTO】松木玖生や川﨑颯太らが絶妙ポージング!アジアカップを戦うU-23日本代表全選手&監督のポートレートを一挙紹介!
もちろん、関根に対して“上から目線”で言っているわけではない。信頼もしているし、能力にも一目置いている。そのなかで自身の想像をさらに超えるようなパフォーマンスを見せているからこそ、惜しみない賛辞を送ったのだ。

関根のインナーラップや、様々な球種で蹴り分けるクロスは武器になっており、何よりタフに戦う姿勢はチームにポジティブな影響を与えている。今大会は1、2戦目にフル出場し、準々決勝では120分間プレー。チームから信頼されている何よりの証であり、川﨑の言葉にも納得がいく。

ただ、川﨑は良い雰囲気であったとしても、イラク戦に向けて気は緩めていない。イラクとは大会前の練習試合で対戦し、1-0で勝利を収めていたとしても、だ。

改めてベトナム戦(イラクの準々決勝)の映像を確認したうえで、川﨑は「自分たち相手に形を変えてくる可能性もあるので、なんとも言えないですけど、カウンターが鋭い」と警戒を強めたが、最も大事なのは“あの時のイラク”を忘れることだという。

「相手も大会前の調整で試していた部分もある。やっぱり“あのイラク”だと思えばやられてしまう。選手の特徴は十分に理解しているのでいいけど、チームでやるべきことについては、練習試合をあまり意識しないほうがいい」

運命のキックオフは、日本時間で29日の26時30分。勝利を収めればパリ行きが確定する。「力の勝負とかよりは、その状況をいかに楽しめるかが大事」とは川﨑の言葉。監督、スタッフ、23人全員の力で最高の結果を掴みにいく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

© 日本スポーツ企画出版社