現実味を帯びるタワマン・クライシス 資産価値が暴落危機、女性住民が悔やんだワケ

タワーマンション(写真はイメージ)【写真:写真AC】

大規模修繕ができない? 「タワマン・クライシス」が現実に

超高額の部屋も多いタワーマンション。しかし、その物件自体は「タワマン・クライシス」が現実となっているケースもあるという。今回は、築15年のタワマンに住む女性から上がっている声を紹介したい。

「つい数年前に初めての大規模修繕が終わりました。作業用のゴンドラを設置して行い、外壁の補修や屋上の防水工事、ベランダまわりの補修などさまざまな部分を修繕できたのですが、問題はその費用だったんです」

今年39歳になる角田花さん(仮名)は、5年ほど前に中古でタワマンを購入。2LDKでそこまで広い物件ではないものの、子どもを望まない夫と2人で暮らす花さんにとって「ちょうどいい物件だった」という。

このタワマンに決めた理由の1つが、ランニングコスト。多くのタワマンが3~4万円の修繕積立金を含めた管理費用が必要であるのに対し、花さんが選んだタワマンは2万円台。月々の負担が少ない分、暮らしに余裕が出るとの判断だった。

「大規模修繕が行われた2年後にマンションの理事になりました。そこで通帳やら何やらを確認した際、思ってもみない金額の赤字があることに気付いたんです」

職場は大手企業相手のコンサル会社で、これまで多くの会社を破産の道から救ってきた花さんですが、億単位の赤字を目にして信じられない気持ちでいっぱいになったという。

「このままでは、あと10年ほどで行わなければならない2度目の大規模修繕は確実に行うことができませんし、マンション自体が経営破綻するのでは、と不安で仕方ありません。マンションって破産することはあるのでしょうか……」

修繕積立金の値上げが必須「少しでも早く借金の返済を」

20年以上のキャリアを持ち、不動産業界に精通する中目黒「コレカライフ不動産」の姉帯裕樹さんに、タワーマンションの現状について聞いた。

「『タワマン・クライシス』は数年前から繰り返し言われていたことですが、インフレや物価高騰によりいっそう現実味を帯びてきています。ちなみに花さんが心配なさっているのはマンションの管理組合が破産し、マンションに住めなくなるのではないかということだと思いますが、そうした実例はこれまで聞いたことがありません。ただ、今後、どうしてもお金が足りないということになれば、土地を担保にして修繕費用を借入することになると思うのですが……まぁ、マンションの資産価値はガクンと下落するでしょうね」

巨額な費用が動く大規模修繕。これ以上の赤字を避ける手立てはないのだろうか。

「そもそも、こうした費用は業者の『言い値』になっていることが多いんですよね。通常のマンションであれば足場を組んで修繕を行いますが、高さ60メートルを超えるタワマンとなると同じような工事を行うわけにいかず、修繕ノウハウを持っている業者は限られてきます。また、人手不足が続く日本では今後、人件費がかさむことも予想されます。石油燃料の枯渇もそう遠い未来ではない以上、確実に運送費用の増大が見込まれます。ですから、できることはただ1つ。修繕積立金を値上げし、少しでも早く借金を返済し、次の大規模修繕に備える。ただこれだけです」

とにかく住民の負担を増やしてでも修繕のための資金を積み上げておくしかないというのだ。

「例えば、花さんが住むマンションが180戸で、修繕積立金が1戸あたり2万円であると仮定し、5000円ずつ負担を増やせば年間5400万円が貯まる計算となります。これを10年貯めれば5億円を超えますから、これで借金を返済できるようなら、次回に備えることが可能になってくるでしょう。次回の大規模修繕でも借金をする羽目になるかもしれませんが、少しはマシになるのではないでしょうか。

住環境を選ぶ際、ランニングコストを抑えたい気持ちはよく分かります。しかし、修繕積立金が安いということは、いざという時に備えられない可能性があるということ。コストが高いということは、それなりに安心を担保できるということをぜひ覚えておいてください」

□姉帯裕樹(あねたい・ひろき)「株式会社ジュネクス」代表取締役。宅地建物取引士の資格を持ち、不動産取り扱い経験は20年以上を数える。独立した現在は目黒区中目黒で不動産の賃貸、売買、管理を扱う「コレカライフ不動産」として営業中。趣味はおいしいラーメンの食べ歩き。和栗恵

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