【今週のサンモニ】社会を説教するが具体策は何もなし|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

軍拡は安全保障=セキュリティ対策

2024年4月28日の『サンデーモーニング』が取り上げたイランとイスラエルの国際紛争は、『サンデーモーニング』が叫んでいる「外交万能論」による「空想的平和主義」が無効であることを示す極めて分かりやすい事例であったと言えます。

膳場貴子氏:4月22日の月曜日です。去年1年間に使われた世界の軍事費が過去最大になったとスウェーデンの研究機関がこの日発表しました。日本円にしておよそ379兆円。日本の国家予算の3年分を超える額です。上位10カ国はいずれも増えています。ロシアやウクライナの増加率が目立ちますが、10位の日本も過去50年で最大の増加率となりました。

このデータは、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発表したものです。

世界の警察官と呼ばれる米国の軍事費は突出していますが、特筆すべきは日本の周辺に位置する専制覇権国家の中国とロシアが、この10年で約60%も軍事費を拡大している点です。

日本もこの10年でなんとか30%軍事費を拡大しましたが、その額は、中国の1/6、ロシアの1/2に過ぎません。ここで、目加田説子氏が噛みつきます。

目加田説子氏:冷戦が終結してから今は最大の軍拡時代に入ったなと。軍事費を見ると冷戦時代に舞い戻ったかのようだ。ただし、冷戦時代を検証したいろいろな研究から、軍拡というのは最大の無駄だったということが明らかになってきている。我々はそこを教訓として直視しなければいけない。

他国を侵略しない自由主義社会にとって、軍拡はあくまでも安全保障=セキュリティ対策であり、全体主義社会との間に交戦というハザードが発生しなかったことから、少なくともすべてが無駄であったとは言えません。交通事故を起こさなかったドライバーに、自動車保険に加入していたことは無駄だったというのと同じです。

勿論、過剰なリスク評価に基づく投資は無駄につながりますが、重要な事実は、軍拡戦争によって経済が破綻した専制全体主義国家のソヴィエト連邦が平和裏に崩壊したことです。

このことは、軍拡が無駄なく間接的アプローチの戦略として機能したことを示す証左と言えます。軍事という強制力は、警察の拳銃と同様、使わないことが最善のシナリオなのです。

安全保障のジレンマに陥っている国は……

目加田説子氏:それから「安全保障のジレンマ」という言葉がある。軍拡で安全になると思ったら、相手も軍拡してしまうということで、逆に言うと安全保障が不安定になってしまう。いま世界はそのジレンマに突入していると思うし、日本もこれだけ防衛費が増大していて、最終的に倍増すると言っているわけなので、このジレンマに陥っているのではないか。けっして安全保障環境は改善していない。

冷戦後の軍拡の主役は、2000年代に突入して軍事費を急拡大させた中国と、2014年のウクライナ侵攻以降に軍事費を急拡大させたロシアです。

専制覇権国家である彼らは自国周辺の主権が及んでいない土地を核心的利益と宣言し、侵略を実行してさらなる拡大を虎視眈々と狙っています。とりわけ中国は、日本の領土である尖閣諸島を核心的利益と宣言しています。

既に日本を敵認定している相手に対してセキュリティ対策を強化することは、安全保障のジレンマという「選択の問題」ではなく、「選択の余地のない課題」です。

安全保障のジレンマに陥っている国があるとすれば、それは中国とロシアです。「汚染水」デマもそうでしたが、なぜ目加田氏は、加害者側のならず者国家に与し、被害者側の日本を不合理に批判するのでしょうか。

次々続く不合理発言

不合理と言えば、この発言も不合理です。

膳場貴子氏:米国でこの日(4月24日)、およそ9兆4000億円にのぼるウクライナ支援の緊急予算が成立しました。米国からの支援は昨年末から滞り、ウクライナは劣勢に立たされていましたが、緊急予算の成立を受け、早速、対戦車ミサイルや地対空ミサイルを供与することが発表されました。ウクライナにとってはようやく一息つけるという感じではあるのですが、戦争の終わりがなかなか見えない。

劣勢に立たされた被侵略側のウクライナへ米国が支援を行ったことに対して、「戦争の終わりが見えない」とするのもおかしな話です。まるで、ロシアの侵略が成功して戦争が終わることを米国が邪魔したかのように聞こえなくありません。さらにガザの話題では…

目加田説子氏:すごく懸念しているのは、先日広島市が今年の夏の平和式典にイスラエル大使を招待することがニュースになっていたが、やはり被爆地から人道主義を侵食するようなことをするべきではないと強く申し上げたい。

前週の『サンデーモーニング』における安田菜津紀氏の発言と同様、目加田氏は、広島市が平和式典にイスラエル大使を招待することを被爆地が人道主義を侵す行為とみなしました。

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ | Hanadaプラス

もう一度繰り返しますが、そもそも、広島平和式典の目的は、平和の実現を希求することです。主催者である広島市が「どの国が悪であるか」を判定する式典ではなく、戦争当時国を排除する式典でもありません。式典の目的を考えれば、すべての国・地域を招待するのが合理的です。

外交こそが戦争抑止に最も重要であると主張している目加田氏が、そのチャンスを棒に振るよう広島市に要求するのは理解不能です。

東京は100年前から約2.5℃上昇

さて、この日の「風をよむ」のテーマは、『サンデーモーニング』の季節の風物詩である地球温暖化問題、「温暖化の臨界点」というタイトルでした。

膳場貴子氏:国連が定めたSDGs持続可能な開発目標にも謳われた気候変動への具体的な対策、それが今、危機的な状況を迎えています。(中略)
私たちにとって喫緊の課題である地球温暖化、それが一線を越えたかもしれません。去年2月から今年1月までの世界平均気温が産業革命前と比べ1.52℃上昇したのです。地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定では産業革命前と比べ気温上昇を1.5℃までに抑えるという目標を掲げました。それを今回初めて1年の平均で上回ったのです。(中略)
一線を越えたかもしれないと聞くと本当に不安になってしまうんですけれども。

そもそも、1.5℃は人間が決めた閾値であり、これが地球物理における臨界点であるかのように認知操作した上で、安易に恐怖に訴えるのは、あまりにもカルト的です。ちなみに東京は100年前から約2.5℃上昇しています。

薮中三十二氏:本当に地球が危ないんだということを政治家・リーダーがきちんと理解して、国民もそれを本当に大事な問題だと自分事として考えなければいけないと。ところが今、政治家・リーダーが何を考えているかというと戦争だ。さぁ軍備拡張だと。そっちの方に関心が行っている。本当はこっちも、地球は危ないんだよということをもう一回あらためて考える必要がある。

藪中氏のこの発言を聞く限り、あまりにも論理展開が雑であると同時にあまりにも人任せであり、大事な問題だと自分事として考えていないような印象を受けます。『サンデーモーニング』の出演者の皆さんは、総じて観念的に社会を説教するだけで、具体的なことは何も言わないのです(笑)。

暑さより寒さによる死の方が多い

目加田説子氏:1972年に人間と環境の関係について議論する初の国連会議がストックホルムで開催された。人間環境宣言を採択したが、どういうことかというと、環境は人権問題なんだということを謳った。とはいえ、法的拘束力のない宣言だったが、つい先日、欧州の人権裁判所で画期的な判決が出た。「暑さに伴うリスクから健康を守ることができなくなった。なぜなら政府がきちんと対策を取ってないからだ」ということで救済を求めた。その結果として、判決は「地球環境と人権は密接に関係があって、政府はきちんと対策を講じなければいけない」という内容だった。こういった訴訟はこれから増えてくることが想定されるし、日本でも、環境問題は人権問題というような意見が、今後、政府や企業に対しても出てくる可能性があることを視野に、より強い対策を講じることが求められている。

目加田氏は、暑さによる健康被害を問題視していますが、これは極めて一面的な見方です。現実問題として、世界中において、暑さによる死よりも寒さによる死(凍死)の方が圧倒的に多いことが知られています。

地球温暖化で先進国の死亡率は減る

例えば、次の図は世界各地における天候に関係する超過死亡者を1990年から2090年まで予測したものです。

赤線は暑さによる死者数、青線は寒さによる死者数であり、地球温暖化は今後数十年の間、寒さによって亡くなる多くの命を救うことになるのです。

あえて言えば、目加田氏は、暑さで死ぬ人の人権を重視する一方、寒さで亡くなる人の人権を軽視していると言えます。

Estimates of changes in cold-related and heat-related excess deaths for nine regions and three emissions scenarios. This calculation moves the temperature distribution but holds the temperature-death risk relationship fixed: no adaptation or changes in resilience are allowed. From Gasparrini et al. (2017).

また、公共の電波を使って原発停止を強く求めてきた『サンデーモーニング』が、長期にわたる日本のCO2排出増に多大な貢献をしたことは自明です

目加田氏の主張が真であるのならば、『サンデーモーニング』こそ、地球温暖化を推進した人権蹂躙番組ということになります。違いますか。そうでしょ(笑)。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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