【映画で学ぶ英語】『情熱の航路』の映画史に残る名言

1942年に公開された『情熱の航路』は、クルーズ旅行での出会いをきっかけに1人の若い女性が成長していく姿を描いた恋愛ドラマ映画だ。

20世紀米国を代表する映画女優、ベティ・デイヴィスが、愛によって自分の人生を見つける女性を演じ、アカデミー主演女優賞にノミネートされた。

今回はこの映画の名セリフから、「~しないようにしよう」という英語の表現をいくつか紹介する。なお、この記事は映画のネタバレを含むため、未鑑賞の方は注意されたい。

■映画『情熱の航路』のあらすじ ボストンの裕福な名家ヴェイル家の末娘シャーロット(ベティ・デイヴィス)は、「毒親」と言えそうな母親に支配されて精神的に追い詰められていた。そんな彼女に医師のジャキスは、母親と距離を置くため、サナトリウム滞在の後、南米へのクルーズ旅行を勧める。

クルーズ船でシャーロットは、建築家のジェリー・デュランスと親しくなる。夫婦関係が冷え切ったジェリーは、そのことで妻が娘ティナに辛く当たるのを気にかけていた。

ブラジルでジェリーと情熱的な5日間を過ごしたシャーロットだが、ティナの境遇に自分を重ね合わせ、娘のために家庭を維持するジェリーとは以後会わないことにしたのだが・・・。

■映画『情熱の航路』の名言 クルーズ旅行から帰ってきたシャーロットは外見も一変して、社交的で独立した女性になった。ある日彼女は、知り合いのパーティでジェリーと偶然再会する。

ジェリーは、ティナをシャーロットが勧めたジャキス医師のサナトリウムに入院させていたのだ。サナトリウムを訪れてティナと打ち解けたシャーロットは、彼女を引き取って育てたいと申し出る。ジャキス医師は、ジェリーとの関係がプラトニックなものにとどまるならば、と条件をつけて許可した。

シャーロットに「それであなたは幸福なのか」と問うジェリーに、彼女は夜空を見ながら答える。

Oh, Jerry, don't let's ask for the moon. We have the stars. 「ジェリーったら、お月様を求めるなんてやめましょう。星は持ってるんだから」

■表現解説 ”Don’t let’s”は”let’s”を否定する命令文であり、このあとに動詞の原形を伴って、「~しないようにしよう」という意味になる。相手の提案や質問を婉曲に断るときによく用いられる。

”Ask for the moon”は「実現が非常に困難、または不可能なものを要求する」という意味の慣用句だ。

現在、「~しないようにしよう」を英語で言う場合、”let’s not”に動詞の原形を加えるのが一般的である。これに対して”don’t let’s”という言い回しは古臭く、イギリス的に聞こえるようだ。

単語や成句が過去にどの程度頻繁に書籍に出現したかを手軽に調べられる「Google Books Ngram Viewer」を使って、”don’t let’s”と”let’s not”の出現頻度を比較してみよう。

アメリカ英語では、1920年代半ばに”let’s not”が”don’t let’s”を上回り、以後”let’s not”が圧倒的に多くなっている。

一方、イギリス英語では、1950年代までは”don’t let’s”を用いることが多く、2000年になってもその使用頻度はアメリカ英語よりは高い。

ところで、”don’t let’s”の語順を入れ替えて、”let’s don’t”と言うことはできるだろうか。

”Let’s don’t”は方言とされるが、19世紀から北米を中心によく見られる表現で、1996年のクリントン大統領の発言でも、”Let’s don’t go back.”のように使われている。

こういったことから、「~しないようにしよう」にあたる英語としては、”let’s not”、”don’t let’s”、”let’s don’t”の3つを覚えておくと良いだろう。

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