「ブギウギ」 脚本家・足立紳、「朝ドラ」最終回でそのパワーをしみじみ感じた3月

By 足立紳

「足立 紳 後ろ向きで進む」第48回

結婚21年。妻には殴られ罵られ、2人の子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々──それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

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3月1日(金)

毎月1日は「映画の日」なのに、なぜか毎月バタバタしていて映画を観に行けない。今日も今日とて、息子が陰鬱な表情で学校から帰宅。クラスメイトと揉めたらしく凹んでいた。どうやら授業をさぼる息子に対して「お前はズルい」とか「ちゃんとやれ、サボり!」などと言われた模様。

サボっているのが気にくわない子ももちろんいるだろう。だが、息子にはサボっている自覚はなく、苦しいものには行きたくないという気持ちでしかない。それが世間ではサボっているとイコールなのだが、かわしながら参加しないと学校自体に行けなくなってしまう。

自分が居心地悪く苦しさを感じる授業は無理に出なくてもいいと言っているせいもあるのだが、結構簡単に図書室や廊下に逃げているらしい。いろんな人のいろんな見方があるし、息子もクラスメイトが委員会をサボるのを許せなかったりもする。他人から寛容にしてもらっている人が、その他人に対して不寛容なことはよくあることだし大人になってもこういうところは難しい。気分を変えるため『進撃の巨人』のアニメ鑑賞に付き合う。仕事は溜まっていて焦るが致し方ない。

夜、とある俳優さんと会う。背水の陣で映画を作りたいとのことで、プロデューサーにも自ら声をかけていた。協力したいが何ができるか。

3月2日(土)

朝から雨。娘の強い希望で家族でカラオケに行く予定だったのだが、出がけに息子がグズッてしまう。仕事や家庭のことなど多くが重なった妻の逆鱗にそのグズりが触れて、妻に一喝された息子は動かなくなる。

こうなるとテコでも動かないので、そもそもカラオケに行きたくなかった私が、息子と残って家で映画でも観ようと思ったら、息子が珍しく映画館に行きたいというのでシャレではないが『カラオケ行こ!』(監督:山下敦弘)を観に行った。

妻と娘は2人で5時間カラオケをして戻ってきた。歌いまくってご機嫌で戻って来るのかと思ったら2人とも不機嫌だったのでびびった。

※妻より

不機嫌というか……。朝「家族でカラオケ行く!」となって、土曜だからわざわざ4人で行ける時間と部屋を12時に予約を取ったのに、直前に「行かない!」と。仕方がないから娘とカラオケ行って、夕方家に帰ったら、悪びれもせず2人して平気でベラベラベラベラ映画の感想などぶちかましてきたので、息子と夫にこういう特性があるのは重々分かっていましたが、イラつきが止められませんでした。娘は娘で、家族でカラオケに行くのを何気に楽しみにしていたから、単に寂しい気持ちの裏返しで不機嫌になったのだと思います。

3月3日(日)

朝から「第4回SAITAMAなんとか映画祭」へ。第1回のときに『喜劇 愛妻物語』を上映していただき、ゲストとして呼ばれて行ったのだが、今年は自主映画の審査員として入江 悠監督と川越スカラ座編成担当の飯島千鶴さんと一緒に呼んでいただいたのだ。自主映画を観るのもかなり久しぶりだったが、その場で観てその場で感想を言うという大変緊張感あふれる一日だった。私は自主映画というものを一度も作ったことがないので、一度は作ってみたいとずっと思っている。

3月5日(火)

5月に撮影予定の別府短編映画のオーディションを終日。皆さんとても面白くてこちらも大変刺激を受けた一日だった。面白い俳優さんがほんとうに大勢いらっしゃるので、こちらもついていかねばらないと思う。

3月6日(水)

終日オーディション。今日も皆さんとても面白くて、時間があっという間に過ぎていく。

3月7日(木)

引き続きオーディション。できれば来てくださった方全員に出ていただきたく思うくらい悩む。

夜、娘と大ゲンカ。もともとは妻と娘の小競り合いが発端だったのだが、娘と距離を取った妻の代わりにしゃしゃり出た私に不機嫌な娘がひどい態度をとり、私がブチ切れてしまったという、なんだこりゃという状態。なんで俺がこんな状況にならないとならんのか。しゃしゃり出たからか。

※妻より

「しゃしゃり出たから」とかそういう単純なことではないと思います……。

3月8日(金)

午前中、月に一度のスク-ルカウンセラ-との面談。息子の様子を聞く。息子はカウンセラーの先生が好きで、その先生の部屋でゲームをしたりして遊ぶのを楽しみにしているのだが、その様子を聞くと頭が痛くなるようなことも。

先生からするとそういう子なら当たり前のことで、特段珍しそうに話されるわけではないのだが、我々親からすると「ああ、まだそういう部分が頻出してしまうんだよなあ……」と思ってしまうようなところもある。話を聞いていると、校内での居場所がいくつかあるそうだ(週1の特別支援教室、隔週のスク-ルカウンセラ-、辛い授業の時は図書室のT先生 ※週2しか来てない)。

ついつい、みんなと一緒に楽しそうに遊んでほしいなあなどといまだに思ってしまうところもあるのだが、これもやはり私のアップデートの問題で、誰ともでも仲良く遊んでいる姿は素晴らしいという刷り込みでしかないのだ。過ごしやすいように過ごしてくれたらそれが一番いいのは頭では理解しているのだが……。世の中、頭では理解しているのに行動が伴わないことだらけで嫌になるから、うまく目をそらす術も身につけたい。

夜、中学時代の友人と会う。彼が若者2人を連れて来たのだが、とても気持ちの良い青年で私もこんなふうに伸び伸び清々しく自分の考えや思いなどを他人に伝えられる人間になりたいなあと思った。妻も同席していたのだが、妻がこの若者たちに惚れてしまうのではないかと、思わずそんなことまで脳裏をよぎってしまうような2人だった。

※妻より

確かに素直で、正面体当たりなのに謙虚さも兼ね備えている方々でした。こういう若者は色々とチャンスに恵まれるだろうな……と眩しく感じました。

3月9日(土)

午前中、いつもの喫茶店で仕事。午後、息子の中学校の候補に見学へ行く。この日記にも息子の中学校探しのことはちょいちょい書いているが、見学だとどの中学校も素晴らしいと思ってしまう。結局行ってみなけりゃ分からないというギャンブルにしかならないような気がする。

見学している中学校はどこも学力重視ではないから偏差値的にはとても入学しやすいのだが、競争率が高い。だから結局学力での判定となるのでそこをどう突破するか……。

3月13日(水)

高校時代の友人が紹介してくれた制作会社の方々とお会いする。何かできればうれしいが……。

最近は高校時代や中学時代の友人たちとの交流が盛んで、何かこれを機に故郷の鳥取で作品を作れないものだろうかと思っている。『14の夜』や『雑魚どもよ、大志を抱け』の2本は小説では鳥取県を舞台に描いていたのだが、両作とも鳥取でのロケはかなわなかった。

地元の倉吉が舞台である谷口ジローさんの『遥かな町へ』も大好きなマンガだから実写にしたい気持ちもあるし、地元を舞台にしたホラー映画のプロットもある。いつかいつかと言っているうちに気づけばもう……なんて年齢になってきたので、できるだけ多くの地元の方々に会おうと思っている。そういう地道な動きをずっとないがしろにしてきてしまったのだ。

3月14日(木)

新宿Fu-へ、はまこ・テラこさんのライブ『テラこがあまりしゃべらないネタをするライブ』を妻と見に行く。『漫才協会the movie』(監督:塙 宣之)ですっかりお2人に魅せられてしまったのだ。下ネタオンパレードで『月に一度はドバドバよ』という女性の生理のネタで妻が死ぬほど笑っていた。

もちろん私も大いに楽しませていただいたのだが、夫婦漫才を組んで離婚してもなお一緒に住みながら漫才を続けていらっしゃるお2人の人生そのものがなんと言うのか、新しい生き方を見せていただいているようで刺激的でたまらない。これからも追いかけていきたい。

帰りに近くのロシア料理屋「スンガリー」に閉店間際に飛び込んだのだが、大変美味しかった!

↑前菜の盛合せがボリューミーで美味しくてうれしかったです! 全ての料理を食べてみたいです。ウォッカにはラストオーダーがなかったので、クイクイ飲んで最高でした!(by.妻)

3月15日(金)

朝イチで羽田空港へ。明日、鳥取で『ブギウギ』のイベントがあるのだ。

空港の待合ゲートで『ブギウギ』を見て、その流れで『あさイチ』を見ていた。今日は趣里さんがゲストで、私も少しコメントしていたのだ。オンラインでコメント取材を受けたのだが、もしかしたらその模様も流れるかもしれないと言われていたのだ。すると、ピシッとされた草彅剛さんのあとにオンライン上でだらしないとしか言いようのない自分が画面に出てきてビビった、というか薄汚さに引いた。

オンラインだから寝起きでインタビューに答えていたのだ。当初は映像はなく私のコメントだけ欲しいとうことだったので寝起きでいいやと思ったのだが、インタビュー後に「このオンラインインタビューの様子を映像で使えれば使ってもいいですか?」と聞かれ「いいですよ」と答えてしまったのだが、まさかあんなに汚く映っているとは思わなかった。

そんな映像を茫然と眺めていると「足立さんじゃないですか! 何してるんですか!」と知り合いの脚本家の方に突然声をかけられ驚きまくってしまった。まさか、こんなところでこんな時間に知り合いに会うとは思わないし、自分が関わっている番組を見ている姿を見られて恥ずかしかったというのもあり、オタオタしてしまったのだ。逃げるようにその場を去った。

昼は両親と合流して何やら趣のありまくる重要文化財的な(本当にそうかも)建物の飯屋で昼飯を食って、ご利益のあると言われている大きな根をはった銀杏の木にお参りした。

そして、夜は相変わらずの地元の友達たちと盛り上がる。

3月16日(土)

『ブギウギ』のファンミーティングというものを催していただき、制作統括の福岡さんといろいろとお話させていただいた。地元の方々もとても喜んでくださったり、わずかばかりの親孝行にもなったりで、そういう意味でも朝ドラの仕事をやって良かったなと思った。

夜はまた地元の友達とスナックをはしごしまくった。

3月17日(日)

朝イチの飛行機で東京に戻り、昼過ぎから息子がどうしても観たいと言っていた『変な家』(監督:石川淳一)を家族で観に行く。

その後、近所の蕎麦屋でカツカレー、天丼と力うどん、刺身定食、妻は酒とつまみのみで、蕎麦屋で誰もそばを食べないという夕飯。でも、その蕎麦屋の蕎麦はとても美味しい。

3月19日(火)

午後、妻とともに校長先生に息子の取説を説明しに行く。息子は毎年学年の変わり目には調子がさらに悪くなる。特に6年生になることには「最高学年になる自覚と責任を」などという言葉を頻繁に聞くようになり圧を感じるのか不安が強い。

そんな言葉は私が小学生のころからあり、まともに考えたこともなかったが息子は文字通り真面目に受け止めてしまう。受け止めて文字通りの行動をするなら問題ないが、圧を感じて疲れて動けなくなるのだ。苦手な先生が担任になるかもという取り越し苦労も、もはや取り越し苦労を超えて妄想レベルに達して不安がっている。

なので校長先生にそんなことも伝えに行ったのだ。できれば担任の先生はこんな雰囲気な方を……というこちらの願望をニコニコと聞いてくださった。

夕方、周南映画祭実行委員長の大橋さんと奥様、私と妻の4人で夕飯を食べに行く。去年の周南映画祭で会った以来だが、映画のこと、子育てのこと、夫婦のことなどで話が尽きない。あっという間の4時間。大橋さんご夫婦の、というかご家族の物語は映画やドラマにするとかなり面白いものになると思う。大変楽しい時間だった。

3月20日(水/春分の日)

午前中オーディション。午後、鳥取から上京している私の幼なじみの家族に会いに池袋へ。彼の息子と私の息子は同学年で、帰省したときはよく一緒に遊んでいるので一足先に息子だけ合流していた。昨年の夏以来の再会に最初ははにかみあっていたが、すぐに打ち解けた。

夕方、息子はどうにか笑顔でバイバイしたが、別れたあとにボタボタ涙を流した。学校が楽しくないだけに、鳥取の友人と会ったことがよほどうれしかったのだろう。こちらまで目頭が熱くなりながらも、あの優しい友達も長い時間(例えば数日間)息子と過ごすと、いろんな特性に付き合いずらさを感じてしまうのだろうなあとも思ってしまう。そして、そんな思いを妻に吐露すると「すぐにそんな不安ばかり口に出すな!」と一喝される。

3月21日(木)

この日もオーディション。いよいよどなたに演じていただくのか決めねばならない。何かを決めることが苦手なのは、優柔不断というよりも、決めたら決まってしまうからだ。当たり前なのだが。

3月22日(金)

終業式。息子、成績表に落ち込んだのかあまり元気なく帰ってくる。ランドセルと手提げかばんに大量の荷物が入っていてめちゃくちゃ重い(もちろん息子は計画的に持ち帰ることは苦手)。かばんには電気を学べるプラモデルカーのようなものが丸々手つかずで入っている。

息子はこういうのを作るのは不得意中の不得意だ。私もプラモデルを完成までもっていけたことがない。設計図が読めないからだ。このプラモデルを作るのは多分4コマくらい時間をかけていると思うから、その時間息子はいったい何をしていたのだろう……とまた心配になる。

15時から妻とともに日本橋で山陰地方の方と打合せ。私が鳥取で作りたいものがあることを妻は知っているのに、「島根でも大丈夫です」なんて言うものだから、私は打ち合わせ中カリカリしていた。そして打ち合わせが終わり、エレベーターの前まで送っていただいて扉がしまった瞬間に「何、島根って。俺、鳥取でやりたいんだよ。勝手なこと言わないでよ」と妻に言ったら「は? 別にどっちでもできるじゃん。鳥取にこだわり過ぎなんだよ」と言われてそのままケンカに突入。

※妻より

話すと長くなるから省略しますが、最初のすり合わせができていなかっただけです。それでパニックになった夫がエレベーターで喚き散らしておりました。

最強に険悪な雰囲気のまま神保町の書泉グランデに移動して佐藤利明さんと『ブギウギ』についてのト-クイベントになだれ込む。妻は瞬時にニコやかになりご挨拶。私は瞬間的に切り替えることができない性分なのだが、そんな私のほうが妻からすると「外面だけ良い人間」となる。

だが、佐藤さんの明るい話ぶりと笠置シズ子さんや関連映画への博識ぶりが楽しくて、トークイベントは非常に充実したものになったような気がする。

先週も今週も帰宅が遅い日が多かったのでダッシュで帰宅。11時くらいに帰ると息子がベッドでぐったりしていて居間も寝室もゲロまみれ。布団にも床にもなかなか大量に吐き散らかしている。

思わず私も妻もパニックになりながらゲロの始末や息子を着替えさせ、なおかつ娘に「弟がこんな状態なんだから連絡くらいしろ!」と怒ってしまったら、なんと娘も具合が悪かったようでその15分後くらいに一気に吐き出した。いったいなんなのかよく分からない。作り置きしていた夕飯にあたったのか。

それから朝まで娘と息子は盛大に吐き続けた。我々はビニール袋を用意したりバスタオルを換えたり、背中をさすったりでほとんど眠ることもできず。

3月23日(土)

夜中からずっと雨のため、ゲロまみれになってしまった蒲団やらカーペットをかついで近所のコインランドリーへ朝から入り浸り。妻は高校のPTAの引き継ぎがあるとかで8時に出発してしまったため、1人で雨の中何往復もしながら。

吐きつくした子どもたちは死んだように眠っている。帰ってきた妻とバトンタッチして銀座に『骨と軽蔑』というお芝居を武 正晴監督と観に行く。7人の俳優さんたち皆さん素晴らしかった。

※妻より

午後、私が帰ると、ぐったり寝ている息子の脇で、婆さん猫がピタッと寄り添って見守っていた。こんなに嘔吐の処理をしたのは、娘息子が幼いころ、ノロかロタになった時以来だ。この大変さを忘れていた。

その後、四谷の「あぶさん」に移動して、武さん、坂田さん、芦川さん、ゆかわさんと延々と高校野球話。途中で武さんの明治大学の同級生で、野球部のキャプテンだった黒木さんも加わってくださり、明大野球部の楽しいお話をたくさん聞かせていただいた。しかし、明大野球部のキャプテンなんて聞くと凄まじい猛者を想像してしまうのだが、黒木さんは猛者の匂いをまったく感じさせないニコやかで穏やかな話しぶりが最高だった。

3月24日(日)

娘も息子も毒を出しきったのか、ケロッとして元気になり食欲も戻った。かわりに私が少々気分が良くない。だが今日は高崎映画祭の受賞式だ。

娘や息子のゲロを触ったことで菌をもらったのか、吐き気と熱っぽさを感じながら妻とともに高崎へ。最優秀監督賞をいただいたのだ。高崎映画祭は昔から憧れていた映画祭だっただけに喜びもひとしおだ。しかも受賞すると、次から次へと高崎の美味しい野菜やらお菓子やらが送られてくる。そんな特典は知らなかったのでなおこのことうれしい。

授賞式のときは緊張しすぎて気分の悪さも忘れていたのだが、壇上での挨拶がつまらなかったと妻からダメ出しされてまた具合が悪くなってくる。

具合が悪いのに食い意地はおさまらず、打ち上げ会場でうまいものをガンガン食べていたらいつの間には具合の悪さをおさまった。

他の受賞者の方々や司会の渋川清彦さんらと12時過ぎまで飲んで、この日は高崎に泊まった。

↑新人俳優賞に「雑魚ども一同」がノミネートされており、涙が出そうになりました。高崎映画祭の皆々様、スタッフ・キャストの皆さま、映画を観てくれた全ての皆さま、本当に有難うございます(by.妻)

3月25日(月)

朝8時には高崎を出発して帰宅。今日は卒業式で、小5の息子も出席する日だったのだが、どうしても出られないというので休ませたから早く帰りたかったのだ。卒業式の予行練習は何度もやっていたが、息子は最初から最後まで体育館に居続けることは難しかったようだ。

卒業式に出なくても全然いいんだけど、出たくない理由教えてくれる? と3択(①初めての行事で勝手がよく分からないから不安。②リコーダー演奏で失敗するのが怖い。③緊張感がある独特の雰囲気が怖いの中のどれ?)で聞くと、3つ全てとのこと。

息子はできないこと、苦手なことが多いのに、「ちゃんとやらなきゃダメなんだ」と根が真面目なので、その圧に負けて動けなくなったのだろう。予行練習や卒業式に出ないと、また同級生に「ズル!」とか「サボり魔」とか言われちゃうけど、流せる? と聞くと、「流す」というので休ませた。

妻と娘はこの日から1泊2日で温泉に行ったので、ここぞとばかりに息子と焼き肉を食いに行った。

※妻より

毎年行っている祖父母との春休み旅行は息子も一緒に行く予定でしたが、今回は直前で動けなくなりました。色々疲れてしまったんだと思います。最近読んだ本で当事者の気持ちが書いてあるこの2冊はとても参考になりました。

3月26日(火)

一日中雨。妻と娘は祖父母と旅行に行っているので不在。とても静かだ。ホラー映画の予告などを延々と観ている息子の横で仕事をした。夜、妻と娘が帰宅。

3月27日(水)

天気の良い日。息子は久しぶりに公園へ行ったようだが、娘は人間関係で悩んでいる部活を休むとのこと。じゃあ一緒に映画でも行くかと、池袋に『14歳の栞』(監督:竹林 亮)を観に行く。娘はいたく感動していた。私も感動した。

3月28日(木)

甥の大学受験が終わったので、妹の家に遊びに行く。ウチの家族4人、妹家族4人、あと先日偶然再会したS君とCちゃんで、昼から人狼やったり、大富豪やったりして21時までいる。途中、息子が甥をロックオンして多弁スイッチが入ったが、どんなに唾を浴びても優しく接してくれた甥はいいやつだ。

3月29日(金)

今日で半年間放送していた『ブギウギ』が最終回となる。あっという間だった。

私にとって『ブギウギ』とは何かと聞かれたら、趣里さんの魅力がすべてだと答える。輝いている俳優さんのお芝居を見ると、これは『ブギウギ』に限ったことではないが、もっと良い本を書きたかったと、いつも力不足を痛感するし、これは言い訳がましく聞こえるかもしれないが、いろんなことと戦えなかった自分の不甲斐なさを呪ってしまう。何度こういうことを繰り返していくのだろうか。

だが、蒼井優さん演じた大和礼子のセリフに書いたように「簡単には挫けないこと」だ。この言葉は私が日本映画学校の1年生のとき、学生ホールで入れ替わりに卒業した方々の卒業アルバムのようなものを偶然見つけてなんとなくめくっていたら、とある講師の方が卒業生に送る言葉として書いていたものだ。

別に珍しくもなんともない言葉なのに、なぜか映画学校に入学して1か月ほどしかたっていない私の胸に響き、それ以来たまにセリフとして使っている。今回は妻にも「使いどころが良かった」と誉められた。

『ほかげ』(監督:塚本晋也)ですでに世界に出ている趣里さんだが、アート系でもエンタメ系でも通用してしまうのではないだろうか。ご一緒できたことは私にとっては宝となっている。

しかし、これで半年間見続けてきた「#ブギウギ反省会」ともお別れだ。寂しい気がするのはやはりMだからか。

ただ、xよりも私がイライライライライライラしたのは、「え、朝ドラってこんなにたくさんのライターたちが至る所で(下手したら毎週)批評するの? しかも俺並みの見識眼で!?(私は映画やドラマを観る目にまったく自信がないから批評は書かないし、この日記にも感想も書かない)」と驚かざるを得なかった。朝ドラというのはそれだけ商売になるものなのだろう。ドラマライターへの文句を毎日のように妻に垂れ流していたから、妻のほうがノイローゼ気味になってしまった。

弱さは見せる! を家庭でもモットーにしている私は、娘や息子にも垂れ流し、娘からは「ほら、こんなこと言ってくれてる人もいるよ!」とネットの言葉をスクショして送ってくれたりもした。なんて優しいんだ、私の娘は!

なのに本日の夕方、その娘、私、妻と月に一度通っているカウンセリングに行く前に、娘の悩みごとをうまく聞いてあげられない私と、うまく話せない娘とでケンカのようになってしまった。娘は私の悪口というか私の接し方をカウンセラーの方にぶちまけたようで、いろいろとすっきりした顔をしていた。

いろいろと至らない父親で申し訳ないと思うが、「大人になってもこれでいいんだ」と思ってもらえたら幸いだ。

※妻より

いやぜんぜんよくねえから……私もよくねえけど……。

3月30日(土)

世間は水原一平氏のことでなにかと話題だが、依存症というのは薬であれ酒であれセックスであれ、それがどんなものでも本当に怖い。

いったいどんな心持ちでバレそうなここ最近をすごしていたのだろうかと思ってしまうのだが、それでも止められないのだろう。「私はおわりだ」という胴元とのメールのやり取りが生々しいが、終わっていちばんホッとしているのは自分かもしれない。怖くて怖くて自分でもやめたいと思ってもやめられないのだろう。きっと楽しいなんて気持ちはほぼないのではないかと想像する。それでもやめられないというのか、「かっぱえびせん」ではないが、やめられない止まらないのだろう。

スマホ依存やゲーム依存など今の世の中は簡単に依存できるものが子どものころから身近にありすぎて、息子がゲームをしているときの半端ない過集中を見ているとふと怖くなることもあるし、スマホばかり見ている娘にもついつい口うるさくなってしまう。と言いながら家でスマホを見ている時間は私がダントツで一番長い。

3月31日(日)

春休みだというのに娘も息子も家にずっといる。そこで私は突然アスレチックに行こうと思い立ち、半ば無理やり家族を連れ出して秩父のアスレチック「フォレストアドベンチャー・秩父」へ向かう。

私はアスレチックが大好きなのだ。が、これが生半可なアスレチックではなかった……。命綱はついているのだが高所恐怖症の人にはとても無理だろう。よくもまあこんな怖いアスレチックを作ったもので、気分はもう『賭博黙示録 カイジ』の罰ゲームのようだった。

全部で5コースあるのだが息子はひとつもクリアできず、私も足がすくみ早々に脱落。娘と妻も最大難所は無理とのことで、いったい何しに来たんだという家族の目が一気に私に向けられた。

その目を見ないようにしつつ、しかたがないので巨大トランポリンをして、秩父の温泉に入って帰宅した。温泉は楽しかった。

↑高所恐怖症なのであまりの高さに足がすくみ、金払って罰ゲームした気分でした。

【妻の1枚】

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品『佐知とマユ』(第4回「市川森一脚本賞」受賞)『嘘八百』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『こどもしょくどう』など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。最新作は『雑魚どもよ、大志を抱け!』。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『春よ来い、マジで来い』(双葉社・刊)。

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