城崎温泉街、訪日客は素泊まり宿がお好み 増える特化型施設、人手不足の業界は渡りに船

観光客でにぎわう城崎温泉街。外国人の姿も目立つ=27日午後、豊岡市城崎町湯島(撮影・長谷部崇)

 大型連休でにぎわう城崎温泉街(兵庫県豊岡市)に、食事を提供しない素泊まりの宿泊施設が増えている。人手不足の中で省力化が図られるほか、食事付きの宿泊プランを好まないインバウンド(訪日客)のニーズにも対応できるからだ。ただ、1泊2食の宿泊が基本だった温泉街で飲食店の集積が追いついておらず、「外食難民が増えている」(城崎温泉観光協会)のが現状。変化の波が寄せる局面で、地域の「おもてなし力」が試されている。(丸山桃奈)

 温泉街を流れる大谿川沿いで、旅館「赤石屋」の改装工事が大詰めを迎える。客室を18から14に減らしてサウナを新たに導入。1958年創業の老舗が、夕食の提供をやめ、インバウンド向けの素泊まり宿に生まれ変わる。6月下旬のプレオープンを経て7月中旬の全面開業を目指す。

 照準とするインバウンドは、食事費を抑えて安く泊まりたい「泊食分離」の志向が強いとされる。その客足が新型コロナウイルス禍から急ピッチで回復。豊岡市によると、2023年の市内の外国人延べ宿泊数は前年比9倍の6万679人で、うち城崎エリアが5万701人だった。

 赤石屋を運営する日和山観光(豊岡市)の今津一也代表取締役(56)は「素泊まりは商機がある」と強調する。ただ、周辺に朝食が食べられる店は少なく、朝食は提供する考え。業界の人手不足を踏まえると、インバウンドの回帰は渡りに船だ。「夕食をやめるので人員を多く確保しなくて済み、長時間労働を防げる。宿の定休日を設けて働きやすい職場をつくりたい」と意気込む。

 3月には、素泊まり専用の「ホステルわらく」が開業した。夕・朝食をなくし、館内のキッチンで宿泊客が自炊できるようにした。「食事付きのプランだと、滞在中の行動が制約される場合もある」と運営会社の椿野陽一郎取締役(33)。「家族が経営する旅館は食事を提供しているが、そこより4割ほど価格も抑えられた」と自信を見せる。

 城崎温泉観光協会によると、今年4月時点で加盟の80施設中、食事を提供しない宿泊特化型は14施設。このうち素泊まり専業が12施設で、2施設が食事付きと素泊まりの兼業だ。素泊まり宿は、インバウンドが目立つようになったコロナ禍直前から増え始めたという。残りの施設も1泊2食付きを基本としながら、ほとんどが素泊まりプランを備える。

 インバウンドのほか、物価上昇で余計な支出を抑えたい国内客にも素泊まりのニーズは根強いとの見方は多い。温泉街の宿泊費が上昇しているからだ。

 一帯のホテル、旅館の予約状況を把握する「豊岡観光DX推進協議会」によると、ズワイガニの漁期に当たる23年11月~24年3月の客室平均単価(1泊2日)は前のシーズンに比べて6.4%増。このうち24年3月単月は前年同月比8.9%上がった。

 ただ、朝食だけでなく、夜の食事どころも選択肢は多くないのが課題。そこで、城崎温泉観光協会は飲食店の営業・混雑状況を示すサイトの開設を計画する。担当者は「宿の豪華な食事もいいが、地元の食堂や居酒屋など、その土地の人がよく行く店を希望する観光客が増えた」と指摘する。

 城崎温泉旅館協同組合の日生下民夫理事長(55)は「宿泊ニーズの変化についていけるかどうか。素泊まり宿や飲食店の広がりで、城崎の魅力を高めたい」としている。

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