『チャレンジャーズ』異例の好発進で北米No.1 ルカ・グァダニーノ監督史上最高のOP成績に

とびきり挑発的で清々しいスポーツラブコメディ『チャレンジャーズ』に注目だ。本作は、『スパイダーマン』『DUNE/デューン』シリーズのゼンデイヤ主演、『君の名前で僕を呼んで』(2017年)、『ボーンズ アンド オール』(2022年)のルカ・グァダニーノ監督による最新作で、北米で公開されるや、いろんな意味で異例の好発進となっている。

4月26日~28日の北米週末興行収入ランキングで、『チャレンジャーズ』は初登場No.1を記録。3477館で1501万ドルというオープニング成績はグァダニーノ監督史上最高であり、ゼンデイヤにとってもオリジナル脚本の実写映画では最高記録だ。週半ばには『君の名前で僕を呼んで』の1809万ドルを抜き、グァダニーノ作品として過去最高の北米興収となる見込みである。

もっとも、『DUNE/デューン』シリーズで共演中のティモシー・シャラメと並び、いまや新世代のトップスターとなったゼンデイヤだが、本作は決して万人受けするキャッチーな映画ではない。R指定の危険なラブストーリーであり、スポーツ映画であり、同時にオフビートなコメディなのだ。

ゼンデイヤ演じるタシ・ダンカンは、若くしてカリスマ的人気を誇るテニスプレイヤーだったが、試合中の怪我で選手生命を絶たれた身。驚異的なストイックさでテニスに打ち込んでいた彼女は、今では同じくテニスプレイヤーであり、学生時代から彼女を愛する夫・アートをコーチとして支えている。選手として伸び悩むアートの前に対戦相手として現れたのは、アートの親友だったパトリック。ともにタシを愛した2人がコートで相まみえるとき、試合は思わぬ展開を見せる……。

脚本を執筆したのは、日本でも話題沸騰の『パスト ライブス/再会』を手がけたセリーヌ・ソンの夫である劇作家ジャスティン・クリツケス。グァダニーノとは初タッグとなったが、本作で意気投合し、ダニエル・クレイグ主演の次回作『Queer(原題)』にも参加している。ドン・ウィンズロウのギャング小説『業火の市』を映画化する『City on Fire(原題)』の脚色にも抜擢されるなど、本作で一躍業界が注目する脚本家となった。

興行的なポイントは、新境地と言うべき絶妙な脱力具合ながら、同時にまぎれもないルカ・グァダニーノ作品となったーーなにしろ『君の名前で僕を呼んで』や『ミラノ、愛に生きる』(2009年)といった過去作のエッセンスを感じさせつつ、“テニス”というモチーフの裏側には『サスペリア』(2018年)以来の芸術論が忍ばされているのだーー本作を、Amazon・MGMが北米3477館というグァダニーノ史上最大の上映規模で公開したことにある。

ヒットが確約されているとは言いがたい一本にもかかわらず、なぜAmazon・MGMは配信リリースではなく劇場公開に踏み切ったのか? ここには、Amazonが既存の映画スタジオとは異なるビジネスの論理で動いている背景がある。本作の成功が、劇場興行だけでなく、Prime Videoでの配信開始時にどれだけの視聴数を獲得し、いかに大きな話題を創出できるかにかかっている以上、劇場公開は一種のプロモーションとしてさえ割り切れるのだ。

Amazon・MGMは、同社が2023年に製作・公開したエメラルド・フェネル監督&バリー・コーガン主演のブラックコメディ『Saltburn』と『チャレンジャーズ』を比較し、本作も配信開始時に大きな話題を呼ぶものと見ている。こうした戦略はAppleが『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023年)や『ナポレオン』(2023年)を大規模公開したのと同じロジックだが、その大胆さではAmazon・MGMのほうに軍配が上がるだろう。

しかしながら、Amazon・MGMのチャレンジに不可欠だったのがゼンデイヤの存在だ。本作は当初2023年9月に北米公開予定で、ヴェネチア国際映画祭でワールドプレミアを迎えるはずだったが、全米映画俳優組合のストライキによりゼンデイヤが稼働できないことから公開を延期していたのだ(ちなみに、『デューン 砂の惑星PART2』も同じくシャラメ&ゼンデイヤがプロモーションに参加できないことから公開延期となっていた)。

実際、週末3日間で本作を鑑賞した観客の55%が「ゼンデイヤが出ているから」チケットを購入したと回答しているから、そのすさまじい集客力に疑問の余地はない。男女比では女性が58%を占め、年代別では76%が18歳~34歳という若年層だったのも、ゼンデイヤをはじめジョシュ・オコナー&マイク・フェイストらフレッシュな出演者の効果だろう。ちなみに週末の北米市場累計興収は6600万ドルだから、第9位の『デューン 砂の惑星PART2』とあわせて約4分の1程度がゼンデイヤ映画の収入だったことになる。

製作費は5500万ドル。前述の通り、劇場興行だけに重きを置いていないAmazonだが、劇場配給を統括するケヴィン・ウィルソンは「オリジナル脚本によるR指定のドラマ映画は興行的に苦戦しているのが現実。そのことを鑑みれば非常に良い結果だ」とも述べている。

Rotten Tomatoesでは批評家スコア87%と、グァダニーノ作品としては『君の名前で僕を呼んで』以来の高評価を獲得。観客スコアは76%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「B+」という結果だが、元来の作家性の高さや、本作の挑戦的な作風からすれば、賛否両論というよりも「賛」に傾いている印象だ。日本公開は6月7日。

そのほか、今週は第2位にクリスチャン・シンセポップデュオ「For King & Country」の伝記映画『Unsung Hero(原題)』が初登場。メンバーのジョエル・スモールボーンが、『ソング きみに捧ぐ愛の歌』(2014年)のリチャード・ラムジーとともに監督・脚本を務めた。第10位にはビル・スカルスガルド主演の復讐アクション『Boy Kills World(原題)』もランクインしている。なお、A24最新作『Civil War(原題)』は公開3週目で第4位まで降下したが、北米興収はA24史上第2位の成績となっている。

●北米映画興行ランキング(4月19日~4月21日)
1.『チャレンジャーズ』(初登場)
1501万ドル/3477館/累計1501万ドル/1週/Amazon・MGM

2.『Unsung Hero(原題)』(初登場)
775万ドル/2832館/累計775万ドル/1週/ライオンズゲート

3.『ゴジラxコング 新たなる帝国』(→前週3位)
720万ドル(-24.8%)/3312館(-346館)/累計1億8168万ドル/5週/ワーナー

4.『Civil War(原題)』(↓前週1位)
700万ドル(-37.6%)/3518館(-411館)/累計5619万ドル/3週/A24

5.『Abigail(原題)』(↓前週2位)
525万ドル(-49%)/3393館(+9館)/累計1878万ドル/2週/ユニバーサル

6.『The Ministry of Ungentlemanly Warfare(原題)』(↓前週4位)
386万ドル(-56.7%)/2845館(変動なし)/累計1544万ドル/2週/ライオンズゲート

7.『Kung Fu Panda 4(原題)』(↓前週6位)
355万ドル(-24.3%)/2767館(-188館)/累計1億8499万ドル/8週/ユニバーサル

8.『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』(↓前週7位)
325万ドル(-27%)/2627館(-482館)/累計1億738万ドル/6週/ソニー

9.『デューン 砂の惑星PART2』(↓前週8位)
198万ドル(-32.7%)/1334館(-680館)/累計2億7974万ドル/9週/ワーナー

10.『Boy Kills World(原題)』(初登場)
167万ドル/1993館/累計167万ドル/1週/Roadside Attractions

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年4月29日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W17/
https://variety.com/2024/biz/news/box-office-challengers-zendaya-opening-weekend-results-1235984458/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/zendaya-box-office-challengers-opening-1235885369/
https://deadline.com/2024/04/box-office-challengers-zendaya-1235896116/
(文=稲垣貴俊)

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