『アンメット』“安全の鬼”吉瀬美智子を変えた杉咲花の信頼 ミヤビの記憶がつながり始める

4月29日に放送された『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)第3話は、ドラマが前に進むための重要なステップとなった。

三瓶(若葉竜也)に呼び出されたミヤビ(杉咲花)。1年半前、運転中にミヤビは事故に遭い、記憶障害になった。三瓶はミヤビの脳を調べさせてほしいと言い、治る可能性があると告げた。治療を諦め、後遺症を受け入れて生きていくと言うミヤビに、三瓶は衝撃の事実を伝える。事故当時、二人は婚約していたというのだ。三瓶が海外にいたのは、ミヤビの治療法を探るためでもあった。困惑するミヤビは、三瓶との会話を「とても信じられない」と日記に綴った。

医師の職務に復帰したミヤビだったが、看護師長で医療安全室長の津幡(吉瀬美智子)に手術を止められていた。「患者の安全を守るのが私の仕事」という津幡は、器具の管理や連絡・報告の些細な点まで事細かに注意して、同僚に煙たがられており、付いたあだ名は「安全の鬼」。そう呼ばれるようになったのには理由があった。

記憶障害の医師を主人公にした『アンメット』は医療ドラマに分類されるが、その構成自体はいたってシンプルだ。日常の診療に多くのパートが割かれる中で、病院で働く一人ひとりにもスピットライトが当てられる。ミヤビにメスを持たせなかった津幡は、手術中の連係ミスが原因で患者を死なせてしまった過去があった。

登場人物の前に立ちふさがる物語の枷として、過去のトラウマと記憶障害は典型的なものといえる。ありきたりと言っていいモチーフに本作はひとひねり加えている。10年前の医療事故を知ったミヤビは、オフの日に津幡をレクリエーションに誘った。津幡はミヤビの主治医の大迫(井浦新)に会い、ミヤビの病状を直接確認したと話した。津幡はミヤビが自分なりに努力していることを知り、これまでの言動を振り返った。

ミヤビは津幡に心を開き、津幡もミヤビに触発されて自らの行いを反省した。そうすることで、二人は自分自身と向き合った。閉ざされた手術室の扉を、こじ開けたシーンは象徴的である。津幡のこわばった心を、ほんの少しだけミヤビは融かした。仲間たちを信頼する気持ちが、津幡に自身の中にある恐怖を克服させることにつながった。

津幡が過去を乗り越えたことは、今度はミヤビに影響を与える。助手を志願したとき、ミヤビの脳裏に再会してからの三瓶との会話がよみがえり、ミヤビは三瓶を信じてみようと思えた。前日の出来事を忘れてしまうミヤビにとっては、寸断されたとはいえ記憶がつながった瞬間であり、その鍵になったのは、相手を「信じる」という無形の感情だった。そのことと、目の前で津幡の変化を感じ取ったことは無関係ではない。登場人物が織りなす無意識の相互作用によって葛藤・対立状態を解消する一連の流れは、従来のドラマの定式を拡張するものとして評価できる。

三瓶をはじめとする登場人物たちは、ミヤビの失われた記憶に働きかける。ミヤビを知る綾野(岡山天音)と三瓶との三角関係や、救急部長の星前(千葉雄大)ら同僚との人間関係はドラマの契機を豊富にはらんでおり、第4話以降も充実した展開が期待できる。最後に、本作の劇伴を担当するのはfox capture plan。ピアノトリオとして精力的に活動するかたわら、『カルテット』(TBS系)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)など映像作品の音楽を多数手がけている。本作でもコメディタッチの場面転換などで、最小限で最大の効果を上げている。
(文=石河コウヘイ)

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