住まい再建へ珠洲で戸別訪問 公費解体か、修理して住むか… 建築士、弁護士が助言

被災者から被害状況を聞き取る建築士の岸さん(左から2人目)と弁護士の今田さん(同3人目)=珠洲市内

  ●1日で発生4カ月

 能登半島地震で4500戸を超える住宅が被害を受けた珠洲市で29日までに、建築士と弁護士がチームを組んで被災者を戸別訪問し、住まい再建に向けて助言する取り組みが始まった。公費解体で自宅を取り壊すか、残して修理するかで悩む住民が多い中、被災者が相談に来るのを待つのではなく、専門家が出向き、被災家屋を見てアドバイスを送る。地震発生から1日で4カ月、実施団体によると、同様の取り組みは初めてで、「珠洲モデル」として全国に広めたい考えだ。

 災害支援NPO法人のYNF(福岡市)とワンファミリー仙台(仙台市)が27日から実施している。28日は、YNFのスタッフで一級建築士の岸真由美さん(福岡市)と、日弁連(日本弁護士連合会)災害復興支援委員会の今田健太郎副委員長(広島市)が市内を回った。

 2人は、「大規模半壊」と判定された三崎町内方の中厚子さん(45)方で約3時間、相談に応じた。築70年余、木造2階建ての家屋は四つの座敷が「田」の字型に並ぶ昔ながらの造りで、公費解体を申請するか、修理して住み続けるか、家族で意見が分かれており、専門家の意見を聞くことにした。

  ●工法や給付金説明

 建物を調査した岸さんは、玄関周りの外壁などで損壊が目立つ一方、柱の傾きは小さいと指摘。部分補修や一部だけを取り壊して全体のサイズを小さくする「減築」の選択肢もある、とアドバイスした。

 今田さんは、生活再建支援金の他にもさまざまな給付金制度があることを紹介し、確定申告することで財産の損害に応じて所得税や住民税が軽減される「雑損控除」の仕組みについても説明した。

  ●相談会に抵抗も

 住まい再建に関しては、能登各地で相談会が開かれているが、YNFの江﨑太郎代表理事によると、相談会に出向く時間や心の余裕がない被災者は多い。プライバシーが確保されているとはいえ、他人と同じ会場で資金問題や家族の状況について話すことに抵抗感を持つ人もいるという。

 さらに、建物被害の状況は写真より現場で見る方が分かりやすいことから、両団体は休眠預金を活用し、戸別訪問型の支援を企画した。サービスを利用した中さんは「何からどうしていいか分からなかったが、専門家に時間をかけて説明してもらえて良かった。家族とじっくり話し合いたい」と、安心した表情を見せた。

 近年は、被災者一人一人の課題に寄り添って支援を行う「災害ケースマネジメント」の考え方が広がっている。江﨑代表理事は、奥能登は賃貸物件がほとんどなく、住まい再建の手法が限られ、難しい地域だとし「われわれの試みが一つのモデルとなり、広まっていけばいい」と話した。6月半ばまで、依頼に基づき戸別訪問を実施する。

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