GWに観たい3時間超え映画「ライトスタッフ」宇宙開発映画の原点!サム・シェパード最高!  SF映画史にその名を刻む傑作「ライトスタッフ」の魅力を解説

ゴールデンウィークに観たい3時間超え映画 - vol.4「ライトスタッフ」

長尺の映画ほど名作の打率が高い

3時間を超える映画というのは、日本ではもとよりハリウッドでもそれほど頻繁に作られることはない。数年前まで日本映画ではよく「前後編」という形で2回に分けて公開するパターンも多かったが、あれはある種、制作費をリクープするための苦肉の策。3時間超えの映画は、劇場の回転数が下がるため、忌避される傾向にあるのは確かだ。

だが、長尺の映画ほど名作の打率が高いのも確かで、古くは『風と共に去りぬ』(3時間48分)あたりに始まり、『ベン・ハー』(3時間42分)、『七人の侍』(3時間27分)、『アラビアのロレンス』(3時間47分)『タイタニック』(3時間9分)、『シンドラーのリスト』(3時間15分)『ロード・オブ・ザ・リング / 王の帰還』(3時間23分)など、いずれも映画史に残る名作揃いである。インド映画はミュージカルシーンが必ずあるので3時間超えは当たり前だし、大作ゆえにスケールも大きく、登場人物も多いため、制作陣の緊張感が随所に漲っており、その長さもまた必然であるのだ。

完全版では3時間13分、1983年に公開された「ライトスタッフ」

1983年に公開された『ライトスタッフ』もそんな1本で、完全版では3時間13分。トム・ウルフのノンフィクションを、フィリップ・カウフマンが監督。1959年から63年にかけ、アメリカで行われた同国初の有人宇宙飛行計画 “マーキュリー計画” の飛行士に選ばれた7人の男たちの友情、苦悩、そして遡ること1947年に人類で初めて音速の壁を破った戦闘機パイロット、チャック・イェーガーの生き様を対照的に描いた作品だ。

映画のオープニングは、テスト飛行のジェット機が墜落していく不吉な主観ショットで始まる。物語の舞台は1947年。エドワーズ空軍基地のテストパイロット、チャック・イェーガーが人類史上初めて音速の壁を破ったところから始まる。

その後1957年、ソ連がスプートニクロケットの打ち上げに成功し、アメリカは宇宙開発に遅れをとった。ここで初めて “マーキュリー計画” が始動し、宇宙飛行士の候補の選択に入る。だが、イェーガーは宇宙飛行士を「実験室のモルモット」と揶揄したことで、候補から外されてしまう。そして、適性検査や厳しい訓練ののち、7人のパイロットが選ばれ、彼らは次々と宇宙へ飛び立っていく… 。

物語の冒頭とクライマックスに配したイェーガーのエピソード

監督のフィリップ・カウフマンの名は、エイリアンの地球侵略映画『SF / ボディ・スナッチャー』(78年)やシックスティーズの青春群像を描いた『ワンダラーズ』(79年)で知られる。脚本を手掛けたのはウィリアム・ゴールドマンだが、彼が当初書いてきたシナリオは、ナショナリズムの濃いものだった。

映画製作時点の80年代前半は、ロナルド・レーガン大統領による “強いアメリカ" の復活宣言と、対ソビエト連邦の冷戦時代真っ只中。当初、ゴールドマンの脚本では、音速の壁を破ったパイロット、イェーガーの話は丸々削除されていたが、カウフマンは、イェーガーのエピソードを物語の冒頭とクライマックスに配し、全面的に脚本を書き直した。

7人全員のエピソードを描いていたのでは、尺がいくらあっても足りないため、その中から4人をクローズアップして物語を構成。最初に宇宙飛行に成功したアラン・シェパードが、発射台で長時間待機させられ、尿意が限界に達して宇宙服の中で放尿してしまうシーンは「あってもおかしくない」シビアなトラブルだが、めっぽう面白いシーンでもある。

2番目の飛行者、グリソムは着水時のミスで貴重なデータを有したカプセルを海底に沈めてしまい、マスコミから非難され失敗の扱いを受ける。さらには夫の打ち上げを見守る妻の様子や、ソ連の宇宙開発にあたふたする上院議員、メガネ姿の看護師長などコメディリリーフを随所に配し、エンタテインメントであることも忘れない。

現代のカウボーイとして描かれた7人のパイロット

アラン・シェパードを演じたのはスコット・グレン。他にエド・ハリス、デニス・クエイドなど現在でもその名を知られる名優たちが出演しているが、この当時はまだ無名の俳優だった。その中でも名演を見せたのはイェーガー役のサム・シェパードだろう。本作の演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。

そして、まだCGが存在していない時代、特殊撮影の主力はモーションコントロール・カメラによる撮影が主流だった。だが、カウフマンは敢えてこの撮影法を避け、特殊効果の原点である、ワイヤーで吊るした模型飛行機を利用した飛行シーンや、戦闘機の模型を弓矢のように飛ばし超音速ジェットを再現するなど、アナログな特撮が逆に絶大な効果を発揮している。ことに『ゴジラ』映画など東宝特撮映画でこういった演出を見慣れている日本人にとっては、公開から40年を経た今観ても感銘を受けるのではなかろうか。

音楽は『ロッキー』のテーマで知られるビル・コンティ。勇壮で活力に溢れたテーマ曲は、映画に限りない高揚感を与えている。この曲でコンティはアカデミー作曲賞を獲得した。だが、当時の興行は不発に終わり、制作費2,700万ドルを回収できなかった。また、日本では2時間40分に短縮されたバージョンが公開されている。

ただし、『ライトスタッフ』がその後の『アポロ13』(95年)や『遠い空の向こうに』(99年)『ドリーム』(16年)といった宇宙開発史の映画化に、大きな影響を与えたことは間違いない。クリント・イーストウッド監督の『スペース・カウボーイ』(00年)なども含め、宇宙もの映画のお手本的な1作となっているのだ。

この映画が現在でも根強いファンを獲得し、愛され続けている理由には、なんといっても7人のパイロットとイェーガーを “現代のカウボーイ” として描いたことにある。アメリカという国のもつフロンティアスピリットの精神を見事に示しているのだ。3時間13分という長尺だが、1カット足りとも無駄がなく、数々のシーンがのちの伏線となっているため、じっくり時間をかけて鑑賞しても、損はさせない作品である。

カタリベ: 馬飼野元宏

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