【社説】補選で自民全敗 首相に「処分」が下された

自民党の政治資金問題に対し、民意は厳しい審判を突き付けた。岸田文雄首相の求心力は低下し、政権運営は一層厳しさを増す。

派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件の発覚後、初の国政選挙となった衆院3選挙区の補欠選挙で、自民が全敗した。3議席とも元は自民の議席だった。

これまでのように「政治とカネ」の問題に誠実に向き合わないなら、民意はますます離れる。首相は自戒して政治改革に取り組むべきだ。

3補選で唯一、与野党一騎打ちとなったのが島根1区だった。組織的な裏金づくりをしていた安倍派の会長だった細田博之前衆院議長が、死去するまで保持した議席だ。

自民新人は立憲民主党の元職に大差をつけられた。小選挙区の導入以来、自民が負けたことのない金城湯池でさえ逆風をはね返せなかった。それほど有権者の不信、怒りは大きい。

自民は裏金事件の実態解明に消極的で、全体像が明らかにならないまま関係者を処分し、幕引きを図った。再発防止策をまとめたのは補選の告示後で、内容は他の政党案に比べ手ぬるい。

共同通信社が島根1区で実施した出口調査で、裏金問題を投票の際に「大いに重視した」または「ある程度重視した」が計77%に上った。

首相は党総裁である自身を処分せずに「最終的に国民、党員に判断していただく立場だ」と述べている。補選については「私の政治姿勢も評価の対象」と明言していた。

3選挙区であるとはいえ、国民が首相に「処分」を下した選挙結果と言える。

自民は、裏金事件で有罪となった現職が辞職した長崎3区、区長選に絡む公職選挙法違反事件で議員が辞職した東京15区で、候補者を擁立できず不戦敗に終わった。

3選挙区とも投票率は過去最低だった。裏金事件で政治離れを助長し、2選挙区で選択肢を提示できなかった自民の責任は否めない。

3補選は野党第1党の立民が3勝した。島根1区では、野党が候補者を一本化すれば勝機が広がることを改めて示した。多弱の野党をまとめる力をつけないと、政権交代は近づいてこない。

今後は衆院の解散・総選挙の時期と自民党総裁選に関心が集まる。

首相は9月の総裁選での再選を目指し、解散のタイミングを計っているとみられる。補選が全敗だったため、早期解散には踏み切れないとの見方が強い。そもそも政権延命のための解散は許されない。

首相は6月の国会会期末までに、政治改革をやり遂げなくてはならない。裏金の実態は未解明だ。政策課題への対応も必要である。

そこで国民の信頼を回復する成果が出せないようであれば、岸田政権は信任に値しない。広く国民の信を問うべきではないか。

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