「じゃまものはけしてしまえ」本当は怖い!? 『ドラえもん』に登場する「闇深なひみつ道具」

てんとう虫コミックス『ドラえもん』(小学館)第35巻

藤子・F・不二雄さんによる国民的アニメ『ドラえもん』。3月1日に公開された『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』も大ヒットを飛ばしている。

ドラえもんが四次元ポケットから出すひみつ道具の数々は、我々の夢を叶えてくれる素敵なものばかり。誰もが一度は使ってみたいと思ったことがあるだろう。

しかしそんなひみつ道具のなかには、使い方によっては人をダメにしたり、大惨事を引き起こす可能性のある怖い道具も存在する。そこで今回は『ドラえもん』に登場する「闇深なひみつ道具」を紹介する。

■過剰摂取注意!? なんでも吸い込む「ミニ・ブラックホール」

まずはてんとう虫コミックス第26巻「のび太のブラックホール」という回に登場した「ミニ・ブラックホール」を紹介する。

ご飯をあまり食べたがらないのび太。心配するパパとママのため、ドラえもんはひみつ道具「ミニ・ブラックホール」を取り出した。これは、あらゆるものを引き寄せ飲み込むブラックホールのミニチュア版だ。炊飯器型の容器に入ったかけらを口の中に入れると、お腹が空いて普段以上にご飯を食べれるようになるという。のび太もたちまちお腹が空きはじめ、ご飯を夢中で食べ出した。

その後、空き地で「ご飯を6杯も食べた」とみんなに自慢するのび太だったが、流れでジャイアントと大食い勝負をすることに……。勝負に勝ちたいのび太は、勝手に「ミニ・ブラックホール」を全部飲み込んでしまう。

そのおかげでなんなく大食い勝負に勝利し家に帰るのび太だったが、どうも様子がおかしい。お腹が空いて仕方がないのだ。空腹を堪えつつ昼寝してしまうのだが、呼吸をするたびに部屋にある本や小物、さらには椅子や勉強机まで次々と飲み込んでしまう。挙句の果てには、おやつを持ってきてくれたしずかちゃんやドラえもんまでも飲み込もうとしてしまっていた。

絶体絶命の状況だったが、ドラえもんが出したひみつ道具の「ブラックホール分解液」を使用し、なんとかことなきを得た……というエピソードだ。

寝てる間に未来のお嫁さんであるしずかちゃんを飲み込まずに済んで、本当によかった。しかし、ミニチュアといえブラックホールだ。「家をまるごとのみこむほどの力がある」とドラえもんが言っていたが、一歩間違えばさらなる大惨事になっていたのは間違いない。

■すべてを肯定し人を堕落させる「いたわりロボット」

『ドラえもんプラス』第5巻に登場した「いたわりロボット」も、本当に闇深なひみつ道具だ。

不注意でパパの大事にしていた茶碗を割ってしまい、こっぴどく怒られたのび太はいつになくネガティブモード。心配になったドラえもんは 「いたわりロボット」という、落ち込んでいる人を全力で励ましてくれる女性型ロボットを取り出す。

「いたわりロボット」に“買いたての新鮮な茶碗でお茶を飲めるなんてとても素晴らしいことだ”と励まされ、不思議と茶碗を割ることがいいことに思えてきたのび太。

次にのび太は、“あやとりに夢中になると男らしくないと皆にバカにされる”と「いたわりロボット」に相談。すると、“男らしいとやたらに勇ましがる人が戦争を起こすのよ そんな人よりのびちゃんのほうがずっと素晴らしいわ”とベタ褒めされ、完全にその気になってしまう。

すべてを肯定するロボットと、それをそのまま真に受けるのび太、ある意味2人の相性は抜群で「この人(いたわりロボット)がいるかぎり僕は世界で一番幸せ者になれる!」と、完全にハマってしまう。

そして月日は流れ、受験には落ち、しずかちゃんにも愛想を尽かれ、とうとう帰る家もなくなったのび太。しかしそれでも「いたわりロボット」は褒め続ける……。

実はこれは心配になったドラえもんが、ひみつ道具「タイムテレビ」を使って「いたわりロボット」に褒められ続けた未来をのび太に見せたものだった。それを見てのび太は、やっと我に返ることができた。

すべてを肯定してくれる「いたわりロボット」は一見ポジティブな存在に見えるが、実は、人をみるみるうちに堕落させていく恐怖のロボットだった。しかしよく考えてみれば、ドラえもんこそが、のび太を最も甘やかしている「いたわりロボット」のような気もするのだが……。

■気に食わない者を存在ごと抹消!「どくさいスイッチ」

最後に、今回紹介するなかではもっとも“闇深”であろうひみつ道具を紹介する。

てんとう虫コミックス第15巻「どくさいスイッチ」の回にて。野球の練習で毎回のようにジャイアンにしごかれるのび太は、“ジャイアンさえいなければ”と考えるようになる。そんなのび太にドラえもんは、「どくさいスイッチ」というひみつ道具を渡す。

未来の独裁者が作らせたというその道具は、スイッチを押すことで気に入らない人間を消し去ることができる恐ろしいものだった。

さすがののび太もこの道具の恐ろしさに戸惑い、スイッチを押すことを躊躇していた。しかし、そこに運悪くジャイアンと出くわし追い回され、逃げ場がなくなったのび太はとうとうスイッチを押してしまう。すると一瞬にしてジャイアンは消え、存在自体が人々の記憶から消えてしまった。そして、さらに勢いでスネ夫まで消してしまったのび太は恐ろしくなり、“もう二度と使わない”と誓う。

しかしのび太は、2人を消してしまった罪悪感により夢でうなされ「だれもかれもきえちまえ」と近くにあった「どくさいスイッチ」を誤って押してしまい、世界中のすべての人間を消してしまった。

通常の人間であればこの時点で精神が崩壊してもおかしくないのだが、のび太はしばらく、このディストピアのような世界を一人満喫しており、異常なまでのハートの強さを見せていた。

しかし、さすがにこの悠々自適な時間も長くは続かず、のび太はみんなを消してしまったことを心から後悔し反省した。すると、消えたはずのドラえもんが現れて「どくさいスイッチ」の本来の目的は“独裁者を懲らしめるための発明”だったと明かすのだ。

リセットされ、全部が元通りになった世界では、ジャイアンやスネ夫の存在さえも嬉しくて仕方がない様子ののび太だった。

独裁者を懲らしめるために作られたとはいえ、人類すべてを消せるというのはやはり危なすぎる。それよりなにより、「じゃまものはけしてしまえ」とのび太を促すドラえもんの姿が、このエピソードで一番恐ろしかったかもしれない。

『ドラえもん』に登場する素敵なひみつ道具の数々は、藤子さんが現代版のおとぎ話のように“人が正しく生きることの大切さ”を子どもたちに優しく面白く教えてくれている。

今回紹介した一見恐ろしく思える“闇深なひみつ道具”でさえも、不思議とそんな藤子さんの優しい気持ちを感じることができた。

© 株式会社双葉社