15歳の時に父が母を殺害...想像を絶する逆境を乗り越えたエンジェルス右腕がメジャーデビュー「自分の使命は人を助けること」<SLUGGER>

4月28日(現地)、26歳のザック・クリストファク(エンジェルス)は本拠地エンジェル・スタジアムでのツインズ戦で、初めてメジャーのマウンドに立った。だが、子供の頃からの夢が叶った瞬間に両親が立ち会うことはなかった。

母はすでにこの世にはいない。そして、父は一生を刑務所の中で過ごすことが決まっているからだ。それだけではない。愛する母の命を奪ったのは、他でもない父だったのである。

2012年12月22日、当時15歳のクリスファクが野球の練習から帰宅すると、大勢の警察官が自宅に集まっていた。息子を野球の練習に車で連れて行った後、自宅に戻った母に、父が2発の銃弾を浴びせた。離婚後も元妻に付きまとい、過度なストーカー行為で7ヵ月間服役した末の凶行だった。

筆舌に尽くしがたい悲劇に見舞われたクリストファクだったが、周囲のサポートと、そしてベースボールのおかげで決して道を外れることはなかった。ジョージア大を経て、19年ドラフト14巡目でエンジェルスに入団。逆境を乗り越え、プロとしての第一歩を踏み出した。 クリストファク自身が強いハートの持ち主だったことは言うまでもない。2A時代、お互いをよく知るためチームメイトに「個人的な事柄」を明かす場が設けられた時も、臆することなく事件について話した。『ジ・アスレティック』に掲載された記事では、その場にいたチームメイトの「誰もがザック・クリストファクは最もタフな男だと認めるだろう」というコメントを紹介している。

本来は29日に3Aで先発登板するはずだったところ、前日の夜中に急きょメジャー昇格の知らせを受けたというクリストファク。最初に連絡したのは、ともに悲劇を乗り越え、「自分の経験を本当に理解している唯一の人間」である兄のハリソンだった。

今、クリストファクは同じような逆境や悲劇を経験した人の励みになることが自分の使命だと信じている。メジャー初登板を終えた彼は「僕はベースボールというプラットフォームを通して人々を助けたいんだ」と語った。

記念すべき初初登板は2イニングを投げて2失点(自責ゼロ)。今後はメジャーリーガーとして活躍を続けることが、自らの使命の実現に直結するはずだ。

構成●SLUGGER編集部

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