月収35万円・60代サラリーマン、年金「月5,000円」停止に憤慨も急展開、「日本年金機構からの手紙」に歓喜したワケ

老齢厚生年金をもらいながら働く場合、収入などに応じて、支給額を調整する「在職老齢年金制度」。この制度により年金が停止となる対象者は、働く高齢者の2割弱になるとか。「一部でももらえないというのは納得できない!」と、疑問の声があがっていますが……みていきましょう。

稼ぎすぎると年金が減額となる「在職老齢年金制度」

――60歳以上で働きすぎると、年金が停止されちゃうらしいよ

そのようなことをよく耳にしますが、それはいわゆる「在職老齢年金制度」のこと。60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、「老齢厚生年金の月額」と「月給・賞与(直近1年間の賞与の1/12)」の合計が一定額を超えると、その分、年金が停止(減額)されるというものです。ちなみに老齢基礎年金は対象外です。

具体的に考えてみましょう。モデルにするのは、大卒サラリーマン(平均年齢42.6歳)。厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、平均給与は月収で40.8万円、賞与も含めた年収は673.6万円。大学卒業後、60歳の定年までは「大卒男性・正社員」の平均的な給与を手にし、60歳の定年を機に再雇用され、非正規社員として大卒男性非正規社員」の平均給与を手にして65歳まで働いたとします。

65歳で受け取ることのできる老齢厚生年金は、平成15年3月以前と平成15年4月以降に分けて、以下の計算式で求めます。

①平成15年3月以前

平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの加入期間の月数

②平成15年4月以降

平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入期間の月数

簡易的に②で65歳から受け取れる老齢厚生年金を計算すると、年間138.1万円、月11.5万円。併給の老齢基礎年金と合わせると、月18.3万円の年金が受け取れることになります。

この厚生年金部分と、賞与なども加味した給与が一定額を超えると、年金が停止されます。停止額は「(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)×1/2」で計算します。

*1:老齢厚生年金(年額)を12で割った額で、加給年金は除く

*2:月給(標準報酬月額)に、直近1年間の賞与を12で割った額を足した額

契約社員の60代男性、給料据え置きでも「年金一部停止」→「年金全額支給」のワケ

――まさか、稼ぎすぎで年金減額。たとえ、5,000円でも悔しかった

そんな恨み節を投稿していた60代サラリーマン。5,000円ということは、年金と給料を合わせた額が、支給停止調整額を1万円ほど上回ってしまったということ。たったそれだけで、1ヵ月で5,000円、1年だと6万円の年金停止になります。ルールとはいえ、なんとも嫌な気分……男性が恨み辛みを呟くのも当然のことかもしれません。

そんなサラリーマンが一転、「年金が全額支給されることになった!」と喜びの声を投稿。日本年金機構から『年金額改定通知書』が届き、年金停止が解除になったことが分かったというのです。

ただ契約社員として働き続けている男性、月収は35万円と変わらず、減給となったわけではありません。どういうことかというと、支給停止調整額が変わっただけ。支給停止調整額は以前、60歳以上65歳未満と65歳以降で異なっていましたが、令和4年4月の年金制度改正により、すべて同じ額に改正されていました。この調整額は毎年4月に見直され、令和4年は47万円、令和5年は48万円、令和6年は50万円と推移しています。男性の場合、支給停止調整額が引き上げられたことにより、上限以下となり、晴れて年金は全額支給となった、というわけです。

ただ支給停止調整額が引上げとなる一方で、受給する年金額も上がることになります。在職老齢年金の計算においては、給料、年金受給額、調整額、すべて考慮する必要があります。

全額支給か、それとも年金停止か。一喜一憂する人も多い「在職老齢年金制度」。本来は「働く人にも一定額の年金を支給するための制度」でした。しかしいまは、「年金がもらえなくなる制度」の一面が強くなり、もらえない年金は4,500億円に膨らんでいるといいます。高齢者の働く意欲を促進させるためにも、制度の見直しや廃止の声が高まっているものの、そのままでは給付が増えるので、給付水準を下げざるを得ない、という専門家も。なんとも悩ましい問題です。

[参考資料]

日本年金機構『在職中の年金』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

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