【4月30日付社説】自民3補選全敗/有権者に背を向けた結果だ

 衆院3補欠選挙は、政治資金パーティー裏金事件で政治不信を増大させた自民党に対し、有権者が審判を下す初めての機会となった。自民は独自候補の擁立を見送った東京15区、長崎3区の不戦敗に加え、「保守王国」である島根1区の与野党対決を落として議席を失い、全敗した。

 自民による裏金事件の真相究明や関係議員の処分などについて、有権者が不十分とみていることが島根1区の結果で明確になった。党総裁である岸田文雄首相をはじめとする全所属議員は、重く受け止めるべきだ。

 島根1区の補選は自民の細田博之前衆院議長の死去に伴い行われた。小選挙区制が導入された1996年以降、自民は島根県で一度も負けたことがなかった。今回初めて野党に切り崩された。

 細田氏は裏金事件の大本である安倍派の前身派閥で会長を務めた上、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が指摘されていた。疑惑の実態解明に向けた鍵を握る一人だったが、十分な説明をしていないとの批判があった。

 裏金事件や旧統一教会を巡る問題の実態解明に後ろ向きなのは細田氏だけでない。自民全体に共通して言えることだ。与党候補への逆風を強める要因の一つとなったのは否めない。

 いずれ行われる衆院解散・総選挙では、裏金事件などに関係した多くの議員が審判を受ける。自民は、国民からの疑念に真摯(しんし)に応えることなしに、信頼を回復することはできまい。

 東京15区は買収など公選法違反事件、長崎3区は裏金事件でそれぞれ自民の議員が辞職したことに伴う補選だった。政権への打撃を小さく抑えるために、候補者の擁立を見送ったとの見方がある。

 本来、「政治とカネ」の問題を引き起こした当事者として、自民は候補者を擁立し、後半国会の焦点となる政治資金規正法の改正などにどう取り組むかを訴え、審判を仰ぐのが筋だった。物価高対策や子育て政策なども政権政党として論戦を主導すべきだった。

 自民の不戦敗で、有権者は投票の選択肢が奪われる形となった。その結果、選挙への関心が高まらず、投票率の低下につながった。政権政党としての責任を欠いた有権者への背信行為だったと言うほかなく、強い非難に値する。

 自らの信を問うことを選ばなかった東京、長崎を含め、全敗は首相の政権運営に対する評価だ。なすべき政治改革や国内外の課題に対応できないようなら、首相は自身の存在意義を考えた方がいい。

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