LIVとの統合足踏み 米PGAツアーの不都合な真実/小林至博士のゴルフ余聞

PGAツアーのコミッショナー、ジェイ・モナハン氏。LIVとの統合はどうなるのか(写真は2024年「ザ・プレーヤーズ選手権」)(撮影/桂川洋一)

昨年6月に電撃発表された米PGAツアーとLIVゴルフとの「統合」についての契約は、デッドラインとしていた昨年末から5カ月経った今も交渉中のままだ。状況を複雑にしている要因のひとつが、PGAツアーの法人格である。PGAツアーは免税非営利組織(NPO)なのだ。

かつて米国のプロスポーツリーグは所属チーム間の利害調整、試合の公正性保持および競技の普及促進を目的に設立された非営利団体として免税されていた。免税の大義名分は、公共の利益に寄与しているからである。

しかし、リーグと収益が拡大するにつれ、この免税措置への批判が高まり、高額な役員報酬などがやり玉に挙がった。これに対応する形で、連邦議会では、非営利的地位を剥奪しようとする法案も提出された。

こうした圧力を受け、コミッショナーが27億円(1ドル=150円で換算。以下同じ)の報酬を得ていたMLBは2007年にその地位を放棄し、最後まで抵抗していたNFLも2015年に営利団体へと移行した。

だが、PGAツアーはそうしなかった。その言い分は、トーナメントの主催者はそれぞれの地域の慈善団体であり、同ツアーは慈善団体が活動資金を集めることに大きく寄与しており、それは免税非営利団体だからこそできることなのだと。

実際、PGAツアーからの慈善活動への寄付額は累計6000億円を超え、4大プロスポーツの合計を上回っている。一方で、非営利団体としては寄付の割合が業界平均を大きく下回り、また、純資産2000億円を超える莫大な戦略的資金を築いていることが批判の対象となっている。

免税非営利法人の財務情報はガラス張りで、内国歳入庁(IRS、日本の国税庁に相当)に提出される確定申告書が公開されている。2022年のPGAツアーの売り上げは、前年比20%アップの2850億円に達した。

内訳は放送権収入が1145億円、トーナメント運営・管理収入344億円、スポンサー収入596億円、著作権収入516億円などである。支出総額は2800億円で、そのなかで最大の支出項目は選手への還元(主に賞金)で1140億円だ。慈善活動への寄付額は申告書では明示されていないが、同ツアーは2020年に年間300億円の寄付を行ったことを公表している。

非営利団体としては法外な額であると批判にさらされている役員報酬については、コミッショナーのジェイ・モナハン氏の2022年度報酬は28億円、前年の21億円から33%増だった。売り上げを前年から300億円増やして賞金も大幅に引き上げたのだから当然だ、というのが米国の企業社会の常識ではある。

世界で最も商業的に成功しているプロスポーツ団体(年商3兆円以上)であるNFLのコミッショナーの年収は100億円超(推定)。でも、PGAツアーは免税団体でしょ、と言われれば、その通りかもしれない。

このような不都合な真実も、LIVゴルフの出現がなければ、世間の注目を集めることはなかっただろう。外圧により、不都合な真実が白日の下にさらされ、その結果、変革を迫られるのはわが国の専売特許ではないようだ。むろん、わが国でもそうだったように、外圧による変革がいつも正解とは限らないが。(小林至・桜美林大学教授)

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