一部避難解除から1年 福島県飯舘村長泥の除染土壌利用農地 来年度から作物の栽培可能も出荷の手順未定

 東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち福島県飯舘村長泥の一部で避難指示が解除されてから5月1日で1年となる。現地では環境省が除染土壌の再生利用事業を進めており、造成した農地の一部は2024(令和6)年度中にも村側に引き渡され、来年度から作物を栽培できる状態になる見込みだ。しかし、村と省庁間で出荷再開の前提となる試験方法の協議が始まらず、作物の出荷手順は決まっていない。営農再開の時期は見通せないままだ。

 再生利用の実証事業は除染廃棄物の県外最終処分の実現に向けて2019年度から本格化している。全4工区、計22ヘクタールの農地を造成する計画だ。村内で発生した除染土壌のうち1キロ当たり5千ベクレル以下の土を農地の盛り土として埋め立て、汚染されていない土を使い50センチの厚さで覆う。

 このうち、今年度中に完成するのは第4工区の4.3ヘクタール。昨年度、排水性や地面の耐久性などの水田機能を確かめるためコメの栽培試験をしたところ、稲わらや玄米などの放射性セシウムは食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を大きく下回った。環境省は「試験で作物の安全性は確認できた」とする。

 村は除染土壌で造成した農地で栽培した作物を2025年度から出荷できるよう、環境省の栽培試験の結果を出荷再開の判断材料にしてほしいと提案している。村は早期に営農ができる制度が整わなければ地区の具体的な農業振興策をまとめられない他、住民の営農意欲の減退や新規就農者の呼び込みの遅れなどにつながると指摘する。環境省に各省庁との調整の役割を求めるが、環境再生施設整備担当参事官室の担当者は「出荷再開関連は所管外」と言うばかりだ。

 環境省は今年度、除染土壌の再生利用や最終処分のための基準を策定する方針。これに対し農林水産省の担当者は「基準が定まる前に出荷再開に向けた議論は始められない」との見解を示す。環境省が実施した栽培試験は「あくまでも農地の機能を確かめるのが目的」とし、「出荷制限解除の判断材料にはなり得ない」と述べる。

 政府は原発事故を受け、避難指示区域などでコメの作付けや一部野菜の出荷を制限した。避難指示が解かれた地域では、県や地元市町村が除染後の農地で試験を実施し、放射性セシウムが食品衛生法の基準値を安定的に下回れば県が政府に制限の解除を申請する。

 長泥の特定復興再生拠点区域(復興拠点)でも昨年5月の避難指示解除後、県と村が除染した農地でコメとキャベツなど野菜5品目の試験栽培に取り組んだ。安全性を確認した上で今年度は次の段階となる実証栽培を行う予定だ。順調に進めばコメは今年産から、野菜は2025年度から出荷できる。村は除染土壌で造成した農地でも同じ手順で出荷再開できるようにするのが望ましいとの考え。村産業振興課は原発事故から13年余が経過した状況も踏まえ、「農業ができる時期を一日でも早く示してほしい」と求めている。

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