懐かしいふるさとの味…物産館で人気の「漬物」「梅干し」が消える…かも? 法改正で製造基準が厳格化 個人出荷に高いハードル 

手作りの漬物が並ぶコーナー。人気商品となっている=南九州市の道の駅川辺やすらぎの郷

 大型連休が始まった。お出かけついでに立ち寄りやすい道の駅や物産館は、地域密着ならではの商品が並び、中でも地域性や家庭の味付けが反映される手作り漬物は人気だ。しかし6月からは、この味が楽しめなくなるかもしれない。食品衛生法改正により漬物製造業が許可制となり、一定の衛生基準を満たす製造施設が必須となるためで、鹿児島県内でも個人出荷者の減少が懸念される。

 南九州市の上久保シゲ子さん(83)は、畑で育てた野菜を漬物として近くの道の駅川辺やすらぎの郷に出荷している。今の季節はラッキョウ漬け。毎朝、前日に収穫したラッキョウを納屋で水洗いして土をきれいに落とし、居間で塩漬けからパック詰めまでして、昼過ぎに出荷する。

 1日20パック前後を店頭に並べ、ほぼ即日完売する人気の品。「どっさいは作れないけどお客さんが待っているから。年寄りの楽しみよね」と笑顔を見せる。

 改正後は屋外や居住空間での加工は認められず、専用の作業部屋や手洗い設備などが必要になる。「見積もりで150万円かかると言われた。あと何年続けられるか分からないし、お金をかけるのも」と漏らす。

■多くは高齢者

 食品衛生法は食のグローバル化や広域的な食中毒発生を受け2018年改正された。食品の安全確保のため、国際基準のHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理を制度化し営業許可制を見直した。これに伴い漬物製造業が許可業種に加わり、21年の施行後、3年間の経過措置が設けられた。

 道の駅樋脇(薩摩川内市)の竹隈健二駅長(57)は「名指しで問い合わせがくるほど漬物のニーズは高い。道の駅ならではの魅力ある看板商品がなくなってしまう」と嘆く。梅干しや高菜漬けなどを出す20人ほどの多くは高齢者で、ほとんどが日常生活の延長で漬物を販売している。これまでに新制度の周知を図ってはきたが、営業許可を得たのは2人にとどまる。

 数万円あるかないかの収入のため、施設を整備するのは割に合わないという声は多い。道の駅すえよし(曽於市)でも、梅干しの個人出荷者のうち営業許可を取ったという報告は1件のみ。大原義彦駅長は「今後の販売は業者中心になるだろう」と明かす。

■加工室を開放

 約60人が漬物を出す道の駅川辺やすらぎの郷は新制度を見据え、この夏から併設の空き加工室を出荷者に開放する予定だ。西迫峰洋副支配人(46)は「漬物の売り上げは大きいし、昔懐かしい味がなくなるのはお客さんにとっても不幸」と話す。

 加工室には、冷蔵庫や流しなど基準を満たす設備が整っている。共同加工場でも問題ないと保健所に確認できたため、希望者に予約制で時間貸しする方向で準備を進めている。

 ただ、直売所がこうした施設を持っているのはまれ。地域の共同加工場も予約が取りづらいという。西迫副支配人は「法改正の意義は理解できるが、出荷者の生きがいを奪うことにもなる。食文化を守るためにも現場の声を聞いて何とか対応してほしい」と、行政などのサポートを求めた。

人気の商品となっている手作り漬物=道の駅川辺やすらぎの郷

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