ボン・ジョヴィのドキュメンタリーは私たちに贈られたアナザー・ストーリー

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第83回。

今回は、4月26日にディズニープラスで配信されたドキュメンタリー『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』について。

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この映像を通して何を伝えたいのか

ボン・ジョヴィのドキュメンタリー・シリーズ『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』がDisney +で公開になりました。ドキュメンタリーのエピソード1はデビューまでの経緯、エピソード2は『Slippery When Wet』の成功や世界の頂点に立ったバンドの歓喜、エピソード3は走り続けての疲労困憊や燃え尽き症候群、そしてリッチーの苦悩、エピソード4は、アレックの死、シンガーとしてのジョン、バンドの行末、で構成され、コロナ禍を経て、再度シーンに戻ってきたボン・ジョヴィの真実のストーリーとなっています。

今なぜドキュメンタリーで真実を語ることになったのか⁉  40周年という節目だからなのか⁉  その答えが見つけられず、あまり知りたくはないな、とネガティヴな私がいました。それは、ボン・ジョヴィが過去のバンドではなく、レジェンドと呼ばれている今も、ジョンはボン・ジョヴィを続けていくために努力し、ティコ・トーレスとデヴィッド・ブライアンは、常に彼を支え、さらにギターのリッチー・サンボラの復帰を願うファンの声が絶たない、今のバンドだからです。

ジョンは、この映像を通して何を伝えたいのだろうか…。それは最後のエピソードで明らかになり、ようやく私は理解することになったのです。安易にリッチー復帰を唱えている私は、ボン・ジョヴィに対して、もう少し違う見方をしなければいけないと気づかされました。

公開されて、一気に4話を見終え、それでも細部を見ないと彼らの本当の気持ちを理解することができないのではと2度目に挑戦。さらに、自分の考えと照らしあわせるように3度目を見ながら原稿を書いています。そこまで慎重にならなくても、80年代の彼らの栄光を共に楽しめばいいじゃないか、と言われてしまうかもしれませんが、彼らの初来日からリアルタイムで見続けてきた(正確には応援してきた)身としては、ドキュメンタリーを通して新たな真実を知ることには、かなりの勇気が必要だったのです。

涙を堪えて振り返るジョン

ジョンがたった一人で売り込みに必死だった「Runaway(夜明けのランナウェイ)」を巡る話、パワーステーションのスタジオでコーヒーボーイをしていた時のエピソード、この辺りは微笑ましい思いで見ることができました。その後、成功を得て、トップスターになった彼らの苦悩、マネージャーとのトラブルは、世界を制覇したロック・バンドのサクセス・ストーリーには欠かせない、彼らにも訪れたエピソード。でも、ボン・ジョヴィだから、心が痛むのです。

このドキュメンタリーは、2022年、満を持してツアーに挑んだ時期のジョンのインタビューが中心となっています。もちろん、過去の発言、映像も十分過ぎるほど扱われ、それを証明するかのようなジョンの言葉であり、デヴィッド、ティコ、そして辞めたリッチーの言葉が織り込まれ、かなりリアルになっています。「俺は自分の心を見せない。でも俺を信じてついてきてほしい。僕はメンバーを裏切ったことはない」と涙を堪えて振り返るジョンは、私が知っているジョン・ボン・ジョヴィの姿ではありませんでした。

私のジョンの印象は、どちらかというと、神経質で、インタビューの時も、思わず顔色を窺ってしまうぐらい、こちらも緊張していました。でもこの映像を見て、本当のジョンは、とても真面目に音楽に取り込んできた人で、ボン・ジョヴィを成功させることに真剣で、その真面目さ故に、常に自分と闘っていた人であることがわかったのです。ジョンは、ロックンロール・ライフをエンジョイできたメンバーとは、明らかに違っていました。もちろん、バンドにはそれぞれの役割がありますから、どれが良くてどれが悪いということではありません。

ジョンはリッチーをずっと待ち続けている

ここでドキュメンタリーのすべてを明かすことはしませんが、昔を回顧するシーンでは、ジョンとリッチーが同じ思い出を共有している発言に、ほんわかした気持ちになります。意外だったのは、ジョンがリッチーをずっと待ち続けていたこと、それは変わらず今も。リッチーには、辞めたい理由がちゃんとあったわけですが、その辞め方が不味かったと自己反省しているシーンを見て、二人の関係が終わりではなく、次に繋がるのではないかと思わせてくれました。

ただ、このドキュメンタリーでは、リッチー不在のボン・ジョヴィを支えてきたミュージシャンたちの存在の大きさも伝えられています。リッチーが辞めたことで、ギタリストとしてだけでなく、ソングライター、バック・ヴォーカルなど、何役もこなしてきた彼の代わりを見つけるのは容易ではなく、事情を理解した上で参加したジョン・シャンクス、フィル・Xたち、またそれ以前に加入したヒュー・マクドナルドに至っても、尊重しなければならない存在なのです。

ジョンは、2022年のツアー以降、ボン・ジョヴィのヴォーカリストとして、完璧な歌声を披露するために、喉のトリートメントに集中しています。2022年のツアーでの葛藤は、彼自身のシンガーとしてのキャリアに暗雲を残しました。それによって、声帯手術を受け、リハビリをし、声を取り戻したのです。新曲「Legendary」には、歌声が戻ってきた彼の喜びが表現されています。ジョンは、今もボーカルセラピーを受け、ツアーに出るための努力をしています。

デビュー40周年にあたる新作『Forever』は、そんなバンドの希望に溢れた作品であることは間違いありません。その後ツアーを敢行するかどうかは、ジョンが102%の準備ができた時点で行われるはずです。日本のボン・ジョヴィ・ファンは、彼らと共に変わることなく、40年間を歩いてきました。『ボン・ジョヴィ:Thank You, Goodnight』は、そんな私たちに贈られた ボン・ジョヴィ・アナザー・ストーリーです。今直面している問題を乗り越え、また新たなページが開かれることを楽しみに、ドキュメンタリーのラスト・シーンの最新のジョンの言葉を噛み締め、私たちは信じて待つだけです。

P.S. ドキュメンタリーの公開日、リッチーがソロ曲「I Pray」を配信しました。5月から毎週連続で新曲を次々とアップしていくようです。リッチーらしいサウンド、歌声を聴き、ドキュメンタリーを冷静に受け止めてはいましたが、アルコール依存症から立ち直り、娘との絆を深め、ボン・ジョヴィという家族の元に戻ってきて欲しい、という気持ちを抑えることはできませんでした。

Written By 今泉圭姫子

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ボン・ジョヴィ『Forever』
2024年6月7日発売

© ユニバーサル ミュージック合同会社