新社会人はお金を「守る」「活用する」知識を学ぼう

会社に就職すると、それまでとは大きく異なるのがお金とのかかわり方です。お金は誰もが子どものころから、物やサービスを買うために「使う」ことはあったと思います。

社会人になるとお金を「使う」工夫だけではなく「守る」「活用する」側面を意識する必要がでてきます。

「使う」ときには収支のバランスを考える

まずは「使う」時の注意点です。収入と支出のバランスを考えて行動することが大切です。

収入と支出のバランスをとることは、当たり前のことのように感じますが、現金以外の決済手法が一般化することで、知らない間に支出が収入を上回る危険性があります。それを防ぐためには、そもそも収入がどれぐらいなのか、を把握することが重要です。

新社会人が最初に認識しておくべき点は、会社が提示する「初任給」と実際に自分が使える金額は違うということです。

給与明細を確認すると、いろいろな項目が引かれていて「差引支給額」が記載されています。これがいわゆる「手取り収入」です。差し引きされる項目は、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などの社会保険料、加えて所得税があります。あわせると全体のおよそ15%になります(※1)。また、住民税は前年の給与所得に課税されるため、1年目の課税はなく、翌年の5月から課税がスタートします。

※1 40歳以上になると介護保険料も発生する

リボ払いの手数料は定期預金金利の60倍

金融リテラシー調査によると、「お金を借りすぎていると感じている人の割合」は若年社会人(18~29歳)で21.9%と、全体平均の11.6%と比べて10%以上の差がありました(※2)。

カードローンやキャッシングは手軽にできますが、いつかは返さないといけないお金です。返済する場合には、利息も払う必要があります。カードローンの金利は年3~18%。メガバンクの定期預金金利が0.25%ですから、少なくとも定期預金金利の12倍以上を負担することになります。

また、返済金額を一定額に抑えることができる、とうたわれるクレジットカードのリボルビング払い(リボ払い)は手数料が発生します。実質年率は、クレジットカードによって異なりますが、15%を設定している場合が多いようです(※3)。

定期預金金利の60倍もの手数料を払っていることに気づかず、リボ払いを選択してしまう人もいるようです。

社会人のスタート時に収入と支出のバランスをとることを心がけていれば、「お金を借りすぎる」ことも防げるかもしれません。

※2「金融リテラシー調査(2022年)」金融広報中央委員会
※3 いずれも2024年4月時点の数値

「守る」ために必要なのは目標設定

お金を「守る」の第一歩として、まずは生活費の3カ月分を貯金しましょう。これは、いつでも使えるお金として普通預金などにプールしておきます。

そのためにも「支出」の把握が重要です。毎月、ご自身がどれだけ「支出」するのかを把握しておくと、不慮の事態が生じた場合であっても最低限必要な金額がわかり、安心感につながります。

生活費の3カ月分が貯金できたら、次の目標は旅行や車の購入など、少し大きめなお金が動くイベントを考えてみます。いつまでに、いくらぐらいが必要なのか、を計画しましょう。

お勤め先に給与天引きで活用できる制度(財形貯蓄や社内預金、持株会、職場つみたてNISA等)があれば、それらを活用するのも一つの方法です。数年先に使うためであれば、財形貯蓄や職場つみたてNISA(少額投資非課税制度)がよいでしょう。とはいえ、職場つみたてNISAの実施企業は、まだ多くないため、個人でNISAのつみたて投資枠を活用するのも選択肢の一つです。

なお、2022年に国民生活センターに20代から寄せられた相談の特徴は、「美と金についての相談」でした。「美」の多くは脱毛サロンでの被害(金額が法外、店舗の倒産による返金請求等)、「金」については詐欺でした。「簡単に稼げる」「もうかる副業」などの言葉でSNSを通じて行われる金融詐欺が多いようです。「ノーリスク、ハイリターン」は存在しないことを認識しましょう。

「活用する」ためには、制度や商品性の理解も重要

「使う」「守る」の基礎固めができたら「活用する」ことも考えましょう。若いうちから、時間をかけることで資産形成のリスクを低減できます。

長い時間をかけることができるのであれば、DC制度(企業型DCやiDeCo)の活用がいちばん効率的です。給与明細から差し引きされている所得税・住民税の軽減効果が高いためです。

ただ、DC制度は60歳まで引き出せない資産になるため、余裕資金での拠出にしましょう。60歳まで引き出せないことをデメリットに感じる方は、NISAを活用しましょう。

DC制度もNISA(つみたて投資枠)も、資産形成の3原則である長期投資・積立投資・分散投資が実践しやすくなっています。また、活用できる運用商品が絞り込まれているため、運用商品を選びやすい、という点もメリットといえるでしょう。

「金融リテラシー」がかつてなく注目され、金融教育の必要性も認識されています。とはいえ、金融教育によって培った知識も実践しなければ、意味がありません。企業型DCやNISAなど、用意された仕組みを活用し、一定期間が経過したら振り返ってみる、という習慣をつくる。それが知識や経験の積み重ねとなり、資産形成に結びついていくといえるでしょう。

津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部

社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。

© 株式会社想研