3補選、立民全勝・自民全敗 誰に国を任せればいいのか

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

3補選、立民が全勝したが、自民への逆風という「敵失」によるものが大きい。

・岸田総裁再選は厳しい。とはいえ岸田内閣の防衛政策は評価できる。

・政権交代やむなしの状況だが、我々有権者は誰に国を任せるのか、原点に返るべき。

立民全勝」、「自民全敗」・・・そんな見出しが飛び交う。

そのとおりである。外形的には。ただ、長崎3区と東京15区は自民不戦敗なのだから、実質自民に勝ったのは島根1区のみ。しかも自民には政治とカネで大逆風だったわけだから、立民が勝つのは当たり前だった。なので、立民はぬか喜びすべきではないだろう。

東京15区の教訓

東京15区は東京都江東区という下町の選挙区。地元選出の衆議院議員が2人連続で逮捕され、前の江東区長も公職選挙法違反の買収などの罪に問われ、国会議員や区長が相次いで立件されるという選挙区だった。そうした経緯から今回自民党は候補者を出せなかった。そこに9人もの候補者が立候補し、乱戦模様となった。

結果は以下の通り。

当選 酒井菜摘氏(立民・新) 49476

須藤元気氏(無所属・新) 29669票

金澤結衣氏(維新・新) 28461票

飯山陽氏(諸派・新) 24264票

乙武洋匡氏(無所属・新) 19655票

吉川里奈氏(参政・新) 8639票

秋元司氏(無所属・元) 8061票

福永活也氏(諸派・新) 1410票

根本良輔氏(諸派・新) 1110票

そして投票率だが、40.70%。3年前の選挙を18.03ポイント下回った。

今回の選挙から見えてきたことは何だろうか。

小池神話の終焉

小池百合子都知事は、どういう理由からか乙武洋匡氏をかつぎ出した。結果はご覧の通り。下馬評よりもはるかに得票は少なく、5位に沈んだ。「都民ファーストの会」の支援、すなわち小池氏の応援は効果がなかった。筆者は小池氏が乙武氏の応援に入った演説会を見に行ったがそれなりに人は集まっていた。

まだまだ小池人気は根強いものがあるのかと思っていたが、結果は予想外だった。小池氏が都知事に立候補したときは小池旋風とまで称され、その人気はすさまじいものがあったが、その後の都政を見て、都民はしらけているのかもしれない。少なくともかつての神通力は失せたと思っていい。

直近では、築地市場の再開発問題がある。5万人収容のスタジアム建設を計画する三井不動産ら企業群が選定された。新東京ドームか、と予想されているが、かつて小池知事が言っていた「食のテーマパーク」はどこにいったのか?学歴詐称問題もボディーブローのようにじわじわ効いてきた感がある。

3期目もしくは国政復帰は、厳しいものがあるかもしれない。

立憲候補者の勝利

今回の投票率の低さは当然予想されたものだった。地元選出国会議員の相次ぐ不祥事に有権者がしらけるのも無理はない。

候補者の街頭演説を取材に行っても、立ち止まる人は少なかった。立民の候補者の街頭演説を聞いていたたった一人の区民は、「政治に関心を持たないのは違う」、といらだちを隠さなかったが、現実はご覧の通りだった。

今回、立民の候補者が大勝したが、理由は明白だ。投票率が低く、浮動票が少ない場合は、組織票を持っている方が強い。共産党と組んだ立憲民主党は、双方の組織がフルに機能したということだ。

一方、自民は候補者を出せなかったこと、都ファ支援の乙武候補を自民・公明が推薦しなかったこと、それ以外に候補者が乱立したことなども、立憲に有利に働いた。いわば敵失により勝利したといえよう。

政権交代に弾み、などとの声も聞こえるが、立民が共産党と選挙協力をしていることを有権者は見ている。そう簡単にはいかないと思った方がいい。

日本維新の会

やはり、というべきか。日本維新の会は、東京では地域政党としか見られていないことが明らかになった。「身を切る改革」が維新の会のキャッチフレーズだが、正直、都民にとって大阪の状況は知るよしもない。いくら大阪での「成果」を語られても、ピンとこないし、響かない。

かつ、自民党に相対峙する「保守」としての立場も、日本保守党の台頭によりすっかり薄れてしまった。百田尚樹代表の知名度は抜群で、飯山陽候補は無名だったにもかかわらず4位につけたことは驚きだ。

関西では抜群の強さを誇る維新の会だが、新保守の台頭で、東日本での戦い方に課題を残した。戦略の立て直しが急務だろう。

岸田総裁の再選戦略

政治に絶対はない。予測しても意味はないが、メディアは予測したがる。岸田自民党総裁は9月の総裁選での再選をにらんでいるだろうが、今のままでは厳しいといわざるを得ない。やけっぱち解散がないとはいえないが、そんなことをしたらどうなるか、本人が一番わかっているだろう。

内閣支持率は低迷が続いている。それもそのはず、政治資金規正法の議論にこんなに時間がかかっていることに、国民はうんざりしている。というかあきれている。自浄作用が働かない自民党の支持率に反転の兆しはない。

一方、政策的には評価できるのが岸田内閣だ。特に安全保障面では特筆すべきものが多々あることは知っておくべきだ。

まず防衛費の増額。北朝鮮、中国、ロシアからの脅威に対処するための「ミサイル防衛の強化」、NATOとの防衛協力の端緒を開く、「日英伊による次期戦闘機の共同開発」など、安倍政権下でもできなかった防衛政策を着々と進めていることは、多くの国民が支持しているはずだ。

一方で、経済合理性を見いだせない「ガソリン補助金」や、唐突な公的医療保険を通じて集める「子ども・子育て支援金制度」など、ちぐはぐな経済政策も多い。賃金上昇のサイクルを必ず実現するうんぬんと、まるで自分の手柄のように話す岸田首相だが、ベアアップは単に企業の業績が好転したからにすぎず、岸田政権のせいでもなんでもない。ようは、政策に一貫性がなく、国民も疑心暗鬼になっているような状態だといえよう。

むしろ心配なのは、エネルギー政策や、これから競争力をもって戦っていかねばならない産業育成の道筋が見えないことだ。

例えば自動車産業。世界的なEVシフトの動きに日本の自動車会社は全く対応できていない。たまたま去年から現在まで、EV普及の踊り場にあり、日本が得意なハイブリッド車が再評価されているからといって、未来永劫、日本車が勝ち残る保証はない。隣国中国は遅かれ早かれEVが国内を走る車のほとんどを占めるようになるだろう。問題はそうした事態に日本の産業政策が対応できていないことだ。

補選から学ぶこと

政権交代が起きるならそれも仕方ない。2大政党制を望んできたのは私たち有権者であり、今の自公政権にうんざりしているのも私たちだ。

しかし、これからの日本を考えたとき、誰が国の政治を司るにしろ、待ったなしの政策が山積していることを忘れてはならない。

国内のゴタゴタは、中国やロシア、北朝鮮に敵失を与え、我が国の国力を減じることにつながる。いや、それどころか、ウクライナのような状況を招きかねない。

有権者の5人に2人しか選挙に行かない現状は、我が国の未来の放棄に等しい。そう私たちも自覚することが必要だ。今回の補選の結果は、思っている以上に重い課題を私たちに突きつけているといえよう。誰に政権を任せるのか、原点に返って次期衆院選に臨みたい。

トップ写真:乙武洋匡氏の演説会に登壇する小池百合子都知事 2024年月13日 東京都江東区 出典:Japan In-depth編集部

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