国内、海外市場で半導体株が好調。最新DC投信マーケット解説2024年4月号

DCガバナンスの視点から受託者責任を果たす目的で、投資信託のモニタリングや入れ替えを検討・実施する企業も少しずつ増えています。そこで、投資信託のモニタリングに役立つDC商品マーケットの最新状況を、投資信託評価会社である三菱アセット・ブレインズの標氏に解説していただきます。

※この記事は、2024年4月25日(木)に実施したWEBセミナー「最新DC 投信マーケット解説 2024年1月号」を記事化したものです。

——2024年1月~3月のDCマーケット状況について伺いたいと思います。まずはアセットクラスごとのパフォーマンスをお聞かせください。

まず、図1のグラフをご覧ください。こちらは過去2年間のファンド分類別の累積パフォーマンスを示したものです。

図1 分類別累積パフォーマンス 拡大図表示

出所:三菱アセット・ブレインズ

過去2年間で最もパフォーマンスが良かったのは、オレンジ色の国内株式型です。2023年は国内経済の脱デフレ・賃上げへの期待や東京証券取引所による資本コストを意識した経営の要請など複数の要因から、欧州を中心とした海外投資家の買いが強まり大幅に上昇しました。最終的に日経平均株価は史上最高値を更新し、4万円超の高水準で推移しました。

緑色の外国株式型も同様に、良好なパフォーマンスとなりました。2022年から2023年は金利上昇の動きから軟調な推移が続きましたが、年が明けて2024年3月にかけては米国を始めとする先進国のインフレ率が鈍化、一服感が見られたことから、2024年以降の利下げ観測も高まり大幅に回復しました。ただし、4月10日に発表された3月の米消費者物価指数が市場予想を上回り、FRBの6月利下げ開始観測が遠のいた結果、株式市場は急落しました。今後も物価推移をにらんだ神経質な動きになると思いますので注意が必要です。

他方、国内債券型、国内リート型のパフォーマンスはマイナス圏に沈んでいます。日銀の金融緩和政策の修正観測が重石となりました。3月にはマイナス金利政策の解除、イールドカーブコントロールの廃止といった主要な金融緩和政策が見直されたことで国内金利は上昇基調で推移しました。

金利の上昇は国内債券型では債券価格の下落につながります。国内リート型も同様に、金利上昇によってリートの利回りの魅力が相対的に低下したことや、物件借り入れコストの上昇が警戒されました。ただし、3月の日銀金融政策決定会合はおおむね市場の予想通りの結果であり、緩和的な金融環境を維持する方針も示されたため、悪材料出尽くしとの見方から3月後半にかけては持ち直しの動きがみられました。

次に分類別に直近3カ月のパフォーマンスランキング(図2)を確認します。

図2 分類別パフォーマンス 拡大図表示

出所:三菱アセット・ブレインズ

2024年1月にパフォーマンスが最も良かったのは国内株式型でした。海外投資家による買いが強まりましたが、特に半導体関連株の上昇がプラスに寄与しました。アメリカのハイテク株の好決算が日本市場に波及しました。外国株式でも同様にハイテク株が買われ、アメリカではS&P500、NYダウがそれぞれ最高値を更新するなど、活発な動きとなりました。

2月は、エマージング株式が上位となりました。中国が新興国全体をけん引した格好です。中国当局による景気刺激策が好感されました。韓国や台湾などの半導体関連株も大幅に上昇しました。

3月は金などのその他資産が1位となりました。ウクライナによるロシア製油所への攻撃や中東情勢を巡る地政学リスクの高まりから、金価格は月間を通じて上昇しました。また、米国や欧州で政策金利の引き下げ観測が高まったこともプラスとなりました。ただし、先ほども申し上げました通り、4月に入っても米物価指数の高止まりが続き金融政策のかじ取りは難しくなっており、過度な楽観視は禁物な状況です。

以上のとおり、3月までは米欧中銀の利下げ観測やハイテク関連株の大幅上昇がけん引し、国内株式、外国株式共に活況となりました。

パフォーマンス動向の説明については以上です。

——ありがとうございます。続いて、2024年1月~3月のDCファンドの状況について教えてください。

ここではDC専用ファンドの資金流出入動向について確認します。まずは図3のグラフをご確認ください。1月の資金流出入額は700億円の流入超、2月は800億円の流入超、3月は670億円の流入超となりました。おおむね700億円前後の資金が安定的に流入しました。

図3 ファンド分類別 月間流出入額推移(DC専用ファンド) 拡大図表示

※ 公社債投信等を除くDC専用ファンド
出所:三菱アセット・ブレインズ

内外の株式に資金が流入しましたが、株式市場が高値圏で推移するタイミングでは、加入者の中で資産を一部現金化する動きもあったものとみられます。

資金流出では国内債券型が目立ちました。日銀の金融政策正常化、将来的な金利上昇の懸念から、一貫して資金が流出しました。

次に図4のグラフをご覧ください。直近6カ月の資金流出入額の累積は、外国株式型が2170億円、複合資産型が960億円、国内株式型が650億円となっています。

図4 ファンド分類別 月間流出入額推移(DCファンド) 拡大図表示

※ 公社債投信等を除くDC専用ファンド
出所:三菱アセット・ブレインズ

外国株式型への流入が加速しました。2024年1月から新NISAが開始されたこともあり資産形成に対する関心が高まっており、DCファンドについても特に若年層を中心とした新たな加入者から人気を集めています。

複合資産型は、市場動向に流出入額が大きく左右されにくい特徴があるので、安定的な資金流入となっています。

一方、国内株式型は特に3月に日経平均株価が最高値を更新したタイミングで、利益確定の動きによるスイッチングが響き、流入額は縮小しました。

次に、個別ファンドではどのようなファンドに資金が流入しているのか、国内株式型と外国株式型のカテゴリーについて確認します。

まず、国内株式型の月間資金流入額上位15ファンドについて確認します(図5)。

図5 2024年3月 国内株式型(DC専用ファンド) 拡大図表示

出所:三菱アセット・ブレインズ

ランキング表のとおり、上位15本中10本がパッシブファンド、残り5本がアクティブファンドになりました。パッシブファンドが優勢となっています。上位のパッシブファンドは東証株価指数(TOPIX)に連動するファンドがほとんどです。他方、12位には日経225、14位にはTOPIX100に連動するファンドがランクインしており、TOPIXよりも銘柄を絞り込んだ指数のファンドにも資金流入がみられました。

アクティブファンドでは、6位のスパークス・厳選投資ファンドが、13位には世の中を良くする企業ファンドがランクインしました。

スパークスは成長株の運用を得意とした独立系の資産運用会社です。同ファンドは日本の株式市場の中から、厳選した少数の銘柄に集中して投資を行うファンドです。国内市場での圧倒的なシェア、海外市場の売り上げ拡大、世界的なブランドの形成が見込まれる企業を発掘して投資します。ポートフォリオは3月末で22銘柄の保有となっています。最も構成比率の高い銘柄はセブン&アイホールディングスで組入比率は約10%です。一般的なファンドと比べ1銘柄あたりのパフォーマンスが全体に与える影響は大きくなる点がポイントです。

13位の世の中を良くする企業ファンドは、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に対する取り組みに着目して銘柄を選ぶファンドです。運用会社のアナリストが個別銘柄についてESGの分析を行い、スコアを付与した上で、一般的なファンダメンタルズの分析も加えながら、ポートフォリオを構築します。こちらの銘柄も組入銘柄数は40銘柄と、スパークスのファンドほどではないですが、比較的集中度の高い運用となっています。

次に、外国株式型の月間資金流入額上位15ファンドについて確認します(図6)。

図6 2024年3月 外国株式型(DC専用ファンド) 拡大図表示

出所:三菱アセット・ブレインズ

ランキング表のとおり、上位15本すべてがパッシブファンドになりました。MSCIコクサイ指数に連動するパッシブファンドがほとんどとなっています。

他方、11位には「野村米国株式S&P500インデックスファンド(確定拠出年金向け)」、15位には「iシェアーズ米国株式(S&P500)(DC)」がランクインしました。米国の大型株式で構成されるS&P500は米国の経済成長を享受できるインデックスとして注目を集めています。引き続き米国株式市場には注目が集まっているようです。

パッシブファンドは運用管理費用が非常に低い点が魅力です。連動対象指数が同一のファンド間では運用パフォーマンスに差が付く要素として運用管理費用の水準が非常に重要な位置を占めます。自分たちが投資するファンドが世間一般のパッシブファンド、あるいは同一資産クラスに投資するアクティブファンドと比べてどのような水準にあるかはよく確認する必要があります。

資金流出入動向の説明については以上です。

——ありがとうございます。最後に、直近DC向けにどのような商品が設定されたか教えていただけますか?

2024年1月~3月ではいずれも同一シリーズのファンドになりますが、目標とする年が異なる7本のターゲットイヤーファンドが設定されました。

図7 新規設定ファンド 拡大図表示

出所:三菱アセット・ブレインズ

ターゲットイヤーファンドは、目標年に向けて株式の割合を徐々に減らす一方で債券の割合を増やし、リスクを引き下げていくのが特徴です。ターゲットイヤーファンドはこれ1本で分散投資をしつつ、ライフステージに合わせて資産配分を変更してくれる非常にお手軽なファンドです。

当ファンドシリーズは、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券と、一般的な伝統4資産と呼ばれるアセットクラスのパッシブファンドに投資します。比較的オーソドックスなターゲットイヤーファンドと言えるでしょう。

以上のとおり、1月~3月における新規設定ファンドは1シリーズのみでした。新規設定ファンドは最近下火となっている印象がありますが、新NISA制度の開始もあり、資産運用を新たに始める人が着実に増えている印象です。資金流出入動向を中心にDCの投資信託市場も拡大していくことが見込まれます。

以上、パフォーマンス動向、資金流出入動向、新規設定ファンド動向について、お話しました。

標 陽平/三菱アセット・ブレインズ株式会社 シニアファンドアナリスト

2011年3月大学卒業後、銀行でのリテール営業を経て、2014年9月三菱アセット・ブレインズ株式会社(MAB)へ入社。2016年7月よりアナリスト第一グループ所属。同グループでは主にDCファンドを始めとした投信評価業務、投資情報の提供を担当。日本証券アナリスト協会検定会員。

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