多彩すぎる浦和レディース伊藤美紀。身長150cm驚異的ヘディング力の裏側

伊藤美紀 写真提供:WEリーグ

2023/24シーズンの日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)第17節全6試合が、4月27日と28日に各地で行われた。同リーグ首位の三菱重工浦和レッズレディースは27日、本拠地浦和駒場スタジアムでサンフレッチェ広島レジーナと対戦。最終スコア2-0で勝利している。

WEリーグ史上初の10連勝を達成したうえ、2位INAC神戸レオネッサとの勝ち点差7を維持した浦和。神戸よりも消化試合数がひとつ多い現状だが、同リーグ史上初の連覇に向け今節も前進した(浦和18試合、神戸17試合消化)。

ここでは、第17節広島戦の現地取材で得た浦和MF伊藤美紀の試合後コメントを紹介。そのうえで、直近のWEリーグ3試合連続でゴールを挙げている同選手の特長を解説する。


遠藤優(左)伊藤美紀(右)写真提供:WEリーグ

伊藤がもたらす攻撃バリエーション

基本布陣[4-2-3-1]の左サイドハーフとして出場していたFW安藤梢の負傷離脱により、このポジションでの先発機会が増えた伊藤。左サイドバックを務めるMF水谷有希との連係が良好で、浦和の攻撃を彩っている。

MF遠藤優(サイドバック)とFW清家貴子(サイドハーフ)の快足コンビが揃う右サイドに注目が集まりがちだが、先述の左サイドコンビから繰り出される遅攻の質も高い。伊藤がタッチライン際に立ったら水谷がその内側へポジションを移す。水谷がタッチライン際に立ったら伊藤が内側へというように、この2人が縦一列に並ばないよう常に工夫が施されている。

また、伊藤は相手サイドハーフやボランチの背後(死角)から突如現れ、味方のパスを受けるスキルが高い。ゆえに密集地帯でも簡単にボールを失わず、浦和の遅攻を司っている。遠藤と清家を中心とする速攻を封じるために最終ラインや中盤のラインを下げても、水谷と伊藤から繰り出されるパスワークで守備ブロックに穴をあけられてしまう。対戦相手としては手が付けられない現状だ。


伊藤美紀(左)栗島朱里(右)写真提供:WEリーグ

変化した伊藤のプレー

相手の守備ブロックの隙間でボールを捌き、パスワークを司る。これが左サイドハーフ伊藤の主な役割だったが、直近のリーグ戦では自ら得点を狙うプレーが増えている。4月18日に行われたWEリーグ第15節大宮アルディージャVENTUS戦の前半2分、伊藤は敵陣ペナルティエリアへ侵入したうえ、味方FW島田芽依のパスに反応して先制ゴールをゲット。翌第16節マイナビ仙台レディース戦でも、右サイドバック遠藤のクロスに伊藤がヘディングで合わせ、浦和に追加点をもたらす(後半5分)。トップリーグ出場200試合目という自身のメモリアルゲームを、自らの得点で彩ってみせた。

2試合連続ゴールで迎えた第17節広島戦でも、伊藤は抜群のゴールセンスを発揮。迎えた前半14分、MF栗島朱里が上げたクロスにまたもヘディングで合わせ、浦和に先制点をもたらしている。

伊藤美紀 写真提供:WEリーグ

「得点できなかったのが悔しかった」

相手の守備ブロックの隙間でボールを受けることが多かった伊藤が、直近のリーグ戦でゴール前への侵入を増やしている理由は何か。4月25日のチームトレーニング(全体練習)終了後に行われた囲み取材で、筆者は伊藤にこの点を尋ねてみた。

ー最近、相手最終ラインと中盤の間でボールを受けるより、ゴールに直結するプレーが増えていますね。こうしたプレーを意識するようになったきっかけは何でしたか。

「(4月14日の第14節)ノジマステラ神奈川相模原戦で、清家選手と塩越(柚歩)選手からクロスが上がってきたんですけど、自分がゴール前に入れなくて、クロスボールが通過してしまうシーンが2本ありました。自分がゴール前に詰めていれば得点できたので、それを逃したのがとても悔しかったです。それで安藤選手にクロスへの入り方や(ゴール前での)ポジション取りを訊いて、こうした部分を修正しました。クロスボールに対して入っていく(ゴール前へ飛び込む)意識は強くなりましたね」


伊藤美紀 写真提供:WEリーグ

伊藤が明かしたクロスへの合わせ方

伊藤は第17節広島戦終了後にも筆者の取材に応じ、クロスボールへの合わせ方の極意を明かしてくれた。

ー伊藤選手は小柄(身長150cm)ですが、空中戦においてクロスボールにピンポイントで合わせることができています。そのためのコツを、全国のサッカー少年・少女の皆さんのために教えていただけますか。

「『せえの!』で(相手守備者と同時に)競り合っても難しいので、私は相手の見えないところからゴール前に入るというのを意識しています。見えないところからゴール前に入ってこられると、相手としても対応が難しいと思います。それを練習のなかでやり続けました」

「クロスを上げる人とタイミングを合わせるのも大事ですね。あと、私の場合は『こういうボールが欲しい』というのを、クロスを上げる選手に伝えています」

ーどういうクロスボールであれば、伊藤選手は合わせやすいですか。

「滞空時間のあるボールですね。こうしたクロスが上がると、相手としてはどうしてもボール(だけ)を見てしまいますし、体も止まってしまいます(その場でジャンプする形になる)。ふわりとしたクロスボールのほうが、私としては後ろから勢いをつけてゴール前へ入りやすいですね」

広島戦の先制ゴールも、滞空時間が長めの栗島のクロスボールに伊藤がヘディングで合わせたことで生まれている。このとき伊藤はペナルティエリア内の広島MF島袋奈美恵の死角(背後)からクロスボールの落下点に入っており、まさにコメント通りのプレーだった。

常盤木学園高校での活躍を経て、2014年にINAC神戸レオネッサに入団した伊藤。基本布陣[4-1-2-3]のアンカー(中盤の底)や3バックの一角など様々なポジションを経験し、自身のプレーの幅を広げると、2023/24シーズン開幕前に浦和へ移籍した。多彩すぎるこの28歳MFが、浦和をWEリーグ史上初の連覇へと導くかもしれない。

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