村上春樹、小澤征爾さんとの思い出を語る「“春樹さんが小説に書いてくれたおかげで、僕のレコードが売れてよかったよ。ありがとう”と礼を言われたことがあります」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。4月29日(月・祝)15時00分~16時50分は、特別番組「村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って」をオンエア。
今年2月に逝去した世界的指揮者小澤征爾さんと親交が深かった村上さんが、小澤さんを偲んで、自宅から持参したレコードをかけながら、良き音楽を求め続けた小澤さんの足跡を辿りました。
この記事では、小澤さんとのインタビューを特別公開したパートを紹介します。

◆Seiji Ozawa/Chicago Symphony Orchestra「Janáček:Sinfonietta I. Allegretto、II. Andante」

次はヤナーチェックの「シンフォニエッタ」1、2楽章を聴いてください。僕は『1Q84』という小説の中にこの演奏を登場させまして、征爾さんに「春樹さんが小説に書いてくれたおかげで、僕のレコードが売れてよかったよ。ありがとう」と礼を言われたことがあります。まあ、何かのお役に立てたとすれば僕としても嬉しいですが。
地味な曲であまり聴かれることもないんだけど、なかなか素敵な、印象深い音楽です。演奏はこの征爾さんのものが今のところベストではないかと思うのですが、いかがでしょう?

1964年、小澤さんはシカゴで夏に催されるラヴィニア音楽祭の指揮者に急遽抜擢され、成功を収めます。それが縁でシカゴ交響楽団と親しくなり、何枚かの録音を残していますが、これもその1枚です。フリッツ・ライナーにがちがちに鍛え上げられた名門オーケストラは、東洋からやって来た若い才能との出会いを愉しんでいるように僕の耳には聞こえます。

今からおかけするのは、2011年7月に僕=村上が小澤征爾さんにインタビューしたときの録音です。場所はパリのアパートメントの一室。僕はその前の週ずっと、スイスのロール(Rolle)という小さな町で、ヨーロッパ各地から集まった学生オーケストラのメンバーと一緒に、特別合宿に参加していました。そこで征爾さんを中心とした何人かの一流のプロ奏者が教師となって、音楽家を目指す優秀な学生たちをみっちりと鍛え上げるんです。そして最後にその仕上げとしてパリでコンサートを開く。そのようなプロセスを目の当たりにするのは、僕にとってずいぶん貴重な体験になりました。
そのパリでのコンサートの翌日に、このインタビューはおこなわれました。スイスでの合宿の多くの部分は弦楽四重奏というかたちで進行していきました。そして最後の段階でみんなが合体してひとつのオーケストラになるわけです。「どうして弦楽四重奏がオーケストラの訓練の基礎になるのでしょうか?」というのが僕の質問でした。小澤さんがそれに答えます。

――番組ではここで、パリでおこなわれた村上春樹さんによる小澤征爾さんへのインタビュー音源を放送。ヨーロッパと日本の音楽を学ぶ学生のキャラクターの違いを、パリのアパートメントで村上春樹が小澤征爾に訊いた貴重な音源を紹介しました(*radikoタイムフリーでお聴きいただけます)。

ヨーロッパの学生と日本人の学生のキャラクターの違い、ラッシュアワーの小田急線に乗せてみればわかる……というのはおかしいですね。征爾さんは一時期、時折朝の小田急線に1人で乗って病院に通っていました。しかしラッシュアワーの小田急線で隣に小澤さんがいたら、人はびっくりしますよね。実際によくびっくりされたそうです。
「でもさ、春樹さん、よくおれだってわかるよねえ」と征爾さんは言うんだけど、そんなのわからないわけがないですよねえ。

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4月29日(月・祝)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 5月7日(火)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って
放送日時: 2024年4月29日(月・祝)15:00~16:50
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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