逸材助っ人が来日即“覚醒”…驚異の防御率0.33 長いマイナー生活、TJ手術2度の苦労人

オリックスのアンダーソン・エスピノーザ【写真:北野正樹】

今季のオリックスを支えるエスピノーザは「1球の重みが変わってきます」

熱いハートと冷静な洞察力で、狙うはノーヒットノーランだ。開幕からオリックスの先発ローテーションを守る新助っ人、アンダーソン・エスピノーザ投手が、ドジャースに移籍した山本由伸投手に続く、チーム3年連続の快記録に照準を当てている。

「ヤマモトがノーノーをしたことは、YouTubeのハイライトで見て知っています。ノーノーは難しいと思いますが、ゴロで仕留めたり三振を取ったり、攻めた投球をして、彼のように記録を達成したいと思います」

届かなかった悔しさがある。パドレス傘下3Aでプレーした昨年、8回途中まで無安打を続けていたが、大記録を逃してしまった。「打者もなんとか、ノーノーを避けようと。より集中して向かってきますから、ノーヒットが続いている時にはより集中しなくてはいけないことを学びました。序盤とは1球の重みが変わってきますから。投げ切る自信はあったので、悔しかったですね」と、逃した記録を思い出し、顔を歪めた。

ベネズエラの首都・カラカス出身。2014年にレッドソックスと契約して、1Aで実績を積み、2016年にパドレスに移籍した。翌年以降、2度の右肘トミー・ジョン(TJ)手術を経験。コロナ禍による1年を含め、4年間、実戦から遠ざかったことで得たものがあった。

「これまでの野球のキャリアを通じて色々な事を経験し、乗り越えることで強い精神力を培うことができました。メンタルの部分で自信を持っています」。キャッチボール、ライブバッティングを経て、2021年5月に1709日ぶりに登板するまで、復活を信じてリハビリに向き合った長い日々が、ラテン系の明るさに強いハートを併せ持つ右腕に変貌させた。

オリックスに加入した今季、開幕から順調に結果を残している。来日初勝利は開幕2戦目。開幕戦を黒星でスタートした“暗雲”を払った。2勝目もカード頭を落とした翌日のゲームでチームに勝利をもたらせたのは、メンタルの強さがあったからに他ならない。今季はここまで4試合に登板して3勝0敗、防御率は驚異の0.33を記録しており、来日即の月間MVP候補にも挙がる。

疑問はすぐに解決…「あの場面でなぜあのボールを要求したのか」

エスピノーザは、155キロ超のストレートにカーブ、スライダー、チェンジアップが武器。マイナーリーグでは通算109試合、426回2/3で440奪三振を誇る。春季キャンプ中、チームに合流して約1週間後のライブバッティングでは死球を出すなど制球に苦しんだもの、鋭い変化球で打者を翻弄した。

対戦した来田涼斗外野手は「縦割れのカーブがよかった」と、シーズンでの活躍を予想していた。2月24日のDeNA2軍との練習試合では3者連続三振で実戦デビューを飾り、オープン戦などでも安定した投球を見せ、開幕ローテーション入りをつかんだのだった。

対応能力も高い。登板2戦目となった4月6日のロッテ戦(ZOZOマリン)。7回5安打、6奪三振、1四球、1失点と好投を支えたのは、縦のカーブに変えて、球場の特性を生かし、斜めに曲がるスラーブ。「この球場に関する情報を集めて、風の強い球場だとわかっていたのでカーブとスライダーの間の軌道のボールがうまくはまった」と人懐っこい顔をほころばせた。

球団関係者によると、記憶力はもちろんのこと、1つのことを教わると次を言われなくても行動を予測して対応するなど、臨機応変に動く器用さを持ち合わせているという。澤村直樹通訳は「自分が投げる前の試合での配球を捕手に尋ねたりするなど、研究熱心ですね。『あの場面でなぜあのボールを要求したのか』という疑問を聞き、いろんな要素を踏まえてのリードだったと捕手の方が説明すると、すぐに理解をします。ロッテ戦でもカーブがダメだからどうしようではなく、それじゃ風を利用してものにしようとするなど、とても器用ですね」とクレバーさに感心する。

来日に際し、ベネズエラ出身で元阪神のロベルト・スアレス投手から日本の野球を教わるなど、情報を集めてきた。心強い味方もいた。パドレス時代、コーチ留学をしていた中嶋聡監督とは面識があり、現在、オリックスの巡回ヘッドコーチを務める中垣征一郎コーチからはトレーニングの指導を受けた間柄。首脳陣と信頼関係で結ばれているのは、初めての環境で戸惑うことが多い助っ人の中では、有利なことだ。

アニメを通して、日本の文化に興味を持ってきた。「ドラゴンボール」や「NARUTO」を見て育ち、1番好きなアニメは「キャプテン翼」だという。ラーメン好きでも知られる。ロッテ戦登板のため移動で訪れた東京で、1番に探したのは「天然とんこつラーメン専門店・一蘭」。こちらも事前に情報を収集していたそうだ。「怪我なくシーズンを戦い抜き、自分のピッチングでチームを助けたい」。リーグ4連覇に向け、役目は心得ている。(北野正樹 / Masaki Kitano)

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