「冨永愛の伝統to未来」【インタビュー】――「美しく楽しい伝統文化・工芸の世界を伝えていきたい」

世界的トップモデルであり、日本の伝統文化に造詣が深い冨永愛が、日本全国を訪ねてその土地に根づく文化を紹介する「冨永愛の伝to未来」(BS日テレ・BS日テレ4K)。かけがえのない日本の文化を未来につなげていきたいという思いから、ライフスタイルの変化や後継者不足などにより、伝統文化が直面している現状にも向き合い、現代社会に対応した新たな試みや今後の展望も探るこの番組。また、読売新聞グループの伝統文化振興プロジェクト「Action!伝統文化」と連携し、伝統文化の魅力発信、支援も行っていく。冨永に伝統文化や番組の見どころなどについて考えていること聞いた。

――伝統文化に造詣が深いですが、伝統文化に興味を持ったきっかけを教えてください。

「海外に行った時に、自分と同じくらいの10代のモデルたちが、自分の国のことをよく知っているのに衝撃を受けたことがきっかけです。みんなが自国の政治の話、魅力といったことを議論できるくらい知っていて、片や私は日本のことを全然知らなくて(苦笑)、日本文化や伝統を学ばなくてはと思うようになりました」

――海外で活動をしていると、今お話されたように日本人であることを強く意識する場面があるんですね。

「そうですね。やはりその国の人の特徴があって、日本人なら礼儀正しいとか、人を敬う気持ちが強いとかですが、それが時と場合によっては自己主張をしないというよくないイメージになることもありました。最初の頃にあまり自己主張ができなくて、そういう部分は日本人だなって思った時はあります」

――そういう自己主張をできない部分をどう乗り越えたのですか?

「『郷に入っては郷に従え』ではないですが、周りの人たちがどういう自己主張の仕方をしているのかを見て、まねしてみるところから入りました。モデルは自己プロデュースしていく職業なのもあって、人を敬う気持ちが強い日本人のよさをなくさず、でも自己主張はできるようになっていったと思います」

――日本文化や伝統を学ばなくてはと思って、どのようなことから学び始めたのですか?

「日本に帰ってきて、最初は着付けを習い始めました。そこから反物の美しさ、その美しさを生み出す染付や友禅の技術など、世界が広がり、息子の七五三の羽織を自分で作ろうと友禅作家さんに会いに行ったり、学んだりと趣味でやっていました。その後、さらに器などいろいろな伝統工芸にも興味が広がりました。そうした経験を経て伝統文化を発信する番組を持つことが目標になりました」

――ちなみに冨永さんが作った友禅の羽織を着た息子さんの反応はいかがでしたか?

「七五三なので喜んでいましたけど、たぶんその意味は分かっていなかったでしょうね(笑)。大人になってから分かってくれると思います」

――伝統のように、いいものを受け継ぐという意味で、冨永家で大事にしていることや考えはあるのでしょうか?

「まず私が母子家庭で育ったのもあって、母から電気、水、ガスといった資源を大切に使うことを非常によく言われて育ちました。そこからものを大切にすることを学んだり、さらに広がっていきました。やはり資源やものを大切にすることは伝えていますし、そこから環境などにも考えが及んでいってほしいですね」

――今回、伝統文化を発信する番組を持つ目標が実現し、「染の王国 新宿編」(第1~5回)の収録を終えた感想を聞かせてください。

「こういう番組をやりたいという話は10年ほど前からしていて、ついに目標がかなったのがうれしいです。スタッフさんの情熱を感じますし、すてきな番組になると確信しています」

――「染の王国 新宿編」では、実際に作業を体験したり、江戸小紋や日本三大友禅の若手作家、職人の方たちと対談する場面もありました。

「作業は実際には難しいですが職人技を体感できる貴重な機会ですし、度胸は人一倍あるので(笑)、挑戦し続けたいです。また、若手作家や職人さんと話していると、すごくパワフルでエネルギーを感じます。伝統文化、工芸の領域は、いずれはなくなってしまうのではという心配もあるのですが、皆さんと話していると大丈夫だという希望が見えますね」

――今後、番組で体験したい伝統文化はありますか?

「能登半島地震で被害を受けた伝統工芸です。輪島塗をはじめ、北陸地方にはたくさんの伝統工芸があるので、しっかり伝えていきたいです」

――「伝統to未来」の番組名にもある通り、番組をどのように未来につなげたいですか?

「伝統文化・工芸というと難しそうに聞こえるかもしれませんが、美しく楽しい世界だと感じています。この番組を通してそのことを伝えていきたいですし、TVerで配信もあるので若い方にも伝統文化の美しさ、楽しさ、カッコよさに触れてもらえればと思います。そして、個人的な希望ですが、いつかこの番組が飛行機の中でも見られるようにしてもらいたいです。そうすれば外国の方の目にも触れて、日本だけではない広がりが出せると思います」

【プロフィール】

冨永愛(とみなが あい)
神奈川県出身。B型。17歳でNYコレクションでデビューし、以後、世界の第一線でトップモデルとして活動する。テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティーなど、さまざまな分野にも精力的に挑戦し、ドラマ「グランメゾン東京」(TBS系)、「大奥」(NHK)などに出演し、俳優としても活躍。チャリティー・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動にも取り組む。

【番組情報】

「冨永愛の伝統to未来」
BS日テレ・BS日テレ4K
水曜 午後10:00〜10:27

5月1日は「染の王国 新宿④『東京手描友禅』」を放送。染物の町である東京・新宿で江戸小紋と並んで有名な「東京手描友禅」。冨永愛はまるで絵画のような友禅染めの謎を解くべく、「小倉染芸」の3代目・小倉隆氏のアトリエを訪れ、その繊細な染の世界に迫る。さらに、日本三大友禅と言われる京友禅・加賀友禅・東京手描友禅の将来を背負う作家と共に、それぞれの特徴や違いについてトーク。また、能登半島地震で被災した伝統文化を支える「北陸の伝統を未来へ紡ぐ」では、石川県珠洲市の伝統工芸「珠洲焼」の現状などが明らかになる。

取材・文/山木敦 撮影/尾崎篤志 ヘアメーク/美舟(SIGNO) スタイリング/SOHEI YOSHIDA(SIGNO)

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