「ヤーコン」(5月1日)

 アンデス・ポテトとも言う。「ヤーコン」は歯応えが心地良く、ナシのように甘い。日本では1980年代に広まった。抗アレルギー作用がある。目のかゆみ、鼻水といった花粉による症状を抑える効果があるとして近年、人気が高まっている▼飯舘村長泥地区では2000年代に入り、地域おこしを目指して栽培が始まった。夏でも冷涼な気候と水はけの良い大地が品質を高める。生産団体はヤーコンうどん、干し芋、あめ玉、焼酎などを次々と手がけ、評判は上々だったという。本格的に売り出そうとした矢先、原発事故が夢を打ち砕いた▼長泥地区の一部で避難指示が解除され、きょう1日で1年になる。災厄を乗り越え、一部の野菜の試験栽培が始まっている。安全を確認できれば、ヤーコンもいずれは出荷できる。かつての生産農家は、途絶えた夢を紡ぎ直そうと前を向く▼長泥地区の開拓は江戸時代に始まったとされる。先人の労苦の結晶が畑に養分として染み込む。手間を惜しまず物事を丁寧に進める「までい」の精神が住民に根付いている。風雪に耐えた土と人の遺伝子は、たくましく古里の明日を耕す。海を渡り、子孫を広げた南米発の「甘藷[かんしょ]」のように。<2024.5・1>

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