英語学習の重要性がますます高まっている昨今。帰国生たちが、海外で鍛えた英語力を武器に入学試験で有利に戦うのを見て、わが子を海外インターナショナルスクールに通わせ、英語力をつけようとする親御さんは少なくありません。今回は、日本人の子どもたちの留学事情を見ていきます。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。
加速度的に少子化が進展する日本ですが、子どもへの教育熱は従来にないほど高まっています。なかでも英語力は重要視されており、英語力を伸ばすことを目的に、小中学生のうちから海外留学をする家庭も珍しくありません。今回は、マレーシアの日本人の教育事情に詳しい、中学受験・高校受験塾、早稲田アカデミークアラルンプール校校長の齋藤慶介先生に、小中学生の海外留学の実情についてお話を伺いました。
マレーシアに「母子留学」が多い理由
小峰:齋藤先生は海外での受験指導が長いとうかがいましたが、これまでのご経歴を簡単に教えてください。
齋藤:私は、日本国内の早稲田アカデミーで受験指導をしてきたあと、2012年から10年間、早稲田アカデミーシンガポール校で教えていました。2022年からマレーシアのクアラルンプール校の校長をしています。
早稲田アカデミークアラルンプール校校長 齋藤慶介先生
小峰:シンガポールと比較した、マレーシアの特徴的なところをお教えください。
齋藤:特徴的なのは「母子留学」が多いということだと思います。母子留学とは、父親は日本で仕事をし、母親と子どもだけでクアラルンプールに来てインターナショナルスクールに通う、という留学のかたちです。
小峰:マレーシアで母子留学が多いのは、学校に通っている子の保護者1名がガーディアンビザ(保護者ビザ)を取れるからでしょうか?
齋藤:それもあると思います。また、シンガポールの物価に比べマレーシアの物価が手ごろなのも理由でしょう。
小峰:母子留学は、何年生くらいが多いのでしょうか?
齋藤:私が見ている限りでは、小学校低学年でマレーシアに来て、小学校高学年になったら日本に帰国して中学受験に備える、という親子が多いようです。
小学生からインターナショナルスクールなら、小4で英検準1級も
小峰:小学校低学年からの母子留学が多いのはなぜでしょう?
齋藤:小さいころから英語を学んだほうが、英語を身につけやすいからだと思います。幼少期からインターナショナルスクールに通うと、小学4年生くらいで英検準1級を取れる子もいます。小学2、3年からインターナショナルスクールに通い始めると、小学生の間に英検2級くらいという印象です。小学生で英検2級でも、十分すごいのですが…。
小峰:のちのちの受験で効果は大きいでしょうか?
齋藤:高校3年生で英検準1級を取れている子の場合、旧帝大・早慶など一流大学の入試であっても、ほかの生徒より相当有利になります。まして、小学生の間に準1級であれば圧倒的に有利です。
早稲田アカデミークアラルンプール校のある、クアラルンプールの高級住宅地、モントキアラ
「インターナショナルスクール→中学受験」ルートの注意点
小峰:クアラルンプールには、中学受験をされる日本人家庭が多いのでしょうか?
齋藤:日本に帰国されるタイミングによるとは思いますが、中学受験されるご家庭が多いです。とくに、インターナショナルスクールに通う生徒さんの場合、日本に帰国される方の大半が中学受験をされる印象です。
小峰:中学受験をする場合、「一般入試」を目指す子が多いのでしょうか? それとも「帰国生入試」を目指す子が多いのでしょうか?
齋藤:まず、帰国生入試は、受験できる基準があり、その基準を満たさないと受験資格がありません。「海外在住2年で帰国後2年以内」などと定められている例が多いようですが、学校によって異なり、同じ学校でも年によって変わることがあります。
小峰:母子留学のお子さんも、帰国生入試を受験できるのでしょうか?
齋藤:海外在住が親の仕事の都合であることを帰国生入試の要件としている学校もあり、母子留学の子は受験できない場合もあるかもしれません。帰国生入試の基準は学校によって異なるうえ、流動的なので、注意が必要です。
帰国生入試の特徴…必ずしも「偏差値順」では決まらない!?
小峰:帰国生入試の特徴はどのあたりにありますか?
齋藤:一般入試だと、模擬試験などの偏差値順に決まっていくことが多いですが、帰国生入試では、必ずしも偏差値順に決まるわけではなく、逆転もあります。それだけに、帰国生入試の要件を満たす限りは、帰国生入試を目指す生徒が多いです。
小峰:帰国生入試は大きく分けて、「英語1科目」の入試と「英語・算数・国語の3科目」の入試があると思います。どちらをお勧めしていますか?
齋藤:英語1科目入試だと、一般入試を受けるチャンスはなくなってしまいます。また、英語1科目入試だけだった学校でも、英語・算数・国語の3科目入試を導入するところが増えている印象です。できる限り、最初から英語1科目に絞るのではなく、英語・算数・国語の3科目を勉強してほしいと思います。
早慶は「高校受験」の門戸が意外に広い印象
小峰:高校から帰国されるお子さんの場合、どういった学校をお勧めしていますか?
齋藤:中学がなく高校・大学だけあるICUは、帰国生が生き生きしやすい環境でお勧めです。
小峰:それはいいですね。
齋藤:また、早慶の付属校や中央大学の付属校など、大学の付属校を受験する生徒さんも多いです。とくに早慶の場合、中学から入るのも、大学から入るのも難しいのですが、意外に高校からの門戸が広い印象があります。
小峰:なるほど…。ほかにお勧めはありますか?
齋藤:これは「高校から」に限った話ではないのですが、広尾学園は編入での受け入れを広く認めているようです。広尾学園も、帰国生が生き生きしやすい環境だと思います。
教育現場から、帰国生へのアドバイス
小峰:早稲田アカデミー海外校は、英語を身につけて帰国生入試を受けられる生徒さんも、算数・国語・理科・社会の4教科入試でもトップ校に合格できる力のある生徒さんもいらっしゃる環境なのですね。試験の強者という印象です。
齋藤:帰国生にも弱みがあります。海外で勉強していると、何百人の子が一斉に試験を受ける環境を経験していませんから、本試験の会場で緊張して実力を発揮できないこともあります。ですから、少し早めに帰国して肩慣らしの入試を受けてから本命校を受けるのがよいでしょう。
小峰:今日は、ありがとうございました。
小峰 孝史
OWL Investments
マネージングディレクター・弁護士