日本初の女性、女子高生、ダークヒーロー… 三者三様の「弁護士」が 躍動する4月法曹ドラマを楽しむための基礎知識

ドラマ通弁護士も注目の「虎に翼」は朝から勢いをつけてくれる(写真提供:NHK)

4月スタートの地上波テレビドラマで3本のリーガル系が並んだ。弁護士をテーマにしたドラマは、過去にも同じクールで一気に3本揃ったことがあり、ドラマでは人気のテーマだ。そこで弁護士JPニュースは、ゴールデンウィーク(GW)からでも間に合う、リーガルドラマを存分に楽しむポイントをドラマ通の弁護士に聞いた。

日本初の女性弁護士、女子高生、”ダーク”な弁護士。4月のリーガルドラマでは三者三様の異なるタイプの弁護士が主人公を務める。すでに4月1日にスタートしたNHKの朝の連続テレビ小説「虎に翼」は高い評価を受け、視聴者をくぎ付けにしている。

「どれもこれから見るところですが、やはり初の女性弁護士を描いた『虎に翼』は特に興味がありますね。いまでも2割程度といわれる女性弁護士ですが、その当時はもっと少なかったわけで、どんな苦労があったのか。その辺りの描写を見ながら、ストーリーを楽しみたいですね」

こう興味津々に明かしたのは辻󠄀本奈保弁護士。弁護士になる前から、海外モノを中心に多くのリーガルドラマをみてきたドラマ通だ。

まず抑えるべきは「法曹三者」の関係性

弁護士になってからは、純粋に楽しむ一方で「弁護士が世間からどんなみられ方をしているのか、ドラマでの表現などからチェックしています」と、辻󠄀本弁護士は職業柄ゆえの視聴習慣を明かす。

そんな辻󠄀本弁護士に業界を熟知する立場だからこその、一般視聴者がリーガルドラマをより楽しむ上で、どんな点を意識すればいいのかを聞いた。

「それぞれの関係性や立場を理解しておくと、より深くドラマにのめり込めると思います。それぞれというのは弁護士(弁護人)、検察官、裁判官の法曹三者と呼ばれる人たちの関係性です。刑事事件では弁護士と検察官が対立する構図になり、裁判官は中立に事件を裁く立ち位置になります。知らなくてもドラマは楽しめると思いますが、このことを知っていればモヤモヤすることなく各シーンを堪能できるでしょう」

弁護士ドラマではVS検察の構図で描かれることが多い

事件が起これば警察官が捜査をし、犯人を捕まえる。その後、取り調べを行う。弁護士が登場。弁護士は被疑者や被告人の減刑や無罪に尽力するが、その相手は検察だ。構図としては「公益の代表者VS被疑者・被告人の代理人」となる。

「例えば弁護の依頼者が凶悪犯だった場合、視聴者の方は『なんであんな悪人の弁護をするんだ』と思うかもしれません。弁護士をつけることは憲法上の権利です。法曹三者の関係性を押さえておくと、弁護士は依頼者の権利を守るために検察と対峙する立場とわかっています。ですから、その弁護ぶりにスムースに入り込めるはずです」と辻󠄀本弁護士はアドバイスする。

例えば、3本のドラマのうち「アンチヒーロー」は、”100%有罪”でも無罪を勝ち取るというきわどい設定の弁護士だ。だからこそ、弁護士と検察の対立構図を全体として理解していれば、同ドラマの主人公の弁護ぶり、検察側との駆け引きなどにより集中でき、型破りな弁護士像を存分に堪能できる。

弁護士の私生活にも影響する独自の規程がある

リーガルドラマでは当然、弁護士の私生活シーンも登場する。この点について辻󠄀本弁護士は、「実は弁護士には厳しいルールがあるんです」と打ち明ける。そのルールとは「弁護士職務基本規程」だ。

日本弁護士連合会(日弁連)のウェブサイトによると、弁護士は「その使命である人権擁護と社会正義を実現するためには、いかなる権力にも屈することなく、自由独立でなければなりません。そのため、日弁連には、完全な自治権が認められています」として、その指導監督を日弁連と弁護士会のみが行っており、いずれも弁護士は強制加入となっている。それを実践するための”ルールブック”が同規程になる。

同規程は第一章の基本倫理に始まり、第十三章まである。例えば第一章には「弁護士は名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める」(第六条)、「弁護士はその使命にふさわしい公益活動に参加し、実践するよう努める」(第八条)と記載されている。

第二章の一般規律には「詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない」(第十四条)とある。この辺りは、「アンチヒーロー」で主人公の弁護士がどこまで攻めているのかの指標として念頭に入れておくと、その破天荒ぶり、ダークぶりをよりリアルに感じられるかもしれない。

2つある事件の種類をおさえることで上がる解像度

「事件の種類についても理解しておくと状況理解の解像度が上がるでしょう」と辻󠄀本弁護士は助言する。事件の種類とは、「刑事事件」と「民事事件」だ。

「ドラマで取り上げられる法廷のシーンでは、口頭でのやり取りが劇的に描かれていたりしますが、あれは主に刑事事件のケースです。民事事件では書面でのやり取りが中心で、発言するとしても『書面のとおりです』ということがほとんどです」(辻󠄀本弁護士)

現実でも16歳で司法試験に合格した高校生が存在する

また、『JKと六法全書』では主人公が史上最年少で司法試験に一発合格した現役女子高校生という設定。ドラマらしい設定だが、現実では今年2月に司法試験予備試験の合格者として、16歳(2023年末時点)が史上最年少で合格したことを法務省が発表している。

予備試験は、合格すれば法科大学院を修了していなくても司法試験の受験資格が得られ、実力さえあれば弁護士になれる試験制度だ。実際に弁護士として活動するには、司法修習などを経る必要があるが、女子高生弁護士が、決して荒唐無稽な設定でないと考えれば、ドラマの楽しみ方も変わるだろう。

最後に、辻󠄀本弁護士に、お気に入りドラマトップ3を教えてもらった。

「『SUITS/スーツ』『The Good Wife/グッドワイフ』『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』です。すべて海外ドラマですが、シリーズもので深く描かれているのでひき込まれます。もちろん誇張はありますが、裁判だけでない弁護士の仕事の実状がしっかりわかるうえにストーリーも面白い。みれば弁護士という仕事への興味もわくのではないでしょうか」

いずれも個性的な弁護士が主役を務め、見どころ満載だ

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