<5>監視の目 おびえる日々 受給者の苦難 希望って何ですか

生活保護の申請書。崇子さんは保護から抜け出したいという思いで激務を続けている=4月下旬

 「役所の車を見かけると、びくびくするんです」

 県央地区に住む30代の母親崇子(たかこ)さん=仮名。今月中旬、暮らしぶりについて尋ねると、辺りをうかがうように声を潜めた。

 生活保護を受給しながら、小中学生の子ども2人を育てるひとり親。障害のある子どもの送迎のために軽乗用車の所持が認められている。しかし車に乗るとどうしても、生活保護担当職員に監視されているような気がしてしまうという。

 生活保護を受ける場合、資産価値のある車の所持は原則認められないとされるが、例外がある。障害などで車がないと生活に支障が出る人や就労に必要な人、公共交通機関のアクセスが悪い地域に住む人などは認められる場合がある。

 一方で、用途は極めて制限されている。崇子さんは、ケースワーカーから「買い物には使わないで」と言われたことがある。車が自分の物だとは到底思えないのが現状だ。

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 生活保護の実務に詳しい服部有(はっとりゆう)弁護士は「生活保護を受ける場合は、自分の能力や資産を活用していったけれども、最低限度まで届かない場合に、足りない分を支給しましょうという『補足性の原理』が適用される」と解説する。

 10年近く前に離婚した崇子さんはその後、生活保護を受けるようになった。受給申請した当時は適応障害の症状がきつく、お酒を飲まないと寝られなかった。仕事もできない状態で、所持金はわずか300円ほどしかなかった。

 「生保を受けるのは嫌だなと思ったけど、生計を立てないといけない」

 幼い子どもを連れて福祉事務所へ行き、泣きながら状況を説明して保護にたどり着いた。

 現在はパートとして働く。最低生活費と呼ばれる基準から、月15万円前後の給与と児童扶養手当などの収入を差し引いた2、3万円を、保護費として受け取っている。

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 昨年秋、崇子さんは過労から自宅で意識を失って倒れ、頭などを大けがした。

 現在はその時以上に勤務時間を増やしている。日曜もほとんど休まず働き、7、8日間の連続勤務が常態化。日中から深夜まで働くこともある。

 「補足性の原理」からすれば、仮に今より就労収入が少なくても、保護費で補われることで家計全体の収入は変わらない。それでも、身を削るようにして働いている。なぜか。

 「すごく後ろめたいから」

 生活保護の受給は誰にも保障された権利。それなのに、許された範囲で車に乗っていても見張られている気持ちになる。受給者に社会全体から「白い目」が向けられているように感じている。

 「受け取る保護費の額を少しでも減らしたい。早く抜け出したい」

 この思いが、崇子さんを追い込んでいる。

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