「どうにか時間を稼いでくれ…!」命がけの時間稼ぎを必要とする「一撃必殺技」の魅力

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毎回「どんな技を使うのかな?」と期待が膨らむ、バトル漫画には欠かせない数々の「必殺技」。なかでも魅力的なのが、発動前から圧倒的な破壊力が約束されており、読者の期待が最高潮の場面で描かれる“仲間の時間稼ぎ”を必要とする「一撃必殺技」である。

今回は、仲間の犠牲の果てに描かれた、爽快感溢れる「一撃必殺技」を、その魅力とともにいくつか紹介しよう。

■サイヤ人すら震えあがる悪魔的貫通力! 『ドラゴンボール』の「魔貫光殺砲」

まずは、鳥山明さんの名作バトル漫画『ドラゴンボール』より、ピッコロの「魔貫光殺砲」を紹介しよう。

突如襲来した主人公・孫悟空の兄、ラディッツとの戦闘で苦戦を強いられる悟空とピッコロ。ピッコロは技の準備のために時間稼ぎを悟空に頼み、額に手を当てながら指先に気を集めることに集中しはじめるのである。

その間、悟空が戦闘を一手に引き受けるも格上のラディッツにはなす術もなく殴られ続け、「かめはめ波」でさえ受け止められてしまう。そこへ満を持して放たれた「魔貫光殺砲」。ビームのようにラディッツに向けてまっすぐに走り、一目見ただけでその貫通力の高さが伺えるものだった。

ちなみにこのシーン。原作漫画では「魔貫光殺砲」の演出がページいっぱいに描かれており、紙面を横向きにすることでピッコロとラディッツの遠近感と技の派手さを味わうことができる。当時、この演出のカッコ良さにも興奮したことを覚えている。

一射目はあえなく避けられてしまうのだが、ラディッツを羽交い絞めにした悟空ごと貫いた二射目は『ドラゴンボール』の名シーンの一つとなった。

時間を稼いでもらっている間、気をためる独特のポーズと、「またせたな………」というピッコロのセリフは、多くの子どもたちが真似したはずだ。「自分の指からも出るかもしれない!」と思わず胸が高鳴った、一撃必殺技の代表と言っても過言ではないだろう。

■風林火山を体現した怒りの両断!『トリコ』の「居合 竜王一刀両断」

続いてはグルメバトル漫画『トリコ』(島袋光年さん)より、グルメヤクザのマッチが放った「居合 竜王一刀両断」を紹介しよう。

アイスヘルにて美食會のバリーガモンと交戦になった際、マッチらグルメヤクザはバリーガモンの素早さとその防具の頑強さによって防戦一方になってしまう。居合の達人であるマッチは体の力を抜く“脱力”をおこなうことで技の威力とスピードを向上させるが、完全な“脱力”を完成させるには3分間のあいだ無防備状態となってしまうのだ。

「ほんの少しの間こらえてくれお前ら…!!」と部下に時間稼ぎを託し、“脱力”に入るマッチ。圧倒的な力量差に部下たちが蹂躙される姿を見て怒りのマグマを煮えたぎらせるが、マッチはただ静かにかつ冷静に“脱力”を続けるのだ。

部下を生ゴミだと罵られ、その怒りが最高潮に達したとき、同時に完璧な脱力が完成した。そして黙して静かに刀に手をかけると、突進してきたバリーガモンに対して鬼のごとき噴怒の表情を見せ、瞬く間にその固い鎧ごと切り裂く居合切りを見せるのである。

この瞬間、背景にはマッチの怒りの度合いを表現したような噴火する火山が描かれており、バリーガモンの背後に回り込んで納刀するマッチの躍動感まで描いたそのド派手な見開きは、多くの読者に強烈な印象を与えたことだろう。

“脱力”前後の振り幅をもって威力を向上させる「居合 竜王一刀両断」。マッチの怒りも相まって、その静寂が一変する爽快感からつい何度も見返したくなってしまう、ほかに類を見ない一撃必殺技である。

■一国の王が拳から放つ攻城砲! 『ONE PIECE』の「キング・パンチ」

最後は『ONE PIECE』(尾田栄一郎さん)より、“戦う王”の異名を持つエリザベローII世の「キング・パンチ」を紹介しよう。

プロデンス王国国王であるエリザベローは、ドレスローザのコロシアムBブロックにて初登場する。ともに出場した軍師・ダガマ曰く、エリザベローは一撃で要塞に風穴を開ける威力を持つ「キング・パンチ」を持っており、命中さえすれば“四皇”にも致命傷を与えることが可能だと言われていた。

そんな強力な「キング・パンチ」も発動には条件があった。一発ごとに、一時間の集中とウォーミングアップを必要とするのだ。そのため、エリザベローは試合開始時点ですでに汗をかくほどのシャドーボクシングをしており、ダガマ率いる共闘者たちが出場者の頭数を減らすまでその体を温め続けていた。

波乱とともにエリザベローを守る陣形が崩れていくと「むき出しの刃程危険なものはない……!!」と、不敵な笑みを浮かべる。不穏な空気を察した観客たちがパンチの射線上から逃げ出すと、猛烈な爆風とともに周囲の出場者が吹き飛んでゆくのである。

Bブロックはエリザベローの勝利と思われた矢先、同ブロックに出場していたバルトロメオの“バリバリの実”の能力が真価を発揮したことで、結果としては敗北してしまった。

悪魔の実に頼ることなく、己の拳一つが“四皇”の脅威となりうるエリザベローの「キング・パンチ」には、いわゆるロマン砲としての魅力がある。

作中ではその後、ゾロとピーカの戦いにて発生した国を覆うほどの瓦礫を一撃でお掃除する際に役立った。しかし、「キング・パンチ」のロマンが忘れられない筆者としては、ますますの盛り上がりを見せる今後の物語で再び敵に対して放たれる、劇的な「キング・パンチ」を期待したいところである。

読者のハードルが上がっていながらも毎回得られるその爽快感は、仲間の犠牲という、ある種の悔しさの果てに描かれているからこそ得られるものではないだろうか。

仲間が時間を稼ぎはじめた時点で先の展開はある程度予想できるのに、なぜかいつも胸が高鳴ってしまう「一撃必殺技」の演出には今後も注目していきたい。

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