藤井道人監督×道枝駿佑 映画界に生まれた新たな絆「声をかけてくれたらどんなことでも手伝います」

すべての写真(8)を見る

「彼はピュアで真面目で、センスもある」ーー藤井道人監督がそう語る横で、俳優・道枝駿佑は恐縮そうに、しかし嬉しそうにはにかむ。

5月3日に公開を控える、藤井監督の最新映画『青春18×2 君へと続く道』で、主人公・ジミー(シュー・グァンハン)が旅の道中で出会うバックパッカーの青年・幸次を、道枝が演じた。藤井監督にとってはラブコールが実った形となり、道枝にとっては藤井監督初の国際プロジェクトに参加が叶った形となる。

まずは、藤井監督から見た俳優・道枝駿佑の魅力について言葉にしてもらった。

道枝駿佑は、3つの要素がバランス良く揃った俳優

――藤井監督の作品に道枝さんが出演されるのは、今作が初めてですね。オファーのきっかけは何だったのでしょうか?

藤井道人監督(以下、藤井) もともと、みっちーは存在としてものすごく魅力的だな、と思っていたんです。周りの誰に聞いても、若手のなかで芝居が良いのは道枝くんだ、と名前が挙がるし、僕自身『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022)などを観ていて、一緒に映画づくりをしてみたいという気持ちが強くなっていきました。

「どんな人なんだろう?」と勝手に不安に思っていたんです。でも、彼はすごくピュアな人。基本的に「純度」がないと映画は撮れないと僕は思っているので、一度お話させてもらって、彼となら一緒に映画をつくっていけるな、と確信しました。

道枝駿佑(以下、道枝) 嬉しいです、ありがとうございます。

――道枝さんが今作で演じられたのは、バックパッカーの青年・幸次という役柄です。36歳になったジミーが日本を旅する道中で、たまたま出会うキャラクターですが、藤井監督にとって彼はどういった立ち位置にいますか?

藤井 もし僕がいま36歳で旅に出たとしたら、道中でどんな青年に出会いたいだろう? って考えたんです。きっとジミーは、旅に出られなかった18歳の頃を思い返して、後悔を抱えていたはず。当時、勇気を出して旅に出ていたら、また違った未来が待っていたかもしれない……。

そう思っているときに、道枝くんが演じた幸次のような、底抜けに明るい青年に出会えたとしたら?

きっとジミーは「日本で初めての友達」が欲しかったんです。短い間でも一緒に過ごすうちに、自分の人生を肯定できるような友達。幸次には幸次の旅があり、ジミーにはジミーの旅がある、そう思えるような友達。

そうなると幸次は、明るくてピュアな心を持った青年じゃなくちゃいけません。イメージにぴったりハマるのは道枝くんだったので、ダメもとでオファーしました。

――道枝さん、ベタ褒めですね。

道枝 ずっとラブコールを送ってくださっていたのを知っていたので、オファーをいただいたときは、とっても嬉しかったです。撮影が始まる前も、藤井監督とお食事に行かせてもらって、たくさんお話しさせていただきました。藤井監督にとって初の国際プロジェクトに参加させてもらう意味でも、すごく光栄な機会にご一緒できて、最高にありがたいです。

――藤井監督は、実際に道枝さんが幸次を演じられているのを見て、あらためて俳優としての魅力はどんなところにあると思われますか?

藤井 たくさんありすぎるんですけど、やはり彼はピュアだし、真面目なんです。そして、さらにセンスまである。この「ピュア」「真面目さ」「センス」の3つがバランス良く備わっている俳優は稀有です。

そして何よりも僕は、彼の作品に対する向き合い方を尊敬しています。僕は彼よりも15〜6歳上だけど、年齢が離れていても関係なく尊敬できる。今回はすごく短い撮影期間だったけれど、もしこの先も力を貸してくれたら、と思っています。

台湾の人にとって、特別な雪景色を

――本作は藤井監督にとって初の国際プロジェクトです。あらためて、この作品に込めた思いを教えていただけますか。

藤井 僕自身のルーツが台湾にあることも大きいんですが、やっぱり20代からずっと日本で頑張ってきたけれど、外の世界も見てみたいっていう時期がずっとあったんです。台湾に留学もしたり、何度も何度も足しげく通ったりして、いろいろな人と出会い、今回のチャンスをいただきました。無事に台湾で公開となったことに、心から安堵しています。

みっちーはもちろん、台湾の俳優であるシュー・グァンハンさん、清原果耶さんなど、素晴らしい俳優に出演してもらえました。映画の撮影にはつらいことが付きものなんですけど、今回はほぼゼロに近いんですよ。とても楽しい撮影でした。

――道枝さん演じる幸次と、グァンハンさんが演じるジミーが出会う雪景色のシーンが、とても印象的です。

藤井 実は僕、すごく雪が苦手なんです。

道枝 ええ!? そうなんですか?

藤井 そうなの。前に雪で滑って骨折しちゃったことがあって。なのにどうして、雪景色が印象深い映画を撮ったかというと……ちょっと、これを見てください(藤井監督がスマートフォンを取り出す)。今回の企画書のうちの一枚なんですが。

――まさに綺麗な、一面の雪景色ですね。

道枝 本当だ! 綺麗ですね。

藤井 たぶん、みっちーも初めて見るよね。最初に「この映画を撮ってほしいんです」って、この企画書を見せてもらったんです。台湾って、ほぼ雪が降らないんですよ。彼らにとって、雪景色そのものが特別な風景なんです。

それこそ台湾に住む方たちも、2019年以降のコロナ禍の影響で、会いたい人に会えない、行きたい場所に行けないもどかしさを感じていたはず。それは僕たちも一緒です。一生懸命につくってもらった企画書を見ているうちに「この映画をつくることで、彼らの特別な風景を形にしたい、叶えてあげたい」という気持ちが強くなっていきました。

二人で作り上げた幸次のキャラクター

―― 一枚の雪景色から始まった、特別な思い入れのある作品なんですね。道枝さんは、初めて藤井組の撮影に参加してみて、いかがでしたか。

道枝 藤井組は手を抜かない、妥協しないチームだと聞いていて、実際に撮影前の食事会でも「藤井組は大変だぞ」と言われる場面もあったのですが……。僕にとっては、和気あいあいとしながらも、しっかり作品づくりに向き合えた実感がある現場でした。

もちろん緊張もしました。でも、僕が演じさせてもらった幸次が、僕の数倍明るいキャラクターだったので、楽しくお芝居させてもらった記憶しかないです。

――幸次というキャラクター像は、どのように作り上げていったんですか?

藤井 「幸次ってこういう役だよね、こういう性格だよね」と話し合いました。現場で打ち合わせしながらキャラクターを作り上げていくっていう過程を、みっちーと挑戦してみたかったんです。

ずっと彼は、主役として作品を背負わなきゃならない立場が多かったと思うけれど、今回は「もっと自由でもいいし、映画の現場って楽しいんだよ」ってことを伝えたかった。みっちーだからこそ、あんなに良い幸次になってるんだと思います。僕も、まるで自分の功績かのように周りに自慢してるんですよ。

そんなみっちーは、幸次を演じてみてどうだった?

道枝 自分で言うのも変かもしれないんですけど、幸次はすごくかわいらしい青年で、見ていて愛くるしさを感じました。この物語において、バトンを繋いでいくような位置にいるキャラクターだと思うので、藤井監督の作品にそういったポジションで出演できること自体、あらためて嬉しく感じるような役柄だな、と。

――さきほど、幸次は自分の数倍明るいキャラクターだと仰っていましたが、ご自身のなかにある明るさを引き出す形で演じられたのでしょうか?

道枝 そうですね……たとえば、雪原を走っていったり雪合戦をしたりするシーンでは、ほぼアドリブで、はっちゃけながら自由にやらせてもらいました。

親しい人といるときの自分に、幸次の根っからの明るさも足しつつ、明るく元気に一生懸命やろう! と思いながら演じていました。それが映像にも表れていたらいいな、と思います。

芝居をすることの楽しさを教わった現場

――ジミーが幸次と出会うのは、とある場所へ向かう電車のなかですよね。途中で電車を降りて雪合戦をするシーンなどもありますが、撮影現場で大変だったことは何ですか?

藤井 もう、とにかく寒かったよね! 撮影中に、みっちーの靴のなかに雪が浸水してきて。

道枝 ああ、そうでしたね、雪合戦のシーンで!

藤井 ただでさえ寒いのに、あれはかわいそうだった。申しわけない。あとは、電車でトンネルを抜けるシーンがあるんですけど、ちゃんと本物の電車に乗って撮影しているんですよ。トンネルに入ってから抜ける時間も、秒単位で調整しながら撮影したよね。「トンネルを抜けるまであと10秒です!」みたいな。

道枝 ホームに停まっている間に撮影しなきゃならないシーンもあって、発車するまでの数分で撮り切らなきゃいけなかったんですよね。時間制限があるなかで撮影するのは、すごく新鮮でした。

藤井 そのシーンで言うと、びっくりしたことがあるんです。ジミー役のグァンハンに「印象に残っているシーンは?」って訊いたら、みっちーとの電車のシーンだ、と。幸次とジミーの二人がホームで別れるシーンで、お互いに「バイバイ」って言い合ってすぐに電車の扉が閉まって、そのまま発車して……。あのあと、そのままグァンハンと会ってないんでしょ?

道枝 そうです。そのまま「おつかれさまです!」でした。

藤井 そりゃ、印象に残るよね。本当に電車は走り去っていって、そのあとも撮影は続いていく。そんなふうに、ドキュメンタリー的に撮っていくことも多かったです。

――その瞬間でしか捉えられない感情を映すために、効果的な手法のように感じます。道枝さんは、今回の撮影を通して、藤井監督から学んだことは何ですか?

道枝 作品に向かう楽しさ、お芝居をすることの楽しさについて、あらためて実感できる現場でした。映画づくりにおいて、やっぱり楽しいのが一番だな、と。もちろん大変なことも苦しいこともありますけど、そんな状況すらも楽しむんだ! ってことを教えてもらいました。

電車に乗りながら撮影するのも、言葉の壁がありながらも、グァンハンさんとコミュニケーションをとりながら役をつくっていくのも、僕にとっては初めての経験が詰まった現場で。正直、撮影前は「どうしたらいいんだろう!?」って思うことも多かったんですけど、監督はもちろんスタッフの方もフォローしてくださったので、助かりました。基本的なことですが、周りの方々に感謝することの大切さも身に染みました。

――「撮影そのものを楽しむ現場づくり」は、藤井監督にとって意図したものなのでしょうか?

藤井 今回の現場でつらかったこと……きっと、探せばあるはずなんです。でも覚えていないってことは、それだけこのキャストとスタッフで映画を撮ったこと自体が楽しかったんだろうな、と。

たとえば電車のシーンもそう。思い返せば大変だったはずなんです。トンネルの長さに合わせてセリフを言わなきゃいけないとか、タイミングを合わさなきゃいけない時点で大変ですよね。一度外したら、また撮り直しになるわけですから。

でも結局は、大人が集まって文化祭をやっているような一体感、団結が、映画作りには大事だと思うんです。そこに俳優部が加わって、さらにカッコよく、より良い映画をつくる土台が固まる。そのための現場にしていきたいな、と常々思っています。

旅は、肩書きを失える

――道枝さんは、幸次のバックパッカーとしての生き方について、どう思いますか?

道枝 幸次自身も言っていたように、旅をしながら生きるって「自分探し」だと思うんです。一回きりの人生なんだから楽しみたいっていう、18歳ながら達観した考えを持っている幸次を演じながら、狙わずとも出会った人の背中を押しているところも含めて、やっぱり素敵な青年だな、と思いました。

――いわば幸次は「名言製造機」と言えるくらい、短い時間で印象に残る言葉をたくさん口にしていますよね。

道枝 本当にそう思います。きっと幸次は、自分として生きる人生はこの一回きりだとわかっていて、時間を無駄にしたくないと思っている。自分を客観的にも主観的にも捉えられているし、僕自身も、彼の「やりたいことは全部やりたい」っていう気持ちには共感します。

できる限り、応援してくださる皆さんの期待に応えたいと思っていますし、一度きりの人生なら悔いが残らないように、全部出し切りたいという思いがあります。

――鈍行列車での一人旅、道枝さんも興味ありますか?

道枝 あります! なにわ男子のメンバーである藤原(丈一郎)も、一人でオーストラリアに行ったみたいで。僕も憧れます。やっぱり旅って、人と人が出会う大きなきっかけにもなりますし、自分を見つめ直す機会にもなりますから。

藤井 僕はけっこう、悩んだら一人旅に出るタイプ。今回の映画も、勇気を出して台湾に留学して出会った人たちがチャンスを繋いでくれました。出たとこ勝負の人生が、さまざまな出会いを生んでくれたんだと思います。

みっちー、旅はいいよ、肩書きを失えるから。みっちーはもう、日本じゃ普通に出歩けないと思うけど、南米とか行っちゃえばわからないから。

道枝 そっか、何も気にせず歩けるんですね。

藤井 普通にスーパーとかファーストフード店とかに行って、普段はできないようなシンプルな「日常」が送れる。ただ場所が変わるだけで、文化の違いも知れるしね。海外に一人でいたら、なんでも自分で解決しなきゃいけないから、精神的にも強くなれる気がする。

みっちー、ドローンが趣味だって言ってたよね。僕はぜひ、みっちーに世界一周してもらって、各地でドローンを飛ばしまくってほしいな。

道枝 いいな、やってみたいです! 海外だったら、もちろんこの映画の舞台でもある台湾にも行ってみたいですし、ロサンゼルスにも行ってみたい。高校のときの修学旅行先がロスだったんですけど、お仕事で行けなかったのでリベンジしたいです。あとは、ドローンを飛ばすならウユニ塩湖で絶景を撮りたいな。飛ばせるのかどうかわからないけど(笑)。

藤井監督、道枝駿佑に全力で謝罪?

藤井 実は僕、みっちーに謝りたいことがあるんです。

道枝 え、なんですか!? 何かありましたっけ。

藤井 みっちー、打ち上げに来てくれたでしょう。本当にうちのチームの打ち上げって、段取りと民度が低すぎて……大学のサークルの飲み会みたいな感じだから。みっちーにとっては、20歳になって初めてお酒を交わす打ち上げの場だったらしくて、もうほんと、すみませんでした。

道枝 いやいや、楽しかったですよ!

藤井 僕だったら「もう二度と打ち上げなんか行きたくない!」と思うくらいだったのに、ちゃんと真ん中にいて、その場のスタッフみんなに優しく接してくれて……。そのあと何とか名誉挽回しようとして、みっちーに「ご飯に行く?」って誘ってるうちに、お互い忙しくなってきちゃって。今度あらためて、もうちょっと良い打ち上げをしたいです。

道枝 撮影のときはなかなか喋れなかったけど、打ち上げで初めてお話できたスタッフさんもいらっしゃって、すごく楽しかったです。

藤井 みっちーの日頃の「皆さんの期待に応えたい」っていう姿勢は、打ち上げの場でも十分伝わってきました。キャストやスタッフ、分け隔てなく全員に目線を合わせてくれて。やっぱりスタッフのなかには、キャストには声をかけづらい心理があるかもしれないけれど、みっちーは常にフラットだから心地よくて。

みっちーには恩があるので、もし彼から「この作品で監督決まってないんですけど」って声をかけてもらえたら、どんな作品でも手伝う気持ちでいますよ。

道枝 こちらこそ、ぜひお願いします!

取材・文:北村有 撮影:小川遼
ヘアメイク:(藤井監督)西田美香(道枝さん)三浦由美
スタイリング:(藤井監督)皆川bon美絵、(道枝さん)井元文子(FUMIKO INOMOTO)

<作品情報>
『青春18×2 君へと続く道』

2024年5月3日(金・祝) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ

(C)2024「青春18×2」Film Partners

公式サイト:
https://happinet-phantom.com/seishun18x2/

すべての写真(8)を見る

© ぴあ株式会社