『虎に翼』高橋努のアウトローなカッコよさ 恐ろしく響く「この国はどんどん傾いていくぜ」

『虎に翼』(NHK総合)第23話で、寅子(伊藤沙莉)は穂高(小林薫)に連れて行かれた法曹会館のラウンジで、共亜事件被疑者の弁護を引き受けている弁護士たちに訴えかけた。

「法は強き者が弱き者を虐げるためのものじゃない。法は正しい者を守るものだって、私は信じたいんです!」

寅子は直言(岡部たかし)の無罪を主張するため、積極的に動く。寅子は新聞記者の竹中(高橋努)に声をかけ、「世の中の目が少しでも変われば……」と事件のことを記事にしてもらおうとする。

高橋努が演じる竹中は、女子部の寅子たちのことを皮肉に書き立てるゴシップ記事を書く記者といった印象が強いが、第23話では報道の世界に身を置くことで各界に通じている彼の切れ者な一面が垣間見えた。

竹中は寅子に「ガキが足突っ込んでいい事件じゃない。そんな記事が出たら、お前もどうなるか分からねえぞ」と忠告し、記事にしてほしいという寅子の願いを退けた。竹中は引き受けなかったが、その後、他の新聞記者が寅子に声をかけ、寅子は記事掲載にこぎつける。

ある日、寅子が花岡(岩田剛典)とともに署名運動をしていると、見知らぬ男が2人に襲いかかった。署名を奪い去ろうとする男たちから2人を救ったのはなんと竹中だ。「は~い、そこまで~」と言って現れた竹中は、襲いかかってくる男を軽々投げ飛ばし、牽制する。暴漢が逃げていくと、散らばった署名を集める寅子に向かって「言ったろ。ガキが足突っ込んでいい事件じゃない」と再度忠告した。

本作の公式ガイド『連続テレビ小説 虎に翼 Part1』(NHK出版)で高橋は、「寅子を追いかける新聞記者として、その時代の風刺の一つになれたらいいな、どこかアウトローなやさぐれ感が出せればいいなと思っています」とコメントしている。高橋が演じる竹中は、まさにアウトローな佇まいだが、彼が新聞記者として批判的な目を向けるのは決して寅子たち女子部の学生たちばかりではないことが、寅子に向けて発せられた言葉からうかがえる。

「お前の父親なんて最初から誰も見ちゃいない。ただ、ああいうやつらは小さな火の粉も全力で消しにかかるのさ」
「内閣を総辞職させたい奴らが共亜事件を起こしたんだよ」
「俺の見立てじゃ……検察畑出身の貴族院議員、水沼淳三郎辺りだろう」

第21話で、検察の日和田(堀部圭亮)から報告を受ける水沼(森次晃嗣)の姿が描かれている。報道の世界に身を置く竹中には、真実を求めて闘う寅子がまだ太刀打ちすることのできない、国の闇が見えているのだ。

竹中は「お前がピ~ピ~騒いだところでどうにもならない。目障りだからこれ以上動くな、動くと死ぬぞ」と気だるげな言い方で警告する。だが、演者である高橋のまなざしには寅子を純粋に心配する心情もうかがえた。SNSでも竹中の言葉に「忠告と言うより、助言のように感じた」「記者の竹中さん、正義感は持ち合わせてるんだ。 見直したわ」「記者の竹中さん、いずれ強力な仲間になってくれそうな……」といった声が見られた。

そんな竹中は劇中で「この国はどんどん傾いていくぜ。ハハ」とニヒルに笑っていた。やさぐれた物言いだが、竹中の切れ者な一面が見えた今、そして歴史を知っている視聴者にとって、その言葉の意味は恐ろしく響いたことだろう。
(文=片山香帆)

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