ガザ南部ラファ侵攻、休戦合意の「有無にかかわらず」実施 イスラエル首相

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は4月30日、イスラム組織ハマスとの戦闘休止合意の有無にかかわらず、パレスチナ自治区ガザ地区南部の街ラファへの侵攻を開始すると述べた。

イスラエルとハマスの間では、ガザ地区での戦闘休止と、イスラエル人人質の解放をめぐる合意が模索されている。

しかし、ネタニヤフ首相は人質の親族と面会した際、「合意の有無にかかわらず」侵攻すると述べた。

アメリカは先に、民間人が適切に保護される計画のないラファ侵攻には反対だと、イスラエルに改めて警告していた。

米ホワイトハウスの声明によると、ジョー・バイデン米大統領は4月28日にネタニヤフ氏と電話会談し、ラファについて「明確な立場を繰り返し伝えた」という。バイデン氏は以前、ラファへの侵攻は「レッドライン(越えてはならない一線)」だと述べていた。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は30日、ラファへの攻撃は「耐えがたいエスカレーション」になるだろうとし、「イスラエルに対して影響力を持つすべての人々が、それを阻止するために全力を尽くす」よう求めた。

ラファには現在、ガザの人口250万人の半数以上が集まっている。他の地域での戦闘から逃れてきた人たちで街は過密状態で、家を追われた人々は食料や水、薬が不足していると話している。

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区を拠点とするパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は29日、ラファ侵攻は「パレスチナ人の歴史上最大の大惨事」となるだろうと述べた。

合意すれば「侵攻見送り」とも報じられる中

イスラエル情報筋が29日にロイター通信に語ったところによると、ハマスとイスラエルとの戦闘休止合意が成立すれば、ラファ攻撃計画は見送られ、「平穏持続期間」が優先されるという。

28日には、イスラエルのイスラエル・カッツ外相が、「合意が成立すれば、我々は(ラファ)作戦を中断する」と述べていた。

ところが、ネタニヤフ氏は30日、イスラエルがラファですべての目的を達成するまで戦闘は続くと主張した。

「すべての目標を達成する前に戦闘を停止するという考えは論外だ」

イスラエル首相官邸の声明は、「我々はラファに入り、完全な勝利を達成するために合意の有無にかかわらず、そこ(ラファ)にいるハマスの大隊を排除する」としている。

また、人質の家族はネタニヤフ氏とツァヒ・ハネグビ国家安全保障顧問に対し、強まる国際的圧力を無視して戦いを続けるよう求めたという。一方で、別の多くの人質家族は、いかなる犠牲を払ってでも愛する人を取り戻すための合意に応じるよう、政府に対して公然と抗議している。

昨年10月7日のハマスによる前例のないイスラエル攻撃では、253人が人質とされた。このうち約130人がいまも行方不明で、少なくとも34人は死亡したと推定されている。

アントニー・ブリンケン米国務長官は29日、イスラエルの「極めて寛大な戦闘休止の申し出」をハマスが受け入れることを望むと述べた。

こうした中、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長は、迫りくる侵攻がラファの人々を「絶え間ない心的外傷性ストレス障害」の状態に陥れていると警告した。

「人々はまだ、ラファからの避難を求められていないが、今週中に合意に至らなければそうなりかねないという雰囲気がある」と、ラザリーニ氏は記者団に語った。

「現地にいる私の同僚たちからは、人々が絶え間なく心的外傷を受けていると聞いている」

ICC、イスラエル関係者に逮捕状を準備か

ネタニヤフ氏は、オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)がイスラエル政府の複数の指導者や軍司令官に対し、ガザでの戦闘に関連した容疑で逮捕状を発行する準備を進めている可能性があるとする最近の報道について、「歴史的規模のスキャンダル」だと非難した。

「一つはっきりさせておく。ハーグでもほかのどこかでも、いかなる決定も、この戦闘におけるすべての目標を達成するという我々の決意を損なうことはない」

「イスラエルは自由世界の指導者たちが、このスキャンダラスな手段に、イスラエルだけでなく世界のすべての民主主義国家の自衛能力を損なう手段に、強く反対することを期待している」と、ネタニヤフ氏は述べた。

これまでのところ、ICCのカリム・カーン検察官からの発表はないが、同検察官の事務所は2014年6月以降、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区、東エルサレム、ガザ地区における戦争犯罪疑惑について正式な調査を行っている。昨年10月7日のハマスの攻撃と、それに続くガザでの戦闘も調査対象になるとカーン氏は認めている。

ICCの設置法「ローマ規程」は、国際犯罪の責任を負う者に対して自国の刑事裁判権を行使することが、すべての国の義務だと定めている。イスラエルは「ローマ規程」に批准したことが一度もない。ネタニヤフ氏はICCには「何の権限もない」と主張している。しかしICCは2015年、パレスチナ側が批准しているためICCには管轄権があると判断した。

ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は29日、アメリカはICCに管轄権があるとは考えておらず、調査は支持しないと述べた。アメリカはイスラエルと同様に「ローマ規程」に批准していない。

(英語記事 Gaza: Israeli PM Netanyahu says Rafah attack will happen regardless of deal

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