現代に特産品が残るトウカイの「宿場町」【東海道五十三次の内の「二川宿」(愛知県豊橋市)】~広重に描かれたことによって定番になった「二川宿の柏餅(かしわもち)」~

古くからヒトやモノが往来した街道沿いで、旅人のために、宿や人馬の輸送機関(問屋場)を置いた集落「宿場町」。東西を結ぶ交通の要所でもある東海エリアには多くの街道が通り、宿場町が点在していました。旅人相手に、グルメや生活用品をはじめとする特産品を売り出す宿場も少なくなく、各宿場の「名物」として、旅の楽しみにもなっていました。ここでは、かつての「名物」が今も残るトウカイの宿場町を紹介します。

東海道五十三次の内の「二川宿」(愛知県豊橋市)~広重に描かれたことによって定番になった「二川宿の柏餅(かしわもち)」~

旧東海道「二川宿」の面影が残る町並み。

東海道「二川宿」(現・愛知県豊橋市)は日本橋から数えて33番目の宿場で、東隣の「白須賀宿」(現・静岡県湖西市)から約5.8km、西隣の「吉田宿」(現・愛知県豊橋市)へは約6.1kmという位置にあり、遠江(静岡県西部)と三河(愛知県東部)の境界に当たります。

宿場の規模としては小さい方で、幕末には、本陣と脇本陣が各1軒と旅籠屋が25軒、商家は71軒(慶応3年=1867年)、人口は1440人(文久元年=1861年)だったという記録が残っているそうです。(二川本陣資料館ワークシートより)

「柏餅(かしわもち)」が二川宿の名物とされたのは広重の浮世絵が原因!?

二川宿の名物として、浮世絵などでよく目にするのが柏餅です。

柏は新芽が出るまで古い葉が落ちないため、子孫繁栄を願う武家の間で好まれたそうで、端午の節句に柏餅を食べるという風習は江戸時代に武家から発生し、庶民に広まったといわれています。

江戸時代、東海道の各宿場では、参勤交代やお伊勢参りで行き交う旅人をもてなすための名物があり、そんな名物の一つとして、「白須賀宿」と「二川宿」の間にあった「猿ケ馬場」の柏餅はその名を知られる存在だったようです。

東海道五十三次の「二川宿」を紹介したページ左端に「名物かしは餅」の看板が出ている店があり、立ち寄る旅人の姿が描かれています。広重『東海道五拾三次 二川・猿ケ馬場』,保永堂. 国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1309880

上の画像ではわかりにくいですが、「二川」のすぐ左に「猿ケ馬場」と記されています。

実は、猿ケ馬場は二川宿よりも、東隣の白須賀宿に近い場所にあったそうなのですが、なぜか歌川広重は『東海道五拾三次』(天保4年=1833年刊行)で二川宿に猿ケ馬場と名物柏餅を描いています。その後、東海道の絵には二川宿と柏餅がセットで描かれることが多くなったとか。

各宿場の名物が描かれた双六(すごろく)でも柏餅は登場しており、「五十三駅春興双陸」や「東海道五十三次名物寿語六」には二川の名物として、「東海道遊歴双六」には白須賀の名物として描かれています(江戸後期〜明治時代刊行)。

歌川広重が描いた『東海道五十三次名所図会』白須賀宿(右)と二川宿(左)のページ白須賀宿のページには汐見坂を行き交う人馬が、二川宿のページには「名物柏もち」「名物かしは餅」と書かれた店が軒を連ねている様子が描かれています。広重『五十三次名所図会 卅三 白須賀,五十三次名所図会 卅四 二川』,安政2.国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1309767
柏餅(イメージ/写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)豊橋周辺や静岡県の湖西地域では、餅が白い普通の柏餅のほか、餅が茶色の「※もろこし柏餅」も一般的に和菓子店で販売されているそうです。※モロコシはイネ科の一年草で、別名タカキビ。
江戸時代の二川宿のジオラマ(写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)東西約1.3km。本陣など、公的な施設は中央辺りに固まっていたそう。

江戸時代の本陣、旅籠屋、商家(改修・復元)を見学できる貴重な宿場町

宿場の中ほどにある二川宿本陣資料館(写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)市指定史跡である二川宿本陣を保存・公開するとともに、江戸時代の交通をテーマとした博物館として1991年に開館しました。敷地内には本陣の建物ほか、改修復元した旅籠屋「清明屋」もあります。※本陣とは、大名や貴人のための宿泊施設。旅籠屋は、庶民のための宿泊施設。※2024年4月現在、リニューアル休館中(2024年1月9日〜11月2日)。
改修復元された商家「駒屋」(写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)二川本陣資料館がリニューアル休館中も開館しており、主屋のほか、茶室や離れ座敷、蔵などがあり、無料で見学できます。
「駒屋」の敷地内にあった蔵を活用した「駒カフェ」(写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)
現在も残る東海道の遺構「枡形」(写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)東海道では、外敵が進入しにくいように宿場内の街道を二度直角に曲げた「枡形」が設けられていたそうで、二川宿には当時の名残りが色濃く残っています。
旧東海道「二川宿」の面影が残る町並み(写真提供:豊橋市二川宿本陣資料館)江戸時代の町割はわかっているので、建物は新しくなっている住宅でも、住人のご協力によって、「旅籠屋○○○屋」などという札を掲出している建物があったり、軒先に季節の吊るし飾りをぶら下げるなど、地域が一体となって旧東海道の雰囲気や文化の維持に努めていらっしゃるようです。

また例年、二川宿の町並みの両側を創作灯篭で飾る「灯籠で飾ろう二川宿」(7月の最終土曜の夜)や、「二川宿本陣まつり・大名行列」(11月上旬の日曜)など、江戸風情を体験できる貴重なイベントも行われています。

特に「大名行列」では、吉田城主・松平伊豆守の大名行列を模した時代風俗絵巻を再現して、やっこや腰元、殿さま(松平伊豆守)、姫たちが街道を練り歩き、往時をほうふつとさせます。
※2024年は、二川本陣資料館のリニューアル休館が明ける11月3日に実施予定。

◎商家「駒屋」&蔵カフェ「こまや」(愛知県豊橋市二川町字新橋町21番地)
開館時間/午前9時半~午後5時
休 館/月曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)、年末年始(12月29日~1月1日)
入 館/無料
電話番号/0532-41-6065

※原則毎週土曜午前中は煎茶体験(和菓子付き400円・予約不要・不定休)を実施。
※2024年5月15日(水)、柏餅を作る「和菓子作り体験講座」(1000円・5月2日から電話申し込み)を実施予定。

※掲載情報は公開日時点のものとなります

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