焦点:揺れる米国市場、運用会社は欧州・新興国への資金避難検討

Naomi Rovnick

[ロンドン 1日 ロイター] - 米国の株式・債券市場が米利下げ後ずれ観測を受けて下落する中、国際的な資産運用会社は、資金の避難先として欧州市場や新興国市場に注目している。

米S&P500指数と米国債は4月に月間ベースで昨年9月以来の大幅な下げを記録。運用会社はトレンドが反転しない場合に備えて損失を限定する戦略を練っている。

約1兆5000億ドルを運用するリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)のソニア・ラウド最高投資責任者(CIO)は、米株高で長年にわたり利益が出ていたポートフォリオの再構築につながる可能性があると指摘。「今後は分散投資の重要性が格段に高まる」とし、グローバル株式への投資で高いリターンは見込めないが、米国株より欧州株に投資妙味があると見方を示した。

欧州最大の資産運用会社アムンディのシニア・マルチアセット・マネジャー、アメリー・デランビュール氏は、長期的には米国株の上昇を依然予想しているが、10%の下落に備えてプットオプションを購入したと発言。一部の資金を米国債からユーロ圏債券にシフトしたことも明らかにした。

S&P500指数は4月に4.2%下落している。

<欧州への投資>

ピクテ・アセット・マネジメントによると、2020年以降のMSCI世界株価指数のドル建てプライスリターンの約8割は米国株によるものだ。

特に人工知能(AI)ブームで急騰した超大型ハイテク7銘柄「マグニフィセント・セブン」は、昨年のS&P500指数のトータルリターンの6割以上に寄与した。

S&P500指数のバリュエーションは依然高く、LSEGのデータによると、株価収益率(PER)は欧州STOXX600指数を7%ポイント近く上回っている。

運用会社はSTOXX600指数について、銀行株やエネルギー株など、世界経済の安定成長で恩恵を受け、しかも金利上昇で打撃を受けにくいバリュー株が多いことが魅力だと指摘。

ピクテ・アセット・マネジメントのチーフストラテジスト、ルカ・パオリーニ氏は「われわれは欧州へのエクスポージャーを増やしている。マクロ見通し全般は、景気に敏感で割安感のあるバリュー株にとって好ましいものだ」との見方を示した。

欧州の資産会社カルミニャックのクロスアセット部門責任者、フレデリック・ルルー氏によると、同社は4月に一部の米ハイテク株の保有を減らし、現在は欧州への投資を検討している。

同氏は「現在の状況で欧州への分散投資は非常に理にかなう。(米国で)インフレが再燃するたびに欧州市場が大きくアウトパフォームする展開になるだろう」と述べた。

ユーロ圏ではインフレが鈍化しており、欧州中央銀行(ECB)が6月6日に利下げを開始する見通しだ。

投資銀行ベアードの米国株担当マネジングディレクター、ロス・ヤロー氏によると、グローバル投資家はバリュエーションの観点から米国株に総じて否定的だが、米株式市場は高い増収率を背景に過去16年間のうち12年間で欧州市場をアウトパフォームした。

<米国債に弱気>

米国債インデックスは4月に約2%下落。昨年9月以来の大幅な下げを記録した。

アムンディのデランビュール氏は、依然として米連邦準備理事会(FRB)の利下げを予想しているものの、「米債券市場の急落が終わる」のを待つため、ここ数週間でユーロ圏国債を買い増したと述べた。

市場は年内の米利下げ幅を35ベーシスポイント(bp)と予想しているが、ECBについては65bpの利下げが織り込まれている。

バークレイズのストラテジストによると、米政府債務は高水準で増加傾向にあるため、たとえFRBが利下げしても米国債が大幅に上昇しない可能性がある。

一方、新興国債券を買う動きも出ている。インド、インドネシア、ベトナムなど力強い経済成長への期待が背景だ。

LGIMのラウド氏は、インド国債への投資に前向きだと発言。インド国債は年内に主要債券インデックスに採用される予定で、海外勢の買いが入っている。インド経済の高成長も追い風だ。

マニュライフのマルチアセット・ソリューション担当CIO、ネイサン・トーフト氏は「債券では、リスクの観点からドル建て新興国債に最高の投資機会があると考えている」と述べた。

<難しい分散投資>

ただ、米国市場から資産を分散するのは容易ではないかもしれない。

ベアードのヤロー氏によると、STOXX600指数はS&P500指数に連動する傾向があり、1986年以降の両指数には88%の相関関係がある。

米国債も他の債券市場への影響力が大きく、バークレイズによると、米10年債利回りが1%ポイント上昇すると、通常、他国の債券利回りも56bp上昇する。

カルミニャックのルルー氏は「米国債を減らして他国に投資するのは決して簡単ではない」と指摘。「ただ、相関関係はあっても、どこか別の市場でアウトパフォームできる瞬間はある」と述べた。

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