足りない音は想像で「duo 20th Anniversary Live ROLLY & 谷山浩子」ふたりだけのステージ【ライブレポート】

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およそ6年間、この共演を待ちわびた人たちで客席はいっぱいに埋まった。渋谷duo MUSIC EXCHANGEの20周年を記念した特別編成のライブシリーズ、今夜の組み合わせはROLLYと谷山浩子だ。2012、13年にROLLY率いるTHE卍(The MANJI)と共に、『ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団』『暴虐のからくり人形楽団』の2枚の傑作アルバムを生み、双方のファンに熱烈に支持された、あの素晴しい音楽をもう一度。

サポートメンバーを入れないふたりだけのステージは、1曲目「ROLLY&谷山浩子のからくり人形劇団」で賑やかにスタート。谷山浩子はグランドピアノを弾いて明るく歌い、ROLLYはギターシンセサイザーを駆使し、様々な効果音を繰り出しながら妖しく歌う。混ざらなそうな声がなぜか混ざる、不思議な輪唱が魅力の1曲。

「今日はドラムもシンセもベースも誰もいない。でもなんとかなるかな」(谷山)

「大丈夫です。すべてみなさまの頭の中で再生されますから」(ROLLY)

足りない音は想像で、これが本当のファン参加型ライブかも。「KARA-KURI-DOLL~Wendy Dewのありふれた失恋」は、谷山浩子が声優・豊崎愛生に提供した曲で、「ROLLYが絶対気に入るはず」と思いながら作ったというエピソードはファンにはおなじみ。謎のエフェクトや奇妙なセリフを曲中に放り込み、ファンタジックな物語をポップアートに変えるROLLY。曲間のMCも自由奔放、それぞれの作曲スタイルの話、昔の洋楽の話、古いドラマや映画の話と、ころころ転がってどこまで行くやらわからない。それが楽しい。

ここからしばらく、ふたりの美学の共通点、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』にちなんだ世界をたっぷりと。「意味なしアリス」では、ハードロックなROLLYのギターがうなりを上げる。組曲として繋がった「公爵夫人の子守唄」「ウミガメスープ」「ハートのジャックが有罪であることの証拠の歌」は、ROLLYの演劇的歌唱、幻惑的ギターをたっぷりフィーチャーしてシュールな魅力を醸し出す。ここは渋谷の繁華街、でも心は小劇場のアングラ芝居。

『不思議の国のアリス』にまつわるトークがひとしきり盛り上がると、あっという間に第一部は残り2曲。ここで主役を張るのはROLLYで、歌うは谷山浩子の初期の代表曲「あたしの恋人」「あやつり人形」だ。過去の共演ライブでもファンの評判が高く、「この2曲はさしあげます」(谷山)というお墨付きをもらっての熱演は、もはや完全にROLLY流に魔改造された見事な出来栄え。老練なシャンソン歌手のように歌い、円熟の役者のように語るROLLYの、自由奔放なリズムの伸び縮みにも、しっかりと呼吸を合わせてピアノを弾く谷山浩子の存在感も素晴らしい。ROLLYと谷山浩子、それはたぶんふたりでひとつのフォース。

「duoさんの20周年おめでとうと、最初に言うのを忘れてここまで来てしまいました」(谷山)

「20周年おめでとうございます!」(ROLLY)

15分の休憩をはさみ、遅ればせながらの祝福メッセージから始まった第二部。第一部は「からくり人形楽団」として演奏経験のある曲が並んだが、ここからの第二部は、初めて演奏する曲も登場する。「甘い誘惑」はTHE卍のファーストアルバム収録曲で、トラッドフォークを思わせる繊細な美しいメロディを、ギターでしっとりと弾き語るROLLYと、音数少なく寄り添うピアノ、ふたりのハーモニーがぴたりとハマった。ように聴こえたが。

「リハと違う(笑)。大サビ、下に行くって言ってたじゃないですか。ユニゾンになっちゃった」(谷山)

それもいいけどね、と微笑み「私はソロコンサートで好き勝手にやっているとよく言われるけど、どれだけ自分が真面目かわかった(笑)」と、追い打ちをかける浩子さん。「すみませんでした」と、はにかむROLLYさん。まるで自由奔放な弟と、大らかに見守る姉。互いに強固な世界観を持ちつつ、ふわりと溶け合う優しい世界。

ROLLYの最新曲「福よせ雛であいましょう」は、名古屋で生まれた「福よせ雛プロジェクト」を応援するために作られたオリジナルソング。雛人形をテーマにした明るくノスタルジックな曲調で、ピアノとギターのシャキシャキした絡みが爽快な曲だが、アフタートークでは「うれしいひなまつり」「赤とんぼ」「赤い靴」など古い童謡・唱歌が持つ不気味さや、アンデルセン童話「パンを踏んだ娘」や小川未明「赤い蝋燭と人魚」など、幼少期のトラウマ級の暗い童話のエピソードが盛り上がって止まらない。ふたりがピンと来るポイント、やはり似ている。

ROLLYが所属するすかんちの楽曲「石見銀山ねずみとり」も、幼少期に見たお祭りの記憶を閉じ込めた美しくせつないスローナンバー。谷山浩子も「いい歌ですね」とひとこと。このあとも昔のマンガの話題などに花が咲くのだが、MCだけでもレポートがいっぱいになりそうなので、先を急ごう。名盤『浩子の宅録』収録の「春のさけび」は、「ラモーンズ風のリフ」(ROLLY)を付けた軽快なロックナンバーへ生まれ変わり、ROLLYが歌う谷山浩子楽曲「鏡」は、じっとりと重厚なシアトリカルバラードになった。ひとり芝居のようなROLLYのセリフもばっちりハマる。昭和歌謡から懐かしの映画へ、1曲終わるごとにトークの話題は増え続ける。時間がいくらあっても足りない。

「カズオくんと不思議なオルゴール」は、アルバム『ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団』では谷山浩子が歌っていたので、ROLLYのリードボーカルが聴けるのはライブだけ。ROLLYの本名・カズオを主人公にしたダークファンタジーな曲想、もの悲しいワルツのリズム、雷鳴のようなエフェクト、儚げなハーモニー。哀愁あふれる名曲だ。

「楽しい時間は一瞬のうちに過ぎ去るものでございます。終わりが近づいてきましたよ。嫌ですね」(ROLLY)

本当に嫌そうな駄々っ子ROLLY。その思いを叩きつけるように、「さよならDINO」で恐竜の咆哮のように響くギター、エモーションみなぎる歌を叩きつけるROLLY。さらに名残を惜しんでしゃべり続けるROLLYに、「ROLLYさんって、公園でみんなで遊んでても最後まで残ってる子じゃなかった?」(谷山)と鋭い指摘が飛ぶ(ROLLYの答えは「よくご存じで」)。ずっと遊んでいたいのはこちらも同じだが、もう大人だから我慢しよう。ラスト曲は、ROLLYが子供の頃に姉と一緒に聴いていたという思い出の曲「ねこの森には帰れない」だ。ROLLYの愛するクイーン風のリフを散りばめた、奔放なアレンジが強い高揚感を運ぶ。ふたりの歌とピアノとギター、それだけが生み出す世界は、どこまでも広く豊かなもの。

「僕もいろんな方と一緒にやっていますが、谷山さんのお客さんが僕のほうに来てくださって、僕のお客さんが谷山さんのほうにも行って。そんなふうに融合したのは初めてです」(ROLLY)

アンコール、双方のファンの温かさと柔軟さを讃えあう、ふたりの言葉が尊い。共感と平和に包まれた空気の中で、ミラーボールがぐるぐる回る。荒木一郎のカバー「今夜は踊ろう」は、全員の手拍子が一体感を生む、絵に描いたような大団円になった。笑顔で手を振る谷山浩子、エスコートして送り出すROLLY。それはこのふたりにしか描けない音空間、歌の力を、心ゆくまで味わえた至福の3時間。

デビュー34周年、そして還暦イヤーを経過中のROLLYは、このあともライブや舞台で大忙し。谷山浩子も何本かのライブを経て、毎年9月恒例「猫森集会」の開催がこの日発表された。走り続けていれば、また会う日もきっと来るだろう。次は6年も間をあけず、素敵なデュオがまた見たい。

Text:宮本英夫 Photo:後藤渉

<公演情報>
「duo 20th Anniversary Live ROLLY & 谷山浩子」

2024年4月25日(木)
会場:Shibuya duo MUSIC EXCHANGE
出演:ROLLY / 谷山浩子

セットリスト01. ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団02. KARA-KURI-DOLL~Wendy Dewのありふれた失恋~03. 意味なしアリス04. 公爵夫人の子守唄05. ウミガメスープ06. ハートのジャックが有罪であることの証拠の歌07. あたしの恋人08. あやつり人形09. 甘い誘惑10. 福よせ雛であいましょう11. 石見銀山ねずみとり12. 春のさけび13. 鏡14. カズオくんと不思議なオルゴール15. さよならDINO16. ねこの森には帰れないEN1. 今夜は踊ろう

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